見出し画像

”ダーク人材”騒動への反響と研究の持つ価値について、求職者3,000人以上の話を聴いてきた立場で考える

割引あり

名古屋大学 大学院 経済学研究家准教授・鈴木智之氏が、自身アドバイザリー・フェローを務める株式会社レイルと協力して行った研究において、早期離職傾向を持った若者の予測に成功したというニュースが、NHK名古屋より発表され、大きな話題になっている。

なぜ、よく検索避けで用いられるテキストではなく敢えて画像で発表する形を取ってのは定かでないが、非常に大きな反響を呼んだ話題となった。

早期離職傾向のある若者は”ダーク人材”? 名古屋大学准教授・鈴木智之氏の発表に SNS が騒然

本研究では、早期離職傾向のある若者をダーク人材と命名し、当該研究を企業の活用や心理学・経営学の研究に役立てて欲しいとしている。

尚、本研究はAIを用いているが、AIの専門家はおろか統計学やデータサイエンスといった領域の専門家の関与については、取り立てて情報として出されていない。

あくまで心理学方面の知見を持った経済学者が、人材コンサルトや適性検査を提供している企業と組み、何らかのAIを活用して行われた研究と思われる。

教師データなど、データソースの詳細について公表されていないため、中身は定かでない。そうした状況ではあるが、NHK名古屋がニュースとして取り上げている。

個人データを用いて個人を選別することへの疑義が噴出

そもそもの話として、個人データを用いた個人の選別は、GDPR や個人情報に関する専門家など、様々な方面から問題視されている。採用に関する話題としては、リクナビによる辞退率予測が記憶に新しい。

本研究において、様々な綺麗事は並べられているが、結局のところ個人の選択に第三者の立場で介入する類いの内容であるのは明白である。加えてその根拠は不特定多数の第三者の適性検査の結果と見られる。

当事者とその結果との関連性、現実の早期退職率がどこまで認められ得るのかは定かでない。そもそも本件研究に用いられたと見られる適性検査は、特定の企業が提供している一サービスでしかない。

適性検査を提供する企業は非常に多く、それぞれがそれぞれのアルゴリズムによってサービスを組成している。同一人物が複数社の適性検査を受検した結果は一致するものと言い難い。

また、データソースとして考えたとき、今回用いられたと見られる適性検査は、メジャーサービスとは言い難い。私は採用担当者として適性検査サービスについても多少は調べた経験を持つが、今回のサービスは初耳だった。

メジャーサービスの場合、どの程度の規模感の企業が利用しているのかは、ある程度見える傾向があるが、本サービスについてはどのような企業が使っているか余り見えず、よってどのような企業との適性を元にした結果が今回の研究で用いられているのかは定かでない。

そうした研究そのものの内容に不透明さがあり、根拠としての強度が不明なものを以て、個々人の人生の選択に影響を及ぼすことが、個人情報の取り扱いとして適当なのかは、甚だ疑問である。

専門家からはデータの取り扱い・研究内容に対する疑義が向けられる

また、本研究については、データの取り扱いや研究方法自体に対して、”その道の専門家”などからも疑義が上がっている。

現実問題として、政府すら長期勤続を悪であるかのように謳う世の中において、短期離職が問題である前提に立った研究を以て”ダーク人材”と語る妥当性もどうかと感じるが、実際のところ本研究が短期離職=悪のバイアスを元に行われていることは、その内容や結論から考えて想像に難くない。

出発点にバイアスがあり、おまけにそのデータ数は頼りなく、調査期間も心もとない研究の妥当性については、経済学者以上に適切な専門性を持った別の研究組織が追って研究した方が良いのでなかろうか。

データソースとなっているだろう適性検査にしたところで、利用者の母数が多く、運用企業の幅も広いメジャーサービスを用いた方が、より確度の高い結果を求めやすいと思われる。

プレスリリースを出さない名古屋大学

それはそれとして、当の名古屋大学はNHKに取り上げられるような研究だったにもかかわらず、プレスリリースを出していないほど関心を持っていないようである。不思議としか言いようがない。単なる掲載ミスの可能性があるが、そうでなかった場合、その判断に至った考えを伺いたいものである。

適性検査サービスの認定パートナーに小山昇率いる武蔵野の名前

本研究のデータソースになったと見られる適性検査は、直近、ビッグモーターや知床遊覧船といった社会に大きなインパクトを与えた事件を引き起こした会社に対して経営指導を行った小山昇率いる「武蔵野」が、認定パートナーを担っているサービスである。

武蔵野が無脳化する組織を生んだかどうかは分からないが、関与先のビッグモーターや知床遊覧船が社会において大きな問題を起こしたことは事実である。

先述した通り、私は本適性検査サービスを寡聞にして聞いたことがなかったわけだが、その販売ターゲットが同社がよく相手にしている中小企業レイヤーであったならば、耳にしたことがなかったのも頷ける。

そもそも新卒3年以内の退職者数は非常に多い

非常に有名な話であるが、新卒社員における離職率は就職先の企業規模によって大きくことなる。

新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します

今回の研究では、400人の対象者の内、3年以内に退職すると予測した40人程度が退職したらしいが、400人の大卒の新卒社員がいたと過程したとき、101人〜223人程度が3年以内に退職する可能性がある現状、比較的デタラメな予測であっても40人程度を当てられる可能性は低くないと思われる。

そこにメジャーとは言い難い適性検査サービスの結果による特徴差がどれだけ相関していて、その予測と結果の一致に対する影響がどれだけあったのかは、非常に気になるところである。

3,000人以上の求職者の相談経験から考える早期退職の理由

ここから先は

2,917字

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?