スイスのフランス語の数の数え方
以前、スイスのフランス語圏に住んでいた。
スイスにはご存じのとおり、4つの公用語(ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語)がある。
もっとも多いのはドイツ語話者で、フランス語話者はスイス全体の約2割程度。
ただ、このスイス・ドイツ語がなかなかの曲者で、「ドイツ語」といっても、本家ドイツのドイツ語とはだいぶかけ離れている。ドイツ人が聞いてもなかなか理解に苦しむレベルだそう。ドぎつい青森弁といったところだろうか。
一方、スイス・フランス語はほぼフランスで話されている標準フランス語と同じ。若干のアクセントはあるらしいが、外国人の私たちからすれば微々たる違いである。
ただ、大きく違う点がある。
それは数の数え方。これがスイスはめちゃくちゃ合理的なのだ。
まず、フランスの標準フランス語。
まずは1(アン)2(ドゥ)3(トロワ)・・・
このあたりはとにかく覚えるしかない。オッケー。
10:dix(ディス)
20:vingt(ヴァン)
30:trente(トろントゥ)
40:quarante(キャろントゥ)
50:cinquante(サンコントゥ)
60:soixante(スワソントゥ)
ここまで来ると勘のいい方は、なるほど、10の位は「ほにゃららントゥ」なんだな、と気づくかもしれない。問題は次。
70:soixante-dix(スワソントゥ ディス)
言い換えると、「60 10」。60+10=70。え、なんで急に足し算出てきた?
80:quatre-vingt(キャトル ヴァン)
「4 20」4×20=80。え、次掛け算?
90:quatre-vingt-dix(キャトル ヴァン ディス)
「4 20 10」4×20+10。フルコンボ。終了。
もちろんこの間の数字、たとえば「72」ならsoixante-douze(60+12)、「97」ならquatre-vingt-dix-sept(4×20+17)となる。
もうわざと数字覚えさせないようにしているとしか思えない。
さて、スイス・フランス語というと。
60までは同じであるが、それ以降は実に合理的。
70:septante(セットントゥ)
7がsept(セット)なので、「ほにゃららントゥ」の法則でセットントゥ。わかりやすい。
80:huitante(ユイトントゥ)
8がhuit(ユイット)なので、いつもの法則。
90:nonante(ノノントゥ)
9がneuf(ヌフ)なので、ヌフントゥ?と思いきや、ノノントゥ。言いづらいからかな。響き可愛いから許す。
どうだろうか?だいぶわかりやすいのではないだろうか?
ちなみにベルギーのフランス語もこの数え方らしい。
おそらく10進法が一般的になるにつれて、こちらの数え方の方が言いやすいよね、ってことで、数の数え方も進化したのではないかと思われる。
フランスは自国の言語に対してヒジョーに保守的な国なため、昔ながらの言い方を保持している。それかただの外国人学習者に対する意地悪←
ちなみに合理的!と褒めておいてアレだが、スイス国内でも実は表記に揺らぎがある。
ジュネーブでは80だけなぜかフランス式だし、カントン(州)によってはoctante(オクトントゥ)と言う場所もあるらしい。
子供の頃、ローザンヌからジュネーブに引っ越してきた友人(スイス人)は、「学校の算数の時間に、いきなりみんな80のことをquatre-vingtと言い出すから、びっくりしたー」と言っていた。
私はというと、このスイス式の数え方をすっかり気に入って使っていたのだが、フランスでうっかり同じように言うと「え?」と聞き返されてなんだか恥ずかしい気分になったので、それ以来、場所によって使い分けている。
スイスの時はスイス式、フランスの時はフランス式。
というわけで、フランス語学習者の方がスイスを訪れる際は、ぜひスイス式の数え方を使ってみてほしい。
「お、こいつ分かってんな!」とスイス人との距離が縮まること間違いなしである。たぶん。
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