鶏とエリンギの三杯鶏(風)
台湾料理の一つに「三杯鶏」というのがあります。たっぷりの生姜と胡麻油、醤油、酒、それから砂糖等で甘辛く煮込み、台湾バジルで味付けしたもの。ご飯にもビールにも合うおかずです。
三杯の由来は「胡麻油」「醤油」「酒」をそれぞれ同量加えるから、と言われていますが、酒ではなく「砂糖」という説もあるようです。実際現地で食べたものと、自分で作ったものを比べると、酒も砂糖も同じくらい加えないと三杯鶏らしい味にはならないので、私は4種類を同量のイメージで。これは、台湾の醤油が、日本のものより甘いことも影響しているかもしれません。あと、黒酢を少し足すのも定番になっています。
さて、今日はそのアレンジ。通常は鶏ももが使われるところを、鶏胸肉で、さらに大きめに切ったエリンギも足してみようと思います。
三杯鶏のアレンジは実は現地にもいろいろあって、茄子やイカというのも定番になっています。台湾バジル(九層塔)があればベストですが、日本の市場には殆どないので、スイートバジルで。
ベーシックな作り方だと、鍋に胡麻油と皮ごと薄切りにした大量の生姜を入れてじわじわ火を入れ、そこに鶏肉を加えて強火で炒めた後、調味料を加えて蓋をし、弱火で煮込むという手順です。土鍋で出てくることもあります。
今回はパサつきやすい鶏胸肉を使うので、一工夫。前回の八宝菜でも紹介した「油どおし」を取り入れてみることにしました。そのことで、具材の中までふっくら火は通っているけども、加熱し過ぎで縮んだりぱさついたりすることなく、また、周りに絡みつくタレは濃い味だけども、素材本来のジューシーさも残っている、という状態を目指したいと思います。
まず、鶏胸肉は縦2~3等分にした後、薄いそぎ切りに。厚みは4−6㍉くらい、柔らかさをだしたいので、なるべく肉の繊維に垂直に包丁を入れるようにします。切り終わったら、酒、卵白、片栗粉少々を混ぜたものを揉み込んでおきましょう。揉み込む調味料類は、ドロドロしすぎず、サラサラしすぎず、肉にまとわりついたときに、うっすら乳白色の膜が貼ったように見える程度の濃度が目安です。油から伝わる熱を程よくカバーするのが目的なので、天ぷらの衣ほど厚くてはいけません。
エリンギは一口サイズに。鶏肉とおおよその大きさを揃えると良いです。
鍋を熱して、油を注ぎます。具材がしっかり浸かるだけの量を用意してください。
適温になったら具材を投入しますが、鶏肉とエリンギは温度が違います。
鶏肉は低音、120~130℃くらいで1分。入れた時にほんの少しだけジュワジュワ音がして、1分でギリギリ縁に色がつくかどうか、という温度です。鍋にいれて少しすると、全体がふわっと膨らむのがわかると思います。いかにも美味しそうですね。楽しみになります。
エリンギは、180℃ほどで20秒ほど。こちらは表面を固めたいだけなので、なるべく高温短時間で済ませてください。こちらも、切り口の角が少し色づいたくらいが目安です。ジャーレンと呼ばれる、穴の空いた大きなお玉や、網杓子があると、具材の出し入れがストレスなくて良いですね。
どちらの場合も、一気に具材を入れてしまうと、温度のコントロールが難しくなるので、余裕を持って、焦らず少しずつ入れてください。今回は敢えて「油通し」という面倒くさい手順を取り入れています。ここは腹をくくって、丁寧に1ステップずついきましょう。それに、この「油通し」さえ終わってしまえば、後はびっくりするくらい簡単に素早く仕上がります。ここだけ、少し心を落ち着けてみてください。
油通しが終わった具材は、ざる等に上げて油が切れるようにしておきます。
次にタレをつくります。
生姜は皮付きのまま薄切りに。2人分でも2センチ分くらいは使いましょう。こんなに!?というくらいです。そう。そんなに入れますよ。
鍋に胡麻油を注ぎます。最初に説明したとおり、胡麻油を含めた調味料を同量入れるのが基本。甘辛くこっくり仕上げるのに必要な醤油の量をイメージして、それと同じくらいの胡麻油を思い切って作ってください。そこに生姜のスライスを入れると、充分余裕を持って、生姜が油に浸っている状態です。
弱火にかけて、生姜にじわじわ熱を加えます。焦げてしまうと苦味が出るので注意してください。生姜の縁がチリチリとカールしたような状態になってきたら頃合いです。
次に残りの調味料を次々加えていきます。熱した油に液体を注ぐのは怖い感じがしますが、油に対して水分の量が充分であれば、殆どはねません。心配であれば一瞬火を止めても構いません。醤油、酒、砂糖を目分量でいいので同量ずつ、中国の黒酢をその1/3~1/2くらい。ざっと混ぜて味見をしてみてください。いい感じの、甘辛いこっくりした味が出ていますか?この段階では、酢の酸味が気になるかもしれませんが、酸味は煮立てることで薄まりますから、それ以外の要素を確認してみましょう。微調整できたら強火でひと煮立ちさせます。
食べるまでに時間があるようでしたら、ここまで準備して一休み。
後は直前にさっと合わせるだけなので、ゴールは目前です。バジルも洗って水を切っておきましょう。
さて、仕上げです。
タレの入った鍋を火にかけ、再び煮立てます。そこに、油通しの済んだ鶏肉、エリンギを加えてタレを煮絡めます。具材にも既に火が通ってますから、タレが少し煮詰まって具材にまんべんなく絡まったあたりでOK。バジルを入れてざっとかき混ぜたら火を止めて、完成です。
いかがでしょう?ちょっと濃い目のタレと、ふわっとした具材。鶏肉の火入れはうまくいきましたか?エリンギも、ごく短時間で火入れを止めているので、ちょっとびっくりするくらいジューシーじゃないでしょうか?
しっかりじっくり煮込む本家の三杯鶏とは方向性が異なりますが、軽やかさのある今回のアレンジも、なかなか美味しいと思います。
前回の八宝菜と同じく、先に具材に火を通しておくことで、短時間でフレッシュに仕上げる手法。練習しておくと、中華のお総菜づくりがぐんとレベルアップします。ぜひトライしてみてくださいね。
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