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学問のススメと志

令和3年4月9日晴れ

今日は博多にて第17期職人起業塾、第7講の講師を務めました。職人起業塾とは建設業の職人を始めとした現場実務者に対して基礎的なマーケティング理論を切り口に、起業できる位のスキルを身に付けて経営者感覚を持って業務に向き合ってもらえるようにする実践研修です。(決して起業を後押しする研修ではありません。)マーケティング理論と言いながらも、その内容は原理原則に基づいた人としての当たり前のあるべき道を踏襲し、信頼を積み重ねることで独自の市場(マーケット)を作り上げる、小手先の集客やクロージングテクニックなどではなく、修身論に近い研修になっており、上杉鷹山公や二宮尊徳翁が行われた事例を元に「人の道」と経済の深く親密な関係をレクチャーしています。

志を以って万事の源となす

今日の講座では、私がマーケティング理論構築の中で最も重要だと考えている「目的と手段の明確化」をテーマに、目的、もしくは目的意識を持ち続けることの重要さを熱く語りました。職業人として働く目的を問うた際に多くの若者が返答に詰まり、「生きるため」とか「家族を養うため」などの聞くまでもないような答えが返ってきたりします。もちろん、それが重要なのは自明の理ではありますが、せっかく、たった一回きりの人生の多くの時間を費やす仕事を通して、ただ飯が食えれば良いと働くのは寂しすぎるし、人は誰しも大きな可能性を持っていることを考えれば、それではあまりにもったいなさすぎると思うのです。講座の中で私は、吉田松陰先生の「志を以って万事の源となす」との言葉を引用して、志を持つ事の大切さを繰り返し訴えておりますが、今日は福沢諭吉先生の学問のすすめを紹介して、学ぶこととともに目的を持つ事の大切さを、明治維新から昭和にかけての日本人は深く理解して、熱心に学び、大きな志を持って仕事に取り組んできたこと、それが今日の経済大国としての地位を確固たるものにしている日本の礎となっていると熱く訴えました。

学問ノススメ

これまで日本で星の数ほど生み出されてきた出版物の中で最も多くの人に読まれたと言われる「学問のススメ」で福沢諭吉先生が提言されたのは、人が生まれた時には皆平等であるが、その後に上下、貧富の差ができるのは学ぶものと学ばざる者との差であり、また学ぶと言う行為は万物の霊長たる人間の目的を果たすために必要不可欠であるとのことで、ただ額に汗して働き、家族を養う程度の事は鳥や獣でも行っており、蟻でも季節の良い時にせっせと働き、冬に備えて蓄える程度の事はやっている、それでは人としての目的を果たしたとは言えない。と述べられています。その上で、目的とは何か?との質問に対し、福沢諭吉先生は先人から受け継いだ文明や文化をより良くして次の世代に引き継ぐことだと言われます。要は、世の中をより良くする志を持つべきだと強く提言され、明治維新から昭和初期に生きた日本の人々はそれを真摯に受け止めて目的を持って大いに働いたのだと理解しています。だからこそ、幕末に黒船が来航して以降、常に西欧列強に狙われ続けて、植民地となる危機を乗り越えて(結局、植民地になってしまいましたが、)独立国としての国体を維持できたのではないかと思うのです。それから時は移り、飽食の時代と言われるほど豊かな暮らしを享受している現代の私たちは、亡国の危機感も無く、先人への感謝も希薄になり、安穏な平和と物が溢れかえる便利な生活を貪ってしまっていますが、今一度、より良い世界を次の世代に引き継ぐ様に志を立てて熱心に仕事をすべきだと思うのです。

志は何か?

