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マイスター高等学院の授業で大学の素読を行う理由

「大学の道とは明徳が明らかにすることなり。」とは、孔子の弟子達が編纂した有名な大学の冒頭の一文です。この春、新たに開校し、授業を開始した職人育成の高校、マイスター高等学院では午前中は古典を学ぶカリキュラムが組まれており、まずは仮名大学の素読からスタートしています。
姿勢を正し、25分間の素読の後、一節ずつの意味を丁寧にひもといて、半年ほどで15歳の若者が大学を完全に理解出来るようになります。大学が終われば、論語に進み、2年生が終わる頃には、論語も完全マスターしてもらう予定です。「なんて古めかしい教育や、江戸時代の藩校かよ、」と思われるかも知れませんが、時代が大きく転換している今こそ、3000年の時を超えて今も読み続けられている古典を学び、いつの時代も変わらない不易、原理原則を学ぶ必要があると私は思っています。

学生が職業訓練校の座学で身に付けたいと思うこと。

初登校の日に、私は高校一年生の生徒に他の高校のカリキュラムに無い古典を年間通して学び続ける意味と意義をまず伝えました。マイスター高等学院は職業訓練校である以上、卒業して社会に飛び出し、職人としてのキャリアを積み始める際に活かされる学びの場であるべきで、その期待を持って学生も入学しています。なので、職業人として、仕事に活かせる内容であることを理解してもらう必要があります。
ただ、私から大学や論語の説明をする前に、3年間のマイスター育成コースの学びで何を身につけたいか?との問いを生徒に投げかけたところ、彼から返ってきた答えは以下の通りで、既に人としての在り方を正し、精神性を高める必要性を自覚していたのには少し驚きました。なので、なんの違和感もなくすんなりと論語の素読に入ることができました。意外にいまどきの若者は本当に大事なことを知っていました。
・高い人間性・考えて行動・自分で考える意識・人の関わり方・コミュニケーション能力・礼儀作法・信頼される人になる・文章能力を身につける・責任感を持つ・正しい選択・判断ができる・自分を律する精神力・謙虚さを身につける

職人のキャリアプラン

一人前の立派な職人になるには、一段ずつ登っていくステップが存在します。私たちが設定しているそのゴールは単なる現場作業者ではなく、モノづくりの専門家としての知見と経験を備えた技術職であると共に、人材育成や顧客との関係構築、取引先や協力業者との良好な関係を保ちながら収益を上げて持続可能な事業を推進していく経営層として活躍する人材であり、現場叩き上げの経営者の育成と言っても過言ではありません。
15歳の若者に君が将来、この会社をになっていくのだと伝え、そんな未来を指し示した上で、職人としての在り方、生き方を教えるのではなく、自分で考え、自分から言葉を発した事柄の実践を進めていくのが、マイスター奥生コースの教育コーチングとなっています。そして、上述したように、理想的な職人像と、そんな人物になるために必要なことは15歳の若者にでもわかっているのです。私たちの教育とはその良知を開かせて実践を促すのみなのです。

第一段階:先輩との関係性

実践哲学の草分け的存在として知られる王陽明は初学の者に対して必ず大学から教えたと言われます。マイスター高等学院はその王陽明に倣ってカリキュラムを組んでいます。職業訓練と古典を学ぶ意味、その関係を以下に具体的に挙げてみます。職人育成に限らず、学生に提供するには優れた教材だと感じて頂けるのではないかと思います。
学校を卒業して職人として社会に出ると、まずは先輩から技術を教えてもらう立場からスタートします。ここで躓いてせっかく一人前の職人として活躍を志ていた若者が離れてしまうことが少なからずあります。もちろん、教える側の課題や問題も多くありますが、教えられる側の用意が出来ていれば、その問題は表面に現れない可能性が高くなります。新人が「身を修める」意識を持って謙虚に、素直に、周囲に心を配って自分にできることを積極的に行えば、必ず先輩に可愛がられます。第一段階を難なくクリアできるのです。

第2段階:誠実な姿勢

職人見習いの期間を過ごして、技術や経験を身につけると次は仕事を任される段階に入ります。決まった図面や仕様書に従ってモノづくりを行う立場になるのですが、忠恕の心を固く持ち、誠実で真摯に仕事に向き合えば、まだ技術的に未熟な部分に関しても、無理して作業を進めることなく、先輩達の手助けを仰ぐことができます。何のために仕事をするのか、その目的を良く理解して、顧客の立場を慮りながら作業を進める姿勢を持てば、必ず大きな評価を受けることに繋がります。それを積み重ねることで技術と経験を身につけて、一人前の職人へと成長を遂げて行けます。職人の世界は底がないほど深く、また、施工技術も材料も日進月歩で進んでいます。長年経験しても新たな気づきや学びを得続けなければ、圧倒的な信頼を得ることはできません。その入り口こそ、一人で仕事を任させる時の誠実な姿勢にあると言っても過言ではありません。これが2つ目のステップです。

第3段階:リーダーシップ

第3段階は現場での作業を一通りマスターした後、現場全体を取り仕切り、顧客の意向を汲み取って、設計、工程、品質、そして予算の管理まで行えるプロジェクトリーダーへのキャリアのスタートです。また、後進の指導や人材育成も同時にできなければなりません。そこで必要となる資質とは、圧倒的な人間力であり、プロジェクトに関わる非常に多くの関係者それぞれの意図や気持ちを汲んで、全体を進めていくマネージメントが出来なければなりません。ここで必要になるのは多くの人と想いを一つにすることであり、様々な人がいる中で、誰にも共通する部分を抽出したパラダイムを持って人に接することです。相手によって態度を変える人は信頼に値しないと判断されるのは今も昔も同じ、「明徳を明らかにせんとする者はまずその身を修めんとす、その身を修めんとする者はまずその心を正しうす。」との原理原則論を心に刻んで、人を変えるのではなく、自分から変わる意識を持って多くの人に関われば、多くの協力者が表れ、大きなプロジェクトを全うする力を発揮できるようになります。

第4段階:致知格物を実践できる経営者

その先、第4段階は経営者層に入って事業所全体の事業の計画を立て、全体最適を実現すべく、事業を推し進める立場になります。事業所全体を取り仕切り、大きな責任を負う立場を目指すとは、大学の中の言葉に言い換えると君子への道を歩むが如しです。「其の心を正しうせんと欲する者はまず其の意を誠にす。其の意を誠にせんと欲する者は、まず其の知を致す。知を致すは、物を格すに在り」との致知格物の概念を持って事業にあたれば、次々に押し寄せてくる大きな時代の荒波を乗り越えて、持続可能な事業モデルを構築してくれる人物へのスタートを切ることができると思っていますし、私は人が誰しも生まれながらに持つ「良知」の大きな力を信じています。
このように、高校一年生の頃から、1万年前から大きく変わっていないと言われる人の営みの最も基礎的な部分の原理原則を深く理解してもらうことで、未来を担う君子たる経営者を多く輩出できると考えています。これが、マイスター高等学院で大学や論語等の古典をカリキュラムに組み込んでいる理由です。

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職人業界の未来を担う人材の育成を行っています。
ご興味ある方は是非繋がってください。


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