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フルタイムで会社勤めをしながら演劇もするノウハウ共有 WSまとめ

※属性や方針を大まかに分類するため「社会人劇団(社会人)」「学生劇団(学生)」「専業劇団(専業)」というフレーズが頻出します。記事中において、
社会人劇団・・・構成員の多くが会社勤めなどのフルタイム勤務をしている団体。劇団活動で生計を立てていない
学生劇団・・・構成員の多くが学生の団体。劇団活動で生計を立てていない
専業劇団・・・劇団活動で生計を立てているor立てることを目指す団体
という定義で使用しています。

2024年1月に「フルタイムで会社勤めをしながら演劇もする」をテーマにWSを実施しました。

WS参加者募集の告知用ポスト

対面とオンライン合わせて10名が集まり、
「自分はこうやって演劇とフルタイム勤務を両立させている」
「両立させたいが、どうすればいいかわからない」
「両立に向けてこんな課題があり、解決したい」
という話し合いを行いました。
この記事はWS内容を編集し、トピックスをまとめたものになります。


前提として

目指すべき「演劇」の姿は人それぞれで異なります。

会場の種類ひとつでも「路上・野外」「ギャラリー・スタジオ」「客席数100未満の劇場」「客席数150~300の劇場」「客席数500以上のホール」「オンライン」

セクションにしても「俳優」「制作」「脚本」「演出」「音響」「照明」「衣装」「小道具」「舞台美術」「舞台監督」「宣伝美術」「演出助手」

脚本は「オリジナル脚本」「既成の戯曲」「インプロ(即興劇)」

公演期間も「1日」「3日間」「5日間」「7日以上」「2週間以上」「1か月以上(ロングラン)」

「どこで・だれと・どんなことをするのか」の条件がいくつかズレるだけで、AさんとBさんの言う「演劇」を同じものとして扱えなくなることがあります。

フルタイム勤務との両立において「演劇をする時間がない」という課題は真っ先に出てくると思われますが、
・出演者4名の3日間ギャラリー公演
・出演者15名の5日間劇場公演
では準備に必要な時間も大きく違います。

この認識がズレた状態で進めても「そのノウハウはあなたの活動にしか使えないでしょう」となる可能性が高いため、参加者には事前に下記シートを記入していただきました。

掲載許可を得て実物をお借りしました

いきなり議論をする前に、「あなたにとっての演劇とはどういう要素で構成されていますか?」を整理するところから始めました。
そのうえで、参加者には立場を下記4つの中から選んでいただきました。

①ある程度自分のノウハウが確立している → ノウハウ提供者

②それなりにノウハウはあるが、課題がある → 具体課題者

③ノウハウがなく、何をすればいいかわからない → 抽象課題者

④人のやり方に興味がある、知見を深めたい → 傍聴/質問者

当日の資料より

WSの進行は、
①ノウハウ提供者が自分の演劇のやり方を共有し、他の参加者から質問があれば回答する
②具体課題者の困りごとを解決する手段はないか全員で意見を出し合う
③抽象課題者が今後着手したいことを整理し、ネクストアクションを見つけてもらう
の流れで実行しました。

フルタイム勤務と演劇を両立している人の例

①オーディションやオファーの時に全て説明する

客演やサポートスタッフとして公演に参加する際、
・自身がフルタイム勤務をしていること
・平日は夜しか参加できないこと
・集中稽古(本番直前に5日間程連続で稽古をすること)への参加が難しいこと
など、時間的制約があることを公演責任者(代表・主宰・演出など)に事前に説明しておく。

Q.説明をしたことで出演の話がなくなってしまったことは?
A.破談になったことはあるが、確率で言えば10件に1回程度。説明すれば理解してもらえるケースが多い。

Q.オーディションとオファーだったらどちらの方が参加頻度が多いか
A.活動を始めたときはオーディションが多いが、だんだんオファーも増えている。現時点では社会人劇団と専業劇団への参加頻度は同じ程度

Q.公演のギャランティはどういう形式が多いか
A.チケットバック制(個人の売上枚数に応じて支払われる)が多い。ノルマがある団体には殆ど出ていない

結論:事前に説明をすることで、両者のスタンスを理解した上で公演活動を実施できる。認識違いでの予期せぬトラブルを避ける意味でも、事前説明や認識のすり合わせは行っておくべき

②自分で団体を作る(自分の権限で進行管理する)

社会人劇団として活動し、年1~2程度のペースで公演を行う。
出演者を集める際に、
・土日しか稽古が出来ないこと
・集中稽古を実施しないこと
などを説明し、理解してもらった方のみ参加して貰う。
進行管理を自ら行うことで、スケジュールの調整がスムーズになる。