志を立てることは即ち、目的を明確にすることだと私は思っています。今日の講座でも塾生達に「あなたが働く真の目的は何ですか?」と問いかけて職業人としの志を問いました。彼らの答えは「自分たちの住まう地域を盛り上げたい」「日本の林業を復活させたい」「日本の伝統文化である左官の技術を後世に残したい」「お客様の笑顔が見たい」「地震で命を落とす人を無くしたい」とそれぞれ建築業界に生きるプロフェッショナルとして活躍して大きな問題を解決したり、人の幸せに貢献したいと素晴らしい志を披露してくれました。偉そうなことを知っておりますが、私が彼ら位の年の頃は、志どころか、世のため人のためになる事さえ考えずにひたすら金を稼いで少しでもマシな暮らしが出来る事ばかりを考えていました。そう考えると、まだ全員が20代〜30代の若い段階で大きな志を掲げて、技術の研鑽、知識の習得、そして経験の集積を目的に向かってまっすぐに突き進んだとしたら、全員が大きな影響力をもつ大人物になり、文字通り未来の建築業界を背負って立つ人材になると思います。彼らがその当時の私には無かった、本質的な考え方や概念を学ぶ機会を持たれている事を羨ましく思うと共に、貴重な機会を与えられて、大きなチャンス(になるかもしれないキッカケ)を提供している事業所さん、経営者の方々には本当に頭が下がるというか、本当に素晴らしい方々とご縁を頂けたと感謝するばかりです。

若者達に無限の可能性を感じる理由。

現在、偉そうに講師ヅラして若者に「人の道を全うする事から事業は組み立てるのだ!」とレクチャーしている私は、実はどうしょうもない悪ガキの少年時代を送り、フラフラと全国を渡り歩き、定職にもつかない青年期を過ごしました。25歳の遅まきで大工の修行に入ったのも、志を立てた訳でも無く、正直、手に職をつけて、働きたい時だけ働き、好きなだけ遊び回れる自由が欲しかったからです。一人前の大工になれば、誰に偉そうに言われる事なく、勝手気儘な暮らしが手に入ると思ったからでした。志を抱くとか、目的をもって始めるとか、福沢諭吉先生や、吉田松陰先生、スティーブン・R・コヴィー博士等が提唱された、「人として大事な事」を考え始めたのは、神戸の震災後の震災復興が片付いたタイミングで消費税が増税されたのをキッカケに勤めていた工務店が続けられなくなり、押し出される様に起業してからです。当時、たまたま運よく忙しくなって人が増えて大工の親方から経営者っぽくなり始めて、漸く経営も組織づくりも全く学んだことがないし、無知過ぎる事に気が付いて、学び始めてから、自分自身の在り方について考える様になりました。今、私が教えている塾生達の年齢を考えると、当時の私よりもずっと優秀であり、彼らには無限の可能性があると心から思いますし、私ももっと早くに学ぶ機会、気づく機会があれば、もっと違う人生を送れたのにと、少なからず残念に感じてしまったりします。

剛い志をもって生くるべし

ただ、無学で自己中心的で利己主義だった私も、創業時に掲げた想いは人一倍強かったとの自負があります。それは、今も私が代表を勤めている工務店、株式会社四方継でも、一般社団法人職人起業塾でも変わらずミッションとして掲げており、私が働く大きな目的です。それは、「職人の社会的地位向上を果たす」という全く顧客目線に立っていない、身内を守りたい的な意図がありありと現れてしまっておりますが、自分が学歴社会から完全にドロップアウトしてロクでもない人生を送るしかないと絶望しかかった時に、多くの先輩に助けられ、支えて頂いて真っ当な人並みに暮らしを出来る様になった経験を踏まえた上で、ご恩送りというか、現在社会の枠組みに合わなかった若者達に光を見せる業界に、建築現場を、職人の働き方を変えたいと心の底から思っていますし、起業してからの20年間、この目的だけはブレずに進んできました。偏狭で小さな志かもしれませんが、今ではそれが仕事になり、全国で職人に学ぶ機会を与える立場になれている事は本当に嬉しい事であり、これからもライフワークとして加速させたいと思っています。
先日、とある飲み会で生き方と名前の関連について話題になりました。私の持論は、名前は生まれ持った呪縛であり、その意図によって生きてしまうものだと思っている。と話しましたが、それは私の名前が剛志であり、勉強嫌いだった子供の頃から、剛い志をもって生きる人生を送らなければならないと無意識下で思い続けて、今になって振り返るとそこに最重要の価値観を置いてしまっている事に気づいたからです。
「志を以って万事の源となす」人生は目的達成のためにあるとこれからも信じ続けて歩みを進めたいと思います。

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◆四方良しの世界を作る株式会社四方継のHP:
https://sihoutugi.com
◆一般社団法人職人起業塾のオフィシャルサイト:
https://www.shokunin-kigyoujyuku.com
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https://www.shokunin-kigyoujyuku.com/application/contact/

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