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建築はゲンスンだ

地球建築家11-2 吉村順三


吉村順三の建築は、実物の迫力が凄まじい。

その理由は、吉村が建築をゲンスンで考えているからだ。

ゲンスンとは「原寸」である。「実際の大きさ」、「1分の1の縮尺」ということである。

吉村の建築は、膨大な原寸図の上に成り立っている。原寸図を描くと、モノにリアルに向き合うことになる。

モノにリアルに向き合い、練りに練られた原寸図によって出来上がる実物の迫力はものすごい。

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「軽井沢の山荘B」設計:吉村準三 (写真はネットより引用)

今の時代、原寸大の図面を描く人は本当に少ない。

住宅などの小さな建物だと、まだ描いている人はいるかもしれないが、大きな建物になると、よほどこだわりのある設計事務所以外は、原寸図を描くことは皆無になる。

建築家の千葉学氏が日本設計の社員時代に巨大なプロジェクトで「最初から最後まで1/200以上のスケールの図面を見たことがなかった」と雑誌インタビューに答えていたのを読んだことがある。

現代は、それだけ「実物」への執着が希薄になっているのだ。遠く離れたところからしかモノを見ていない。鳥の目で空から眺めているだけなのだ。

吉村は、その危険性を誰よりも理解していた建築家であるように思う。鳥の目と同時に虫の目も持ち合わせていた。

とにかく「実物」に徹底的にこだわった。

そのこだわりがよくわかる吉村のシンプルな言葉がある。

「建築の勉強というのは、実物を見なければダメだと思うのですよ。人間の生活に本当に必要なものをつくるわけですからね」

吉村のこだわりが最もよくあらわれるのは窓まわりである。

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「軽井沢の山荘B」の窓まわり写真 (写真はネットより引用)


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上二つは「軽井沢の山荘B」の窓まわりの原寸図である。(「吉村順三設計図集」新建築社より引用)

一見なにがなにか分からないかもしれない。上は平面の原寸図で下は断面の原寸図である。

注意してご覧頂くとお分かりかと思うが、建具の厚みから木目の方向、ガラスの厚み、建具レールの形にいたるまであらゆる情報が描き込まれている。

原寸図を描くと、いやでも「リアルなモノ」と向き合わざるを得なくなる。

「建具はもっと厚い方がドッシリとしていいのではないか。しかし、あまり厚すぎると重くなって開閉がしづらくなるな。」

「ガラスはこんなに薄かったら、風圧で割れてしまうのではないか。」

「ああこれでは横殴りの雨だと室内に入ってしまうな。」

などなど、ゲンスンはとてもメンドくさいし、ごまかしが一切効かない。

しかし、それを乗り越えた先に「迫力のある実物」があらわれるのである。

最近キャンプが流行っているようだが、これからはあえてメンドくさいことをみんなやりたがる時代になるような気がしている。

そんな時代が来たら「ゲンスン」の復権である。

吉村順三バンザイ。




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