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小倉竪町ロックンロール・ハイスクール vol.29

「今度うちのスタジオ主催で“高校フォーク・ジャンボリー”っていうコンテストをやるんだけど、ウッチーたちも出ない?」
「フォークですか? オレはロッカーですもん。フォークシンガーやないけん…」
「フォークもロックも良いものはイイし、オマエらフォークは暗いとか、貧乏臭いとか言ってバカにするけど、パンクだって暗いじゃん?」
「ボクは明るいパンクバンドを目指しとるとですけど…」
「ん…? 明るいパンク? そんなもんはない!」

 いつものようにスタジオへ遊びに行ってヒマそうにしていたら、「高校フォーク・ジャンボリー」というコンテストにエントリーしないかと、ベース教室の鈴木先生から誘われた。
「チケットを30枚売ったら、賞を獲らせちゃうけどな…」
 鈴木先生がニヤリと笑った。
「賞状とかもらっても、しょーもなかけん…」
「1等になったら、うちのスタジオでデモテープをタダで録音できるし、シーナ&ザ・ロケッツのフリーライヴが夏のイヴェントであってさ…、その前座だってできるんだけどね…」
「デモテープとシナロケはイイですね…。ホントに30枚売ってくれば、賞がもらえるとですね?」
「エンターテイメントは客を集めてナンボだからね。オレね…、審査員もやるんだよね…」
 鈴木先生にその気にさせられて大会の申込書をもらったものの、文化祭を最後にバンドは解散だ。
 まず、セイジくんに声をかけた。
「でも今のバンドもあるけん、もしライヴハウスとかのスケジュールが重なったらゴメンやけど、それでもイイなら…」
 条件付きながらも、とりあえずギターは仮押さえ。
 ドラムは、高1の時の同級生で“3年生を送る会”や文化祭の大トリを務めた生徒会バンドのドラマー、うちの学校で一番上手いコータに声をかけたら、「よかバイ!」と即答でOKしてくれた。
 最後にヴォーカルを誰にしようかと考えた。せっかくの機会だから、今までと違うことをやりたい。そこで思い出したのは、文化祭でユーミンを歌っていた軽音楽部の女子だった。真面目そうで、ちょっと地味な感じだったけど、歌が圧倒的に上手かった。コータに聞いたら、その女子のクラスを知っていたので、セイジくんも誘って3人で呼び出した。
「文化祭の時に聴いたら、すごい良かったけん、今度“高校フォーク・ジャンボリー”ちゅうロックのコンテストに出るんやけど、歌ってくれんね? オレらロックバンドを演りよると。学園祭にも出とったんやけど…」
「おぼえとるよ。“3年生を送る会”でも演ってたよね? ちょっと怖そうな人たちよね?」
「全然怖くないけん。明るいロックバンドやもん! どうね? 歌ってくれる?」
「………? うん、演ってみたいけど、何すると?」
「一緒に演ってくれるん? ありがと! 1曲はオリジナル演るけど、もう1曲は歌いたい曲を持ってきて」
「ホントに私が曲を選んでも良かと?」
「イルカでも中島みゆきでも何でも良かけん…」
 ニュー・ミュージックのバンドでユーミンを歌っていたシライさんが加わった。

 次の日、シライさんが持ってきたテープには、パット・ベネターの「ヘルタースケルター」が入っていた。
「激しい曲やけど、これで良かと? 無理して俺らに合わせんでも良かとよ?」
「うん、この曲を演ってみたいと!」
 大会に出るため、1回だけスタジオに入り、「ヘルタースケルター」とオリジナル曲を録音して、カセットテープと大会出場申込書を鈴木先生に手渡した。ちなみにオリジナル曲と言っても、前のバンドで演っていた唯一のオリジナル曲のベースラインを変えただけで、歌詞は“高校フォーク祭”らしい青春ソングを作った。

「どこまでも続いている地平線に向かって走ってみよう…
 まだ俺たち若いんだから、自分を信じて行けば良い…
 Go! Go! Let’s Go! Go! Go! Let’s Go! …」

「ゴメン! 本選の日にライヴハウスが決まった…」
 予定どおりテープ審査を通過して、チケット30枚を鈴木先生から渡されたものの、セイジくんが演っているバンドのライヴがコンテストと同じ日に決まり、出られなくなった。
 新しいギタリストは、迷わずコータと一緒のバンドで弾いていたツヨシを誘った。ロックンロールならセイジくん、速弾きならツヨシとうちの高校で言われていたテクニシャンで、悪名高き旧2年8組の一員でもあった。
 せっかくギタリストが新しくなったので、オリジナル曲を新しくすることにした。なぜなら、応募した青春ソングをあらためて家で聴き直していたら、その歌詞が恥ずかしくなってしまったのだ。
 …とは言え、本選まで時間がないので、やっぱり前のバンドで演っていたダムドの曲をオリジナル曲にすることにした。
(ショウイチのことをもう責められんな…同罪やん…)
 2曲を合わせて1曲にして、青春ソングの失敗を繰り返さないために、ドアーズをレスペクトしてジム・モリソンの歌詞を参考にした。そしてサビは高2の追試で出てきた杜甫の詩をオマージュしてくっ付けた。

「口が乾いてしまって叫ぼうとしてもどうにもならない…
 ただただ溜め息をつくばかり…」

(さすが杜甫! 教科書に載るだけのことはあるちゃ!)
 漢詩とロックの融合に自画自賛した。
 オリジナル曲(?)が完成したので、後は練習だけど、コンテストまで時間がなく、スタジオは当日を含めて2回、合計2時間しかできない。
 まず、1回目の練習。さすがテクニシャンのコータとツヨシ。ちゃんと完コピできている。(イヤ、オリジナル曲だからコピーではないのだけど…)
 シライさんのヴォーカルも上手い! 良い声をしている。「もう少しラフに歌った方がロックっぽい気かな?」「オリジナル曲の歌詞が演奏にまだ乗りきれていないかな?」とは思ったけど、声量があるし音程も確かだ。
 問題は自分のベース…。メンバーが違うから当たり前だけど、ドラムの刻むリズムに乗れていないし、ひずませたギターの音とも絡めていない。他の3人に比べて力量不足がありありと分かってしまう。前のバンドは下手くそな分、練習だけはしていたから、それなりにまとまり、勢いだけはあったけど、このバンドではベースのせいで音がバラバラに聴こえてしまう…。練習を重ねるしかないな…と思ったけど、スタジオ練習はあと1回。大会当日の日の1時間。



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