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象乗りについて真剣に考えた

タイ観光で人気のアクティビティの一つが象乗りです。しかし、近年主に動物愛護団体から「人間に従順な象というのは自然な状態ではなく、人間による虐待過程を経てそうなっている。そんな残酷なアクティビティを支援してはいけない」という批判にさらされ、「no elephant ride(象乗りなし)」が新しい倫理的な観光アクティビティの旗印と掲げられるようになってきています。

lonely planet(世界一のシェアを誇る英語の旅行ガイドブック)では2014年から象との倫理的な触れ合い方が紹介され、2020年にはカンボジアのアンコールワットでの象乗りが廃止される予定という流れの中、日本のガイドブックでは相変わらず象乗りアクティビティが目玉の一つとしてライトに取り上げられています。そんなギャップに違和感を覚え、象を取り巻く状況について極力多面的に調べてどう行動するのが良いか考えてみました。

個人的に導き出した結論は下記の通り;

象を絶滅から守るためには、効果的な保全施策ができるまでは家畜化された象を観光で養っていくことは現実的には必要そう。象乗り自体が本当にいけないか決めかねるが、SNS炎上から身を守り、かつ極力家畜化象の健康を保つ(飼い主の生活水準を上げる)ために、倫理的な運営をしていそうな団体のアクティビティには積極的にお金を落とすのが現実的には良策に思える。

タイ各地で「象の生息環境に配慮した」「ethical」「sanctuary」などを謳ったアクティビティが増えているので、関心を持ってくださった方は探してみてください。主に、サーカスなど観光業に従事していた象などを引き取り、お世話をしている団体が多いです。

また、この結論を導き出した私の基本的な立場は以下です。

- 次世代にも美しい自然は残したい。
- 世界に多様な文化が存在するということが、この世界の面白いところだと思う。文化に優劣も正誤もなく、文化の違いは尊重したい。

まず象目線で考える


タイにおける象の生息数は;

野生の象の個体数→4000弱
家畜化された象の個体数→4000弱

でほぼ半々なのが現状です。20世紀初頭は野生の象が30万、家畜化象が10万だったので、2%しか残っておらず、文字通り激減しています。

象が絶滅危惧種に追いやられた主な理由は人口増加や森林の農地開拓による生息地の減少。加えて、象牙や観光利用するための猟が拍車をかけたとのこと。

では、現状一番の脅威はというと、生息地の分断による遺伝的多様性を確保できないことです。そのため、観光利用されている家畜象が遺伝的多様性の維持に貢献できるのではないかと期待が寄せられています。

つまり、象の生存が危機的な状況において現実的には、引き続き観光業である程度の個体数を養い続けないといけない、ということです。


象と人との関わりは?

この話題の出発点になっている象虐待への批判について、ここでは深く解説しませんが、確かに象の調教の様子を記事や写真で知るのは心が痛みます。2019年6月のNational Geographic "Suffering unseen: The dark truth behind wildlife tourism"がよく引用されているので、気になる方は読んでみてください。

象とタイ人と関わりを振り返ると、その歴史は長く、最も古い物的証拠としては、アンコールワットにタイ軍が象に乗っている様子が描かれているようです。古くから象は戦争、移動手段、近代では林業に使われてきました。

タイ北部出身のタイ人と話すと「自分が出身の町には病院がなく、妊婦さんは隣町まで象に乗って2時間半かけて移動していた。今では象よりバイクの方が速いけど」と言っていました。世界の他の地域で馬や牛が担っていた力仕事を、タイでは象が担っていたのです。それもつい最近まで。

象の虐待が良くないということは賛成しつつ、私の心の中で葛藤が生まれるのは、こんな背景がある国で、「象乗りは何が何でも虐待だ」と決めつけるのは異なる文化から見た「野蛮」の押し付けが少し混じっているのではないかと思ってしまうからです。

“In Asia, we haven’t quite figured out whether we love these animals or hate them,”


象の写真家の方の記事で、「人々は象を愛しているのか、憎んでいるのかわからない」という言葉がありました。とても面白い指摘で、恐らく実際に愛しているし、恐れているのではないかと想像します。

象は野生動物なので本来適度な距離感を保たないと危険な生物です。事実、野生の象との予期せぬ接触でタイでは月に何人か死者が出ています。生活をするために、この危険で巨大な生物の力を借りる必要があり、そのために編み出した方法論が調教(虐待)だったのだと思います。(虐待を肯定している訳ではなく、経緯としてはそうだったのかなと想像しています。)

付き合いが長く、身近な存在だからこそ、象は愛する対象であり、畏怖の対象であり、御して利用する対象である、という入り混じった感情があるというのはすべて本当のことなのではないでしょうか。

調べきれなかったタイにおける少数民族の生活水準について

もう一つ、この先はしっかり調べきれていないのですが、もともと象使いのノウハウはミャンマーとタイの国境沿いに住んでいた山岳少数民族カレン族が有していました。今でもタイの象は主にカレン族が飼い主になっています。
この少数民族が象使い以外にタイ社会で生活するすべが確立していないから貧困から脱せず、また貧しい人に飼われている象の生息環境もすべからく悪い、という状況が背後に透けて見えました。


まとめ

ものごとはそう単純に黒か白か決められるものではなく、何かをボイコットするだけではその問題の根本解決に繋がらないということを改めて感じました。(象乗りがなくなったら、動物愛護の観点で気持ちの良い世界は出来上がるかもしれないけど、4000頭の象が路頭に迷って象の絶滅を加速させるかもしれない)本件、調べ始めたら沼が深くて大変でした。

改めて、取り急ぎの私の結論は下記です;

象を絶滅から守るためには、効果的な保全施策ができるまでは家畜化された象を観光で養っていくことは現実的には必要そう。象乗り自体が本当にいけないか決めかねるが、SNS炎上から身を守り、かつ極力家畜化象の健康を保つ(飼い主の生活水準を上げる)ために、倫理的な運営をしていそうな団体のアクティビティには積極的にお金を落とすのが現実的には良策に思える。

※その他参考
http://www.eleaid.com/country-profiles/elephants-thailand/
http://www.fao.org/3/ad031e/ad031e0r.htm

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