見出し画像

SaaS企業が買収する/されるとどうなるのか?M&A後の統合業務(PMI)について #SaaSLovers Day1

みなさんこんにちは!GW明けの今日から、#SaaSLovers はじめていきます。#SaaSLovers は、有志でSaaSに関するブログを書く企画です。今回で5回目となり、今までで90記事くらい上げています。今回の参加者様はこちら。アツい17名の方にお集まりいただきました。

17名で17日間お届けします!

さて、1日目の私は、SaaS企業のM&Aとその後の統合業務(PMI)について、書いていきます。

自己紹介

小松昇平と申します。過去10年色んなSaaS企業で働いてきました。特に立ち上げ期の経験が長いです。外資の方が長いですが、日系のスタートアップのアーリーフェーズも経験しました。現在はDoubleVerifyという昨年4月に上場した外資系のデジタル広告計測テクノロジー(アドベリフィケーション)企業で働いています。趣味で、ブログコミュニティ #SaaSLovers を3年ほど運営しています。

買収統合経験してるの?

はい、一般社員として2度経験しています。1度目は、以前働いていたDatoramaがセールスフォースに買収された時、もう2度目は、現職のDoubleVerifyがOpenSlateを買収した時です。(PMI真っ最中です)
企業の買収統合には色んなプロセスがあります。本記事では、買収後の事業統合、PMI(Post Merger Integration)に焦点をあてて、情報シェアできればと思います。

SaaS業界のM&A概観

SaaS業界のM&Aは引き続き活況です。SEG Capital Advisorsによると、FY20とFY21を比較して、M&Aの数はYoY40%増の1786件とのことです。*ソースはこちら

買収後統合に関する調査

下記はBCGが過去調査した、M&Aの成功に関する意味付けの結果です。(設問:この買収が成功したと思う理由の上位3つを挙げてください。Rank the top three reasons why you felt the deal was successful. )Top3は以下でした。

1. 文化や働き方を明確に定義したから(Defined a clear culture and way of working)
2. 顧客ニーズを満たすために、既存製品の新機能を共同開発することが可能になったから(Allowed for joint development of new features on existing products to best meet customer needs)
3. 新しい市場・顧客セグメントへのアクセスを提供したから(Provided access to new markets/customer segments)

Post-Merger Integration in Softwareから一部引用

上記から分かる通り、Culture, Product Alignment, Revenue Growthが上位に来ていることがわかります。

また、同調査では、PMIを成功させるために、どのようなことがもっとできたとお考えですか?(In your view, what could have been done  differently to make the integration more successful?)という質問もありました。その結果の上位は下記となります。

1. 人事や雇用に関する方針など、新組織の方針策定における協力的なアプローチ(Collaborative approach to develop new organization’s policies, such as HR and retention policies)
2. 顧客体験の優先(Prioritize customer experience)
3. 統合計画と実行の改善(Improve overall integration planning and execution)
4. 両社を統合するためのチェンジマネジメントの実施(Implement change management that unified the two companies)

Post-Merger Integration in Softwareから一部引用

組織/文化、顧客体験に加え、統合プロセスそのものへの言及があることがわかります。

個人の体験談

以下にて、グローバル企業がTech Giantに買収された時の体験をちょっとだけシェアできればと思います。一応のお断りですが、日本の営業拠点所属、かつ一般の営業職目線となります。

2019年4月に、来日中のMarc Benioffさんととった写真。Datorama買収をお祝いしてもらいました。

買収のアナウンス

企業買収は最重要極秘事項として、限られた人しか知りません。ほとんどの従業員は、買収締結書面を合意後、会社が外部にリリースした時点で知ることになります。 Datoramaがセールスフォースに買収されたときの情報はこんな感じです。

上記はニューヨーク時間の9時にリリースされて、日本は祝日(海の日)にもかかわらず夜の22時にテレビ会議が組まれて、社内でも発表されました。なんでこんな祝日の夜遅くにテレビ会議させるんだろ〜と思っていました。その会議でセールスフォースによる買収を聞いた率直な感想はこちら。

発表の次の日に当時Salesforce Ventures JapanのHeadだった浅田さんが挨拶と会社紹介に来てくださったのを覚えています。その後10日ほど経って冷静になったタイミングのツイートはこちら。

以上がリアルな感じです。

どんな流れで統合が進むのか?

統合の大まかなスケジュールは下記でした。

  • 2019年7月:買収合意が発表

  • 2019年8月:買収が完了

  • 2019年9月:セールスフォースへ転籍(雇用契約書再締結)、このタイミングでオフィスも引っ越し

  • 2020年2月:セールスフォースの会計年度にあわせ、本格的な組織統合(営業組織やプロセスなど)が開始

統合のパターン

すごーいざっくり、乱暴な整理方法ですが、下記2パターンがあると思っています。

買収後法人の二つの型

セールスフォースは、買収後速やかにセールスフォースの組織と社員に転換する傾向にあると思っています。(少なくとも私の知人にヒアリングした限りでは、すでにTableauもSlackの方々も、セールスフォースの社員となっているようです)その狙いは色々あると思いますが、個人的には以下の理由があるのではと思います。

  1. 一体感を感じながら、同じ方向に効率的に進めるようにするため

  2. 雇用体系、インセンティブプランを統合させて、クロスセル、アