〈詩〉ペイン 或いはミサイルと帯状疱疹

空襲警報が聞こえる。
鎮痛薬による幻聴。
汗で湿気たベッド。
暗がりに浮かぶ時刻は、23:27。
此処は、ミサイルの落ちるオデーサでも、ガザでもなくて、
物欲や、悪口や、ゴシップや、出会いに感謝や、無関心などが落ちる、東京。

医師は言う。
子供の時分に罹った水疱瘡が神経に潜んでいたのだと。
廃墟化したビルディングに潜む兵士。
迷彩服を纏ったヘルペスウィルス。
後頭部に出現した帯状疱疹は、火傷のよう。
師団の兵士は散り、
頭に張り巡らされている神経のすべてを、刺す。
熱した針で、
無慈悲に、
繰り返し繰り返し痛ぶり刺す。
呻く。
跳ねる。
弾倉のような、ロキソニンの束。

報復された報復により、毎日人が殺されている。
痛みを感じぬままに、死した者。
頭に傷を負い、今まさに痛みに苦しんでいる者。
東京では、
帯状疱疹に罹るぐらいじゃなければ、
遠い国の、
ミサイルを落とされた無辜の傷だらけの者たちに、思いは至らないんだ。

人の痛みが分かる人になりなさい、と人は言うけれど、
帯状疱疹が、その近道だっんだ。

空襲警報が聞こえる。
膿や血がシーツを汚し、固まる。
臭う。

痛みは、いつ、消えるんだろう。
いつ。

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