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6月の振り返り

ついこないだ「5月の振り返り」の記事を書いたと思ったのに、もう6月も終わっていました。
2024年の上半期が終わってしまい、時のはやさに毎月やられています。
そんなこと言いながら、2024年もすぐ終わってしまうのかなって。
あまり長ったらしく話してもあれなので、今月読んだ本を列挙していきます。

1.読んだ本

本当は同著の『「感想文」から「文学批評」へ: 高校・大学から始める批評入門』の方を読もうと思っていたが、大学の図書館には『文学のトリセツ』のみしかなかったのでこの本を読んだ。率直に非常に良かった。恥ずかしながらこれまで文学の理論は全く勉強したことなかったが、何も知らなかった自分でもわかりやすかった。この本では構造主義批評と脱構造主義批評、精神分析批評、マルクス主義批評、フェミニズム批評、ポストコロニアル批評、カルチュラル・スタディーズ等の文学を学ぶために必要な理論が書かれている。少し話は変わるが、千田(2016)は文学教育がここ数十年で理論的発展がなく、個々の教員が個々の方法や嗜好にもとづいて日々の文学の授業を行っている現状を指摘している。また文学理論を学ぶことの必要性を以下のように述べている。

授業者がさまざまな文学理論を身につけておくことは常識の部類に属する。語り論、読者論、インターテクスト論、脱構築論、メディア・スタディーズ、ジェンダー・スタディーズ、ポストコロニアル・スタディーズ……等々の理論のアウトラインぐらいは踏まえておかなければ、そもそもの事前の教材研究すらおぼつかない。

千田洋幸(2016)「文学教育のリストラクチャー・序説」



文学理論を校種問わずどう授業に応用していくかが教師としての力量が試されるのである。少し話が横道にそれてしまったため、本の内容に戻る。この本の特徴はタイトルにもあるように「桃太郎」を用いてそれぞれの理論を説明してくれるところ。日本人の誰もが知っている「桃太郎」をテキストにして、それぞれの理論をあてはめてみると違った見方ができる。本書のあとがきにも書かれているが、これから文学を学ぶ人のために作られた本であり、文学の入門書となっている。
それぞれの理論を大枠をつかむことはできたが、まだ曖昧な部分があるため、他の文学理論の本で補うことが必要。またこの本で学んだ理論をどう文学の授業に落とし込んでいくかを考えなければいけない。これまで文学をあまり読んだことがなかったが、文学の魅力が理解できたのが個人的には大きかった。



またまた小林真大になってしまった、、、「文学のトリセツ」とは異なり理論というよりか語り、空間、比喩、文体、象徴など文学を読む際にどこに着目するとよいかを20にわけて教えてくれる。有名作家、有名文学のなにがすごいのか、この本に書かれた20の手法からみることでこれまでわからなかった文学の良さが見えてくる。タイトルにも「やさしい」と名のついているように全く文学が読めなくても分かりやすく解説している。これは「文学のトリセツ」にも同様ではある。20の手法を説明する際に用いられる例とした挙げられる作品は有名どころばかりで文学作品が読みたくなってくるのもこの本のよかったところ。
一言で言ってしまえば文学をより深く味わうために必要な概念を学ぶ入門書の位置づけという印象。

本書は4章構成になっており、1章がAIの進化の歴史、2章がAIは実は万能ではないということ、3章では人間がAIにできない仕事を担えるのか、4章がこれからAIと共生していくためのヒントという感じ。個人的には読むのは3章だけでよかったかなという印象。タイトルに惹かれたという人は3章読めばある程度の内容はつかめると思う。
著者が携わっている基礎的読解力を調査するリーディングスキルテスト(RST)。この調査結果から「教科書レベル」の文章が読めていない中高生が思っている以上に多いがわかった。AIと共存していく社会を考えいくのであればAIにはできない仕事につく能力を身につけることが必要になる。しかし教科書を読むことができないレベルにいる中高生が多い現状ではまずは教科書を読めるようにしなければならない。つまり一人で勉強ができるようにすることが教育では求められている。知識詰め込み型の授業ではなく、アクティブラーニング型の授業をやれとよく耳にするが、教科書を読むことができない生徒が多い場合アクティブラーニングができるのだろうか。これでは絵に描いた餅になってしまう。この本にもRSTの例題が載っており、どの問題がどのぐらいの正答率なのか学年ごとに分かるようになっている。恥ずかしながら間違えた問題もあった。


同著の「和歌とは何か」よりも非常に読みやすい。四季、恋、雑の部立てで本書も構成されており、筆者が選んだ歴史上の和歌を解説する内容。入門と書かれているように和歌の知識がなくても読める。一首にたいして4ページの解説であるため、サクッと読むことができる。中学生でも読めなくはないが、助動詞等の解説が少ないことから高校生の方が頭に入りやすい。和歌が苦手な人は本書から手に取り、和歌の魅力を知ってから次に紹介する「和歌とは何か」に入ると読みやすいだろう。


