見出し画像

小説感想『雲上的少女』

ネタバレありです

中国の作家、夏伊が16歳に書いた、北京の学校に通う少女の恋愛を描いた物語です。

共感と、別離....

・共感

序盤から中盤までは、共感の嵐でした。日本と中国では明らかに心理描写の仕方や、心の運び方が違いますが、この小説の心理描写は、痛烈に心をえぐり、痛いけれど多分の読み応えを感じました。最もそれは、中国のことを多少なりとも知っている僕だからこそ感じた強烈な閃光かもしれませんが、日本の読者もきっと、心の傷跡を触られるような感覚を抱くと思います。

特に序盤。主人公ルオシンがカイフォンと出会い恋に落ちるまでの、ルオシンの心理というのは、詳しくは言いたくないですが、僕が経験している恋愛になぞられて、度々本を読む手を止めて、自分自身の痛みや幸せと向き合わせました。皆さんもそうなるはずです。個人的かつ不変的な心の動きがそこにあります。

次に中盤は、ルオシンを2人のイケメンが取り合う展開になって、当然僕はイケメンとはかけ離れた顔立ちですし、2人に取り合われる経験なんぞこれっぽっちもありませんから、ストーリーとしては既に雲の上に行ってしまった感じてすが、やはり、心理の推移は僕の側にいてくれました。

突然怒って
怒ったと思ったら手を差し伸べて、
授業をサボって
かと思えば授業だけに集中し始めて

文字だけ読むと、矛盾した行動で、こんなことされたらムカつきますが、読んでいる間は、この奇怪な行動がとてもよくわかるのです。不思議ですよね。実際僕も、僕なりの筋道があって、矛盾の行動を本能的にやってしまうことがありました。無論それは相手を傷つけてしまうのですが、外側からの愛に圧迫され、内側は愛がなんなのかわかっていないという状況下で、一体どう正解の行動を取ればいいのでしょう。

そんなわけで、かなり共感できる部分があり、この盛大にぐちゃぐちゃしたルオシンと過去への自責の念に囚われる僕の感情をどういう結論に案内してくれるのか、とても興味深く読み進めていきました。

・別離

後半になって、もちろん前半部でも記述はされていたのですが、僕はとんでもないことに気が付きました。
それは、ルオシンが金持ちだということです。両親は海外を飛び回っており、ルオシンは一人暮らしですが、お金は両親から大量に送られてきます。
心理描写が秀逸で、好きなものを買って、好きなものを食べていることにはしばらく何も思いませんでしたが、突然フランスの学校に通うことを決めて、飛び立っていくラストで、いつでも逃げれるだけのお金を持った恋愛をしていたんだ、とがっかりしました。
別に悲劇を望んでいたわけではありませんが、なんというか、いわゆる僻みというやつでしょうか。なら、カイフォンとの恋愛も、2人のイケメンに取りあわれる展開も、友情の推移も、ただの甘く酸っぱい青春じゃないかと思ってしまいました。まぁ肩入れしすぎた僕が悪いんですけども、揺れ動きまくっていた感情が、急に動きを止めてしまいました。
間違いなく、貧乏な僕の僻み妬みですね。

・総括

中国の学生の、厳しい受験戦争の最中の繰り広げられる恋愛模様は、それだけで切なく、読んでいる者の心を掴む力を持っていますね。
最後の展開で感情が落ち着いた今ならストーリーの荒さや拙さがわかってきますが、やはり序盤の引き込み力は尋常ではないので、熱にうなされるように妄信的に少女の心内に入り込むことができる作品です。

最後に共感という切り口でもう一点追加すると、作中に登場する男の情けない言動もまた、自分に当てはまることが多くて、内省を促されましたね。男性のプライドの高さや、愛に対する考え方が、女性目線だとこうも時に気持ち悪く映るのだな、と感じた次第です。

こういう当たり前の違いを突きつけられるから、小説はやめられませんね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?