問題は、多くのことが変わりつつあるために、過去のロールモデル(生き方のお手本となる人物)があまり役に立たないことだ。あなたの親の世代に有効だったキャリアの道筋や人生の選択が、あなたにも有効だとは限らない。あなたは、親の世代とは異なる選択をすることになる。やがて、あなたの子どもたちも、あなたの世代とは違う決断をするだろう。 『ライフ・シフト 』より *****
「私のお母さんは専業主婦です。仕事と家庭を両立するってどうやるのか、正直イメージが湧かず不安です。」
以前高校生のキャリア相談を受けたときに言われた言葉です。自分の一回り下の世代も「お母さんが専業主婦」がまだまだ多くて、自分と同じような悩みを抱えているということに新鮮な驚きを感じました。
でもそれは確かに考えてみれば分かることで、専業主婦世帯数と共働き世帯数がやっと並び始めたのが1990年代なので、「親が共働きの方が当たり前の世代」が社会に出てくるのは、2030年以降になるのではないでしょうか。
冒頭の高校生に対する私の回答はこうでした。 「今働いている世代は子どもを産んでからも職場復帰して働いている層が多いから大丈夫。あなたたちが社会に出る頃にはもっと働きやすい、両立しやすい社会にきっとなってるし、私もそういう道を作れるように頑張るね」 半分、自分に言い聞かせながら。
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「母親が専業主婦」がまだ多数派な環境で育った私たちがこれから生きる時代は、母親世代の生きてきたそれと何が違うのでしょうか。そして、「両立しやすい社会」を作るためには何が必要なのでしょうか。
『Unfinished Business (邦題:仕事と家庭は両立できない? )』では、これまでの世代は「女性が男性と同権を手に入れる」ことを目指していたが、「女性が社会進出を果たした今、新しいライフスタイルをどう構築するか」がまだ社会課題として残っている、と主張しています。
専業主婦世代の両親の生き方を真似て、共働き世代の個人が「父親並みの働き方」と「母親並みの育児への参画」の両立をするのは無理があります。無理なら無理で、共働き世代の私たちはどんなライフスタイルを確立する必要があるのか。『Unfinished Business 』には、「男性の育児への参画」と「社会全体として育児の積極的評価」が大事だと書かれています。
男性の育児参画をサポートする 男性の育児参画を阻む要因は、本人の意思以外にも様々なものがあります。
1. 対女性よりも深刻なハラスメント
女性はある意味妊娠すれば「産休育休を取るんだろう」と自動的に想定してもらえますが、男性はそうはいかず、「男性はキャリアを優先するだろう」という周囲の期待を裏切らないといけません。
ライフネット生命保険の調査によれば、働く男性の6割以上が育休取得を望んでいますが、「男性が育児休業を取得できる雰囲気がある」と答えた人は23.6%にとどまります。女性の73.7%に比べて、50%近く少ないのが実状です。 職場でのハラスメントだけではなく、日常生活の中の小さな分かりにくいハラスメントも存在します。男性の育児能力に対する期待値が社会の中で低いことは、本人の自尊心を低める可能性があります。
The act of labeling someone 'a good dad' suggests that most dads are, somehow less than 'good'. (訳)「良いお父さんですね」と安易に褒めることは、「一般的にお父さんというものは「良い」という基準に満たないものだ」という暗黙の前提があることを示している。『Unfinished Business 』より 2. ロールモデルの不足
職場において女性がロールモデルがいなくて困っているのと全く同じ構造で、育児において男性がロールモデルがいなくて困ることは想像に難くないでしょう。
Men need role models to be comfortable making the choice to put their families first. (訳)男性が家族を優先するという選択を安心してできるようになるためにも、ロールモデルの存在が必要だ。『Unfinished Business 』より 3. 女性側の覚悟
これが意外と盲点かもしれません。「夫が全然育児に協力してくれない!」と嘆きつつ、いざ、夫が主たる保護者になって、子供がもっぱら懐いて頼るのが夫になったら母親のプライドが傷つく、といったことってありませんか?私は正直ドキッとしました(子供いないけど)。
if we are prepared to let men be equal caregivers just as we insist on being equal competitors, then we have to be very honest about our deepest needs and desires. (...) to relinquish being the center of your children's universe. (訳)もし男性に同等に育児参加をしてもらうなら、私たち女性が心の奥底で持っている、「子どもと一番近い関係にあるのは母親の私でありたい」という欲求は手放さないといけない。『Unfinished Business 』より 社会の価値観を変える そもそもに立ち返って、男性も女性も育児に参画すると仕事で差別をされるのはなぜでしょうか。『Unfinished Business 』では、「仕事と家庭の両立ができないのは女性の問題」から「社会全体としてケアを過小評価しているのが問題」と問題の定義を変えます。
