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魔窟と三段落ち
夫のカバンの中は汚い。
汚れているとかではなく、レシートや飴の空袋など乾いたごみが散乱しているのだ。
多分外出時はカバン=ごみ箱という認識でいるのだと思う。
もちろんごみ以外のものもちゃんと入っている。
行く先々で受け取った書類、ポケットティッシュ、ガム、折り畳み傘…
これらが乱雑に放り込まれている。
そんな魔窟のようなカバンから生まれた三段落ちの話。
飼い猫のワクチン接種のため、動物病院に行った日のことだった。
その日は前もってお願いしていた、これまでの検査や診察の経歴をまとめた書類の受け取りも兼ねていた。
その書類の関係で、先生から
「この前の○○ちゃん(猫の名前)の尿検査の結果って今お持ちですか?」
と尋ねられたので、夫は
「どうだろう、あるかな」
と魔窟の中をガサゴソし始めた。
前述の通り渡された書類はカバンの中へ放り込んでそのままなので、多分猫の尿検査の結果表も入っているはずだ。
ただ残念ながらその場ですぐに目当ての書類が出てくるような整理されたカバンではない。
まず最初に
「これか?」
と夫が取り出したのは、その尿検査をしてもらった時の領収書だった。
惜しい。
「あ、これかな?」
次に出てきた紙にはたしかに検査結果的な数値が記載してあったが、先生に見せたところ
「あーこれは血液検査の結果ですね」
とのこと。
しかしこれも遠からず。
そして再びガサゴソ…
「あったあった!」
自信に満ちた顔で取り出した紙にもたしかに何かの成分名やら数値やらが並んでいた。
うちの猫が直近でしてもらったのは血液検査と尿検査だけだ。今度こそ見つけたかな?と私も安心した。
のも束の間
「あ、これ俺の血液検査結果だ。」
いやお前のかい。
先生もこりゃだめだと思ったのか
「無さそうならこちらで保管している分コピーするので大丈夫ですよ!」
と苦笑い。
私は先生にすいません、と頭を下げながらちょっと感心していた。
こんなナチュラルに三段落ちが決められることってなかなか無いんじゃないか。
夫のカバンは時と場合によっては予想外の展開をもたらす、雑多で未知でちょっとワクワクする本当に魔窟のようなカバンだった。
…とはいえ、ちゃんと整理された綺麗なカバンであるに越したことはないのだけど。
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