Q.スケジュール管理の仕方はどうしているか
A.スプレッドシートに全員の稽古スケジュールを共有し、
・誰がいつ来れるか
・通し稽古はいつ頃実施予定か
など先々の進行は見える化しておく。
「人が揃う日は通し稽古をする」「少ない日は抜き稽古(一部メンバーに限定して参加する)」のように方針が決まっていれば、個々人の予定変更にも対応しやすい。

Q.俳優の急なスケジュール変更などにどう対応するか
A.基本的にオリジナル脚本で当て書き(俳優に向けて役を書き下ろすこと)であるため、稽古参加日数が少なくなった場合は出番や台詞を削るなどして調整する。
逆に言えば、事前に稽古参加日数が少ないとわかっていれば出番を調整したうえで配役出来る。
例として、参加日数が多くない俳優にはモノローグなどソロパートで成立するシーンを担当してもらうなど調整をする。

Q.スタッフワークなどは自らやるか
A.自分たちでやる部分もあるが、脚本・演出を外部委託するケースもある。
(ここは自らが定義する「演劇」のスタイルによる。手が足りない部分は外部委託するなど、作業リソースを十分に確保することは共通)

③採算(=黒字化)はあまり考えてない

演劇は「お金のかかる趣味(=道楽)」として認識している。
ギャラリー公演であれば採算がマイナスになっても旅行に1回行く程度の赤字で済むため、上演できた経験や満足と引き換えに納得できる範囲である。公演に必要な予算を確保するために会社で働いている、というイメージ。

Q.俳優、スタッフへのギャランティをどうしているか
A.参加しても赤字にならない(交通費や消耗品の出費<ギャランティ)になる金額を最低限として提示している。
事前に出演交渉の段階で金額に同意していただくことが前提。
反面、ギャランティだけで全員の生計が建てられる設計にはなっていないので、専業団体や専業の俳優・スタッフさんが参加することは多くない。
(追記:舞台監督など人命や安全に関わるセクションにはプロや実績のある方に依頼する)

Q.スタッフが多くなるほど予算も多くなると思うが、どう工夫しているか
A.スタッフワークの多くを自分(あるいは自分たち)でやることで外部委託の予算を抑えている。
またはギャラリー公演など低予算かつ省エネで実現可能な公演のみ企画している。

④集中稽古は実施しない

社会人劇団の多くは集中稽古を実施していない。
拘束時間が多いため、体力的な消耗も大きく実施のメリットを感じていない。
土日のみの稽古でもクオリティを担保して上演できるよう稽古回数を増やす・稽古開始を早める・通し稽古の日程を先に決めてしまうなどスケジュールを組む。
理屈として、「日曜日にやったシーンを次の土曜日に同じクオリティで出来るようにする」が成立すれば、最終稽古から小屋入りまでの期間が数日空いただけでクオリティが著しく下がるとは考えにくい。

Q.スタッフワーク(音響照明など)は直前にならないと決まらないことも多く、遅れ気味の作業をフォローする意味で集中稽古を設けるのはメリットがあるのではないか。
A.ブロックデー(他に予定を入れない日)としてスタッフワークを進める日を設定するのはメリットがある。

Q.集中稽古がなくても上演が出来るようにする、スケジュール管理の具体的な方法は何か
A.脚本をほぼ完成させた状態で稽古初日を迎える、は絶対条件。
全て仕上がってなくとも、俳優を困らせない程度にストーリーの全容は明らかにしておく。
また、稽古がない平日はそれぞれの宿題について考える時間として活用してもらう。
通し稽古を実施する日程を稽古開始前に決め、他の予定を極力入れないよう調整してもらう。

Q.出演者同士のスケジュールがなかなか合わないため、集中稽古を実施している。座組のスケジュールはどの程度抑えておくのが一般的なのか。
A.オファー、オーディションの際に「稽古15回中、10回は参加出来ないと出演が難しい」「本番2週間前の稽古は参加して欲しい」等、おおよそ参加して欲しい日数を提示しておく。
スケジュールの確保に不安がある俳優がいた場合は、事情を聞いておき、配役の時点で調整する。
また、全員のスケジュールはスプレッドシートなどで見える化し、誰がいつ来るかを全員が把握できる状態にすると調整がしやすい。

両立に向けての課題

①演出が不在のとき何する?

Q.演出家が仕事等で不在の時間が発生する場合、どう効果的に稽古をするか
A.演出がするべきことは「決定の判断」なので、アイデア出しや個人技術の練度の向上であれば演出家不在でも進められると思われる。
 稽古序盤~中盤であれば台詞覚え、殺陣、ダンス、マイムなど段取りの不安を解消する。
 終盤であれば配役シャッフルをして、自分の役を外側から見てどうだったかを言語化しておいてもらう。

②座組内の温度差をどうする?