the workplace is discriminating in favor of workers who can outsource caregiving to someone else. (訳)現代の職場は、育児業を誰かにアウトソースできる人が得をするように設計されている。『Unfinished Busines 』より 一直線に最短・最速で駆け上がっていくキャリアだけを標準形とするのではなく、男性も女性も、ライフステージに応じて仕事のペースをゆっくりにしたり、フレキシブルにしたりする可能性があることを前提に、社会や会社の価値観と仕組みを変えていく必要があります。育児とキャリアが共存する「両立することができる社会」とはそういうことではないでしょうか。
if someone you thought was on leadership track slows down to work on a more flexible schedule due to caregiving responsibilities, assume that his or her ambitions have not changed. (訳)順調に出世街道を登っていると思っていた人がある日ペースを緩め、育児のために時短勤務で働くようになっても、その人の野心がすっかりなくなってしまったとは思わないようにしよう。『Unfinished Business 』より ここまで主に『Unfinished Business 』から引用してきましたが、他の本のアドバイスも少し紹介します。
フレキシブルは大事 仕事の時間の融通がきくというのは、予測不可能な育児と仕事を両立する上で重要です。フレックスタイム制や、働く場所を選べるリモートワークは解の一つであり、コロナでテレワークの浸透が進んだのは、共働き子育て世代にとって朗報だったと思います。
if you want to know the solution, this is it: Having control over your schedule is the only way that women who want to have a career and a family can make it work (訳)仕事と育児の両立のコツについて教えるなら、自分の働くスケジュールに対してコントロール権を持つこと・フレキシビリティを確保しておくことより他にはない。 『Midlife Crisis at 30 』より 夫婦間でよく話す 『Couples that work 』では、夫婦平等の時代では、夫婦間の話し合いがますます重要になることを説いています。「仕事=父、家庭=母」というシンプルな方程式で成り立っていた時代よりも、タスクの分担が複雑になるからです。このことも、共働き世代が初めて直面する、社会としてノウハウを蓄積しないといけない領域だと思います。
couples must accommodate to the life event they face by deliberately negotiating how to prioritize their careers and divide family commitments in ways that respect each other's needs, fears, and dreams - and reflect the one they share. (訳)ライフイベントに対して、夫婦はそれぞれのニーズ・恐れ・夢を加味しつつ、どうやってキャリアの優先順位をつけ、家事育児を分担するかをはっきりと交渉しないといけない The result (of the "I'll cherish your freedom, and you mine" attitude) is a zero-sum game. One partner's gain is the other's loss. This deal, in which there is inevitably a winner and a loser, breeds resentments and envy, putting couples on the fast track to breakup. (訳)「私はあなたの自由を尊重するから、あなたもそうしてね」という、自立した二人を前提とする交渉はどちらかが得をすればもう一方が損をする、ゼロサムゲームにしかならない。この交渉法は夫婦の間で恨みを残すことになるので、お勧めできない 「共働きの場合、ワークライフバランスは個人単位で考えるのではなく、夫婦単位で考えるべし」 『女性に伝えたい未来が変わる働き方 』より <まとめ>「両立しやすい社会」に必要なことは? 1. 男性が育児に参画しやすいようにサポートする 2. 育児参画する人を差別しない社会・会社の仕組みを作る 3. フレキシブルに働ける環境を作る 4. 夫婦間のコミュニケーションを密にする習慣を作る
<参考文献> つい「両親の生き方」を基準・ベンチマークにして自分の生き方を描いてしまいがちだったので、色んな思い込みを解体してくれるこれらの本を読めて良かったです。