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高強度の下肢CI療法は脳卒中後の機能回復を促進するか


抄読論文

Marklund I, Sefastsson A, et al.
Lower-extremity constraint-induced movement therapy improved motor function, mobility, and walking after stroke.
Eur J Phys Rehabil Med. 2023 Apr;59(2):136-144.
PMID: 36892520; PubMed. DOI: 10.23736/S1973-9087.23.07683-9.
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脳卒中後の下肢制約誘発運動療法は、運動機能、移動能力、および歩行を改善した

要旨

目的

脳卒中後の歩行能力の回復は、その日常生活における重要性から、脳卒中を経験した人々の最も一般的な目標の一つです。歩行能力は患者の移動能力、自己介護、社会生活に影響を与えます。制約誘発運動療法(CIMT)は、脳卒中後の上肢の結果を改善するのに効果的であるとされています。しかし、下肢の結果を改善する効果に関する証拠は不十分です。
本研究の目的は脳卒中後の下肢機能に対する高度な集中的CIMT(LE-CIMT)が、運動機能、機能的移動能力、および歩行能力を改善できるかどうかを調査することにある。さらに、年齢、性別、脳卒中のタイプ、より影響を受けた側、脳卒中発症後の時間が、歩行能力の結果に対するLE-CIMTの有効性に影響を与えるかどうかも調査することである。

方法

縦断コホート研究。スウェーデン、ストックホルムの外来クリニック。
対象は以前にLE-CIMTを受けたことのない、脳卒中後の亜急性または慢性期の患者147例、平均年齢51歳(男性68%、右側脳卒中片麻痺57%)。
すべての患者に対し、2週間で1日6時間のLE-CIMTを実施した。機能的結果を評価するために、Fugl-Meyer評価(FMA)、タイムドアップアンドゴー(TUG)テスト、10メートルウォークテスト(10MWT)、および6分間ウォークテスト(6MWT)を、治療が完了した直後と介入後3ヶ月の時点で使用した。

結果

LE-CIMT介入直後、FMA(P<0.001)、TUG(P<0.001)、10MWT(P<0.001)、および6MWT(P<0.001)のスコアは、基準値と比較して統計的に有意に改善された。これらの改善は、介入後3ヶ月のフォローアップ時にも持続した。脳卒中発症後1-6ヶ月以内に介入を完了した人々は、脳卒中発症後6ヶ月以降に介入を受けた人々よりも、10MWTで統計的に有意な改善を示した。年齢、性別、脳卒中のタイプ、およびより影響を受けた側は、10MWTの結果に影響を与えなかった。

結論

外来クリニックの設定では、高強度のLE-CIMTが脳卒中後の亜急性および慢性期の中年患者の運動機能、機能的移動能力、および歩行能力を統計的に有意に改善した。よって、高強度のLE-CIMTは、外来クリニックでの脳卒中後の歩行能力を改善するための実用的かつ有用な治療オプションとなり得る可能性がある。
ただし、LE-CIMTの有効性をより深く理解するために、より堅牢な設計の研究が実施される必要がある。

要点

本研究は脳卒中患者に対して、下肢CI療法を集中的に行い、その結果をコホート研究として蓄積したものになる。
コホート研究である以上、比較対照群は存在せず、因果は仮定できないことは把握した上で結果を解釈する必要があることを注意すべきである。
しかし、著者は先行研究の結果も踏まえると、因果は仮定できないものの、概ね結果を受け入れることはできると考察している。

本研究のポイントは147名という比較的大きな母数を持つことである。最終的に最後までフォローできたかんじゃは107名ではあったが、それでもリハビリテーションの研究においては多い数である。
しかし、調査期間が約15年にわたっていること、調査データが後ろ向きのものと前向きのものがあることには注意をしなければならない。
この点は測定バイアス、調査バイアス、選択バイアスとして把握しておくべきである。

介入は上記の通りになる。
1日6時間の介入ということで、本邦においてはなかなか難しい介入量であることは間違いない。
また、2週間毎日実施するという点も現実的でない。
このような介入であるということを把握した上で、結果を読み取るべきである。


メインアウトカムに設定されているのはFugl-Meye Assessment( FMA)の下肢スケールのうち、反射と協調性を除いた項目になる。
また、TUGも同様に設定されている。

どちらも2週間の介入後、そこから3ヶ月のフォローアップ期間後ともに介入前と比べて有意に改善が見られている。
しかし、効果量が示されていないこと、最小可検変化量(MDC)を満たしていないことが懸念点として挙げられる。
FMAのMDCは4点、TUGのMDCは8秒とされている。
症例数が多いだけに有意差は出やすいが、MDCを満たしていないことは解釈に注意を要する。
しかし、歩行可能な症例ということで、ベースのFMAが高いこと、TUGもベースが比較的早いことから床効果を生じている可能性があることを筆者は考察しており、その点から差はあると解釈すると述べている。


メインアウトカムと合わせて、歩行評価として、10m歩行速度と6分間歩行距離も測定しており、これらもどちらも有意に改善している。
しかし、これも10m歩行速度のMDCである0.3m/s、6分間歩行距離のMDCである28〜42mを満たしておらず、有意味の差とは言い難い。
この点に関しても、屋内歩行自立の患者であるため、ベースラインが良好であることを述べている。

いずれにしても、下肢CI療法後2週間で数値が向上していることは間違いない。
これに関しては一定の効果が見られたと考えてもいいであろう。
冒頭にも述べたが、コホート研究であり、因果は仮定できない。
介入量が高頻度であり、CI療法に限らず、1日6時間も介入すれば、他の方法でも改善したと考えることもできる。
この点も踏まえて、解釈しておくことは必要であろう。

どのように活用するか

本研究では下肢CI療法に関する有用性を述べるエビデンスの一つとはなるかと思われる。
しかし、因果が仮定できない以上、明確な根拠とは言い難い。

ただ、着目すべきはこれはスウェーデンの研究であるが、このような1日6時間の介入を2週間毎日続けるというプログラムは本法では行うことはほぼ不可能であろう。
本邦は回復期でも1日最大3時間である。
しかも、外来になると可能であっても1時間が限度であろうし、医療保険の領域ではそれすら難しい。介護保険の領域になると1時間の個別プログラムも難しくなるであろう。
このことから、本邦での介入量の投入の仕方というのは考えていかなければいけないかもしれない。
短期間であっても集中的に実施するプログラムがとれる医療体制というのも必要かもしれない。

その点を考えさせる研究と感じた。

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