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映画感想『カラオケ行こ!』


ネットフリックスで配信が開始されましたね。公開当時はかなり盛り上がっていた映画です。観てみました。

ネタバレ気にせず


想像以上に現実的な作品だと感じました。

というのも、ただの少年にヤクザが歌を教えてもらうという発想は結構飛躍していますが、展開自体は、ぶっ飛んでいそうでぶっ飛んでいないのです。

聡実の教えで飛躍的に狂児の歌が上手くなることもなければ、狂児のおかげで聡実が周囲の関係を改善していくこともありません。聡実に関しては、部長でありながら合唱部をサボったことで関係が拗れていきますし。
ですが、狂児という誰よりも優しく、人間性を真っ直ぐに見つめて接してくれる人間とそばにいる時間は、青春時代が抱える痛烈な苦しみの中で、温かい逃げ場になっていて、聡実にとっての大切な時間と空間に間違いありませんでした。

商業映画においては、本来逃げ場に過ぎなかった場所が、あらゆる問題を解決してしまうことがあります。今回で考えるならば、狂児とのカラオケがいい効果をもたらし、合唱部での文化祭も成功して、狂児のカラオケが成功し、映画部も廃止にならない、といったものです。いわゆるご都合主義。
ですが今作は、聡実は合唱部から逃げ出すわ、狂児はカラオケ大会で負けるわ、映画部は廃止ほぼ確定で、もう散々です。

これがいいんです。

確かにカラオケの特訓も、聡実の合唱部に対する接し方も、結果を出すための過程ではありませんでしたが、結果以上に、聡実と狂児が出会ってカラオケに行っていたという過程にはるかな価値がある、という結末が、現実的で気に入りました。それほどまでに二人の関係が素敵でした。

もっとコメディに振り切った大団円の映画だと思っていたので、正直驚きました。

とは言いつつも、合唱部には何の変化もないのはやや皮肉が効きすぎた現実だと思いますね。部長である聡実が来なくなっても、先生方は放任主義で何も言わず、部員の雰囲気もほぼ変わらずに進んでいきます。聡実の後輩のソプラノ歌手だけうるさいですが、表現が非常に下手で、副部長によってただの一部員に調教されてしまいますし、僕の目からしたら文化祭までは聡実を見限っていて、卒業式には急に涙を流して聡実にくっついているのは、感情の振れ幅が急すぎて、意味不明の極みでした。
そこから僕の中で導き出された現実は、人が一人抜けたところで、部活なんて何の影響もない、という現実です。お前が部長だ、お前がいなければ成り立たないなんて表面上では言われても、実際いなくなったら、いなくなったまま平然と部活は進んでいくんです。そして卒業式などの区切りでは、美談でもって締めくくる。どうせ長くても3年間の学生生活です。部活なんてこんなものだ、という冷たさを感じ、どこが自分の経験も蘇ってきて怖かったですね。
もちろんその部分も含めて面白かった、という話ですけどね。

綾野剛の演技はさすがでしたね。優しいし、怖いし、純粋だし、歌が絶妙に下手だし、各魅力を各場所で完璧に醸し出していました。

聡実と狂児、愛おしい。

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