なぜ和歌は時代を超えて現代にも伝わっているのだろうか。そのような疑問からタイトルにもあるように和歌とは何かを学べる一冊。枕詞や掛詞などの和歌のレトリックの説明と歌合や屏風歌など行為の和歌の説明の2部構成となっている。筆者は「和歌は演技」という考えを述べており、現実の作り手とは異なる和歌の中に別の作り手が存在することを説明している。和歌が現実そのままを再現しているのではない。むしろ現実には簡単に得れないような理想的な状態を追い求めている。演技の視点という見方が自分にはなく、違った見方ができたのが学びとなった。しかしこの本の難点は初学者は内容を十分に理解するには難しい部分。

一言でいうと批評の入門書。どのように批評をすればいいのか、「精読」、「分析」、「書く」の3つのステップで解説されている。特によかったのが、「分析」と「書く」。「分析」に関しては、「要素を分解する」という考え方が印象に残っている。作品を批評しようとすると細かな部分に目がいきがちだが、初学者はまず作品をある程度抽象化し、どんな物語なのかざっくり構造を掴むことで他の物語との共通性や差異が見えてくる。他の人からしてみれば当たり前かもしれないが、個人的には腑に落ちる部分であった。「書く」の章では、作品の批評だけでなく、大学のレポートや高校の授業で生徒に批評させるときにも有効となるヒントが多くあった。批評するときの心構えから、どの切り口からかけばいいのか、どんな人を対象として書くのか、説得力をつけるためにはどう書くべきなのか等々。「書く」という行為で意識すべきポイントは他のことにも応用ができそう。
 著者もこの本で言っているが、理論を学ぶのも重要だが、そういったものを身に付けるためには多くの作品を読む必要があるということを忘れてはいけない。自戒にもなるが今月は割と文学理論を中心に読んだが、そこで理解して終わりではなく、文学作品を読んだうえでどのような理論が落とし込めるかを考えなければならない。あとは本の中で例として出されるのがほとんど海外の作品(特に海外の映画)ばかりで、軽く作品の説明があるが、自分があまり海外の映画を見ていないこともあり、わかりにくかった部分もあった。しかしこの本は個人的にアタリだった。

常識的な見方ではなく、違う見方をするためにはどうすべきか(本書では異化作用と言っている)、日本語学の理論を文学に応用したり、語り手や物語の構造について学ぶことができる1冊。正直、上記にあげた小林真大の本や「批評の教室」とほとんどかぶっていた。ちくまプリマーということもあり、文学理論をものすごくわかりやすく読みたい人はこの本でもいいかもしれない。

この本は2018年に出版された本のため、センター試験から共通テストに変わることになる、共通テストが実施される前のプレテストの段階で目指す国語教育がいかに危機的なのかを述べている一冊。もちろん現在の共通テストでは記述式は見送りになっているため、すべてが当てはまるわけではないけれども、複数テキストや資料を関連させた問題の作り方にはいまの共通テストにも当てはまる気がした。約50万人がうける大学入試共通テストでなにを求めているのか。限られた時間の中で膨大な量の文章と資料を読ませるだけではただの機械的な情報の処理にしかならない。じっくり読むことが悪いような。これでどうやった多角的な視点を養うことができるのだろうか。ただ複数のテクストをもってきてもプレテストからは特段複数のテクストでなくても答えを出すことができてしまい、無理に複数テクストや資料をつけることにこだわっているようである。プレテストの分析からどんな風に設問をつくればいいのかのヒントを得れたのは個人的に良かった。(反面教師的な意味をふくめて)
サブタイトルは「大学入試共通テストと新学習指導要領」となっているが、読んだ印象としては大学入試共通テストがメインって感じ。

2.学習参考書

自分がアルバイトしているところで高校2年生の国語の授業を持っているため、再読。古文の読み方や古文常識を教えてくれる一冊。このような類の参考書は他にもあるが、個人的には一つひとつのパートがコンパクトにまとまっており、読みやすい。(スタサプの岡本のやつは見にくくて苦手)。他にも元東進の吉野は一緒に問題を解いて解説しながら古文の読み方を教えてくれる。あれは有名文学作品の解説も割と載っている印象なので、好みで選んでよいと思う。

可もなく不可もなく。これを使うなら河合塾の入試現代文のアクセスの方がいいかなという印象。読み方を学ぶ参考書ではないため、読み方を理解した後にちゃんとその読み方ができているかどうかを試す参考書である。日東駒専レベルの私大演習をしたい場合には有効。しかし日栄社の「日東駒専&産近甲龍の現代文」ともある程度問題が被っているため、どちらか一冊でいいだろう。自分がもっていたのは改訂版ではないため、今売られている改訂版とは異なる部分はあるかもしれない。
一応、「入試現代文のアクセス」と「日東駒専&産近甲龍の現代文」も載せておく。


3.授業等で使用した本(つまみ食い程度)

大学院の授業等で使用した本を列挙しておきます。


4.おわりに

5月に比べ、比較的本を読むことができた。(偏りはだいぶあるが)しかし本を読んだことに満足はしてはいけない。本を読むことが目的ではなく、その本から何を学ぶことができたのかを意識していこう。文学理論中心に読んだため、6月に読んだ本から学んだことを文学作品を読む際に生かしていきたい。

5.参考文献

・千田洋幸 (2016)「文学教育のリストラクチャー・序説」『東京学芸大学国語教育学会研究紀要』12巻、pp.1‐6

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