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かつて流行った「情報収集術」は、なぜ姿を消したのか?

こんにちは!

みなさん、ふだんの情報収集はどのようにしているでしょうか。SNS、YouTube、Webメディア、ブログ、書籍、新聞、雑誌、ラジオ、セミナー、イベント、雑談……いろいろな方法がありますよね。

かつて「情報収集術」といえば、ビジネスメディアが頻度高く取り上げるテーマでした。どれだけ短時間で、効率的に、質の良い情報を集めて、仕事に活かすか――。

ところが、最近は「情報収集術」をテーマにした記事をほとんど見かけなくなりました。ぼくはビジネスメディアを定点観測し続けているのですが、「一流の人は、効率的な情報収集によって知識と教養を得ている」みたいな言説は明らかに減ったと感じます。

かつて一世を風靡した「情報収集術」系のコンテンツは、なぜ姿を消したのか。

今回は、「情報収集術」系コンテンツの変遷を考察してみたいと思います。

スマホの普及に合わせて「情報収集」に悩む人が増えた


2016、2017年を振り返ってみると、「この情報過多時代をどう乗りこなしていくか」という視点でのコンテンツが多かったと感じます。たとえば、次のようなテーマです。

  • 短時間で多くの情報に触れるための方法

  • 質の良いメディアの選び方

  • 情報を知識に変える勉強法・記憶術

象徴となるのが、池上彰氏と佐藤優氏の共著『僕らが毎日やっている最強の読み方』です。2016年12月に出版され、10万部を超えるベストセラーになりました。同時期に発売された同テーマの書籍のなかでも、いちばん話題になったと思います。

ではなぜ、この時期に情報収集術が注目されていたのか。

要因のひとつとして考えられるのが「スマートフォン(スマホ)の普及」です。2010年に約4%だったスマホの所有比率は、2015年に50%を突破し、2016年に約60%、2017年に約70%と急上昇しました。スマホの普及率が加速度的に高まるにつれ、「情報収集術」系のコンテンツも増えていったわけです。

つまり、ぼくたちは新たな通信機器を手にして便利になった一方、混乱してしまったのではないでしょうか。新聞や雑誌、書籍と違って物理的な制約がなく、読んでも読んでもなくならない。それどころか次々と新しい情報が出てくる。まるで無限に続くもぐらたたきゲーム。混乱というより絶望に近いかもしれません。

そんななかでは「これだけの情報にどう向き合えばいいのか」と不安や疑問を抱くのも当然です。

スマホを所有する人が過半数を占め、生活に欠かせないアイテムになったこと。それが「情報収集術」が世に支持されるコンテンツになり、一世を風靡した理由ではないか――。ぼくはそう考えています。

ケータイ・スマートフォン所有者のうちのスマートフォン比率(調査対象:全国・15~79歳男女) 出所:NTTドコモ モバイル社会研究所「2022年一般向けモバイル動向調査」

「情報収集術」が不人気になった理由


2016、2017年前後の情報収集術は、一言でいえば「マッチョ」でした。

一流のビジネスパーソンたるもの、賢くスマホを使いこなし、スキマ時間を無駄にせず、最新の情報にキャッチアップすべし――。そういう思想が根底にあったように感じます。

でも、人々は徐々に気づいていきました。「自分にはこんなに大量の情報は必要ないな」と。同時に、情報疲れする人が増えていき、情報マッチョ信仰の反対勢力となるデジタルデトックスも市民権を得るようになりました。

情報収集の限界に気づき、情報と距離を置く人が増えた。これがこの7、8年起こった「情報収集術」系コンテンツにまつわる変化だと思います。

ちなみに世界的に見ても、情報疲れは顕著です。ロイター研究所の「デジタルニュースレポート2024」によると、「ニュースの多さに疲れを感じる」と答えた人の割合は39%で、2019年の28%から増加。日本でも約2割の人が「ニュース疲れ」を感じているそうです。

「AIへの拒否感」と「リアルさ」という2つの変化


では現在、情報収集はどのような文脈に置かれているのか。最近興味深く感じている現象が2つあります。

1つは、「AIがおすすめする情報にうんざりしている人」の増加です。AIはユーザーが関心のある情報を紹介してくれるので、最初はそれを「便利」ととらえる向きが強かったのですが、ここ1年くらいでその風潮は衰退した感覚があります。具体的には、主体的に情報を選んでいく姿勢の人が増えたと感じています。

端的な例としては、X(旧ツイッター)において「おすすめ」は一切見ず、「フォロー中」だけ見る人たちです。たしかにXは改悪も含め、いろいろ振り回されることが多いので、うんざりする気持ちもわかります。

運営側は「興味のある情報をたくさん流すほど、ユーザーをより中毒化させられる」と考えているのかもしれません。たしかに、流れてくる情報を鵜呑みして「あっちの世界」に行ってしまう人もたくさんいるわけですが、その揺り戻しというか、「スマホばかり見ているのは不健康だ」「そんなことに時間を割いて一喜一憂するのって有意義じゃないよね」と感じる人も増えている気がします。

2つめは発信にも関わることですが、「情報にリアルさが求められている」ということ。「映える」「盛る」といった加工文化が衰退してきたと言い換えられるかもしれません。

これを象徴するのが、2020年にフランスでリリースされ、Z世代を中心に注目を集めているSNSアプリ「BeReal(ビーリアル)」です。2022年初頭から半ばにかけて急速に人気を獲得したそうですが、ぼくもここ半年くらいで耳にする機会が増えました。

BeRealの特徴は「加工ができない」「1日に1回の投稿が必要で、2分以内に送ることが条件」「古い投稿は削除される」など。「その瞬間ごとのリアルを共有する」ことに重きを置いているといえそうです。

知り合いの女性インフルエンサーに聞いた話によると、たしかにXやインスタでも「ザ・加工はもうださい」そうで、でもかといって「素をそのまま出すのも違う」そう。写真でいえば、日常をそのまま切り取ったようなラフさを意識するものの、清潔感のないものはきちんと排除する、ということらしいです。

バランスのとれた情報収集を


情報収集の世界は、「できるだけ多く」から「本当に必要なものを」という方向にシフトしています。

しかし、この変化には光と影があります。情報との距離を置くことで精神的な余裕が生まれる一方、重要な情報を見逃すリスクも高まります。また、AIによる情報のパーソナライズは便利ですが、エコーチェンバー(似た意見ばかりに囲まれる状況)を生み出す危険性もあります。

これからの時代、重要なのは以下のポイントだと考えます。

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  1. 「自分の考えと異なる意見・立場の情報」にも意識的に目を向ける

  2. 新しい技術・サービスを活用しつつ、批判的思考力を磨く

  3. 定期的に「情報断食」して、リフレッシュする時間を設ける

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自分なりの「ちょうどいい」情報との付き合い方を見つける。それが、この情報過多時代を乗り切るための新しい「情報収集術」になるかもしれません。

では、また次回の記事でお会いしましょう。

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