Q.専業の俳優さんに出演していただく際、生活に充分なギャランティを提示出来ない、時間リソースの使い方が異なる、文化や価値観の違いなどギャップが発生しやすく、トラブルのもとになりやすい。
このギャップをどう埋めていくか。
A.劇団の活動方針や出演者の希望を事前に擦り合わせておく。プレ稽古などを挟み、両者の価値観ギャップは何か明らかにする。
直接言及しにくいことであれば、第三者機関やそれに近いポジションを設定しておき、不満が出たときに相談をしやすい環境を作る。

Q.温度差は発生することを折り込んで、事前に認識を擦り合わせておくことが解決法か?
A.社会人か専業か学生かに限らず、初めましての場合はギャップが発生しやすい。そのうえで、「聞いてなかった」「〇〇をするのは当たり前だ」という認識違いがトラブルの元である場合、認識のすり合わせや話し合いが効果的だと思われる。

③知り合いがいない土地で演劇を始めるには?

Q.上京して公演をしたいとき、どうやって人と繋がっていけばいいかわからない(就職を機に上京したケースを想定)
A.
・スタッフワークが出来るのであれば、当日運営などのポジションで手伝うことで知り合いを増やしていく。
・既存の知り合い(職場や友人)に「フルタイム勤務をしながら演劇を続けたい」とオープンに相談し、身近に社会人劇団をやっている人がいないか情報収集をする(或いは、繋いでもらう)
・気になる公演を観に行って面白かったら感想を伝え、そこから縁を繋いでいく
・劇団主催のWSなどに参加し、知り合いを増やす。WSの情報はネットだけでなく観劇パンフレットの折り込みチラシなどからも手に入る。

Q.東京は公演や劇団の数が多く、何を入口にすればいいのかわからない。フルタイム勤務をしていてもOK、という団体や界隈の情報はどこから得るべきか。
A.東京に住んでいる人も同じことを思っている。
演劇祭など複数の団体が出ている企画にスタッフとして参加or観客として張り付いたことで、複数団体との繋がりが増えたケースがある。
また、団体側も「フルタイム勤務をしている人」「兼業している人」を条件に人を集めたり、それだけを理由に合否を決めるケースは多くないと思われる(あくまで団体のカラーや役どころにマッチするかを優先している)ので、個別に相談していくことがベースになる。
(追記:芸能事務所主催オーディションなど専業志向の方を集める意図がある場合はフルタイム勤務であることがデメリットに働く可能性はある)

④「社会人劇団」であることをアピールすべき?

Q.「サラリーマン歓迎」「フルタイム勤務をしながらでも演劇が出来る」を団体のカラーにすると、作り手として健全になっていく一方、観客から「プロを目指している専業団体と比べ、品質が低い(≒本気ではない)のではないか」「どうせ観るなら専業劇団にお金を落としたい」という心理が働いてしまう側面はあるのではないか
A.そう思う人はいるかもしれない。
そう思われることを懸念して敢えて「社会人劇団」を名乗らないケースも存在すると思われる。

⑤どんなツール使えば作業効率化できる?

Googleのアプリなど、無料でも使用できるクラウドサービスは広く活用されている。必要に応じて有料版に切り替えることもあるが、基本的には無料版で充分(クラウドストレージの容量が15GB以上欲しい場合は有料版を活用)

スプレッドシート:スケジュール管理や全体のタスク管理。リンクさえ共有すれば更新した最新情報が閲覧できる
Slack・Discord:座組の連絡網、コミュニケーションツール。チャンネルを分けることも出来るため、目的別に連絡・チャットが出来る。仕事で使っている場合は慣れるまでがスムーズだが、人によってはLINEの方がいいなどはある。
Notion:タスク管理。作業マニュアルの保管場所
Googleドライブ:有料版にすると公演動画の保存にも活用できる

⑥チケット管理システムは何を使っている?

主に下記のようなチケット管理システムが主流。
イベント開催に必要な機能は標準的に備わっているため、
・事前清算チケットを販売したい
・システム内でオンライン決済が出来るようにしたい
・キャストにもチケット管理権限を一部付与したい
など、要望に応じて使い分けをすべき。

カルテットオンライン
システム料金:無料
チケット決済:オンライン決済不可(事前清算の場合は銀行振り込みと併用)

シバイエンジン
システム料金:無料
チケット決済:オンライン決済不可(事前清算の場合は銀行振り込みと併用)

CoRichチケット!
システム料金:1万円(割引あり。学生無料)
チケット決済:オンライン決済不可(事前清算の場合は銀行振り込みと併用)
備考:演劇ポータルサイト「CoRich」と連携でき、サイト経由での予約導線が引けるため、新規顧客の獲得に有利に働く。

パスマーケット(Yahoo!)
システム料金:無料
チケット決済:オンライン決済可
備考:有料公演の場合、チケット販売手数料が発生する

とりおきシステム(カンフェティ)
料金:無料
チケット決済:オンライン決済不可
⇒オンライン決済や前売り券を取り扱う場合はカンフェティチケット販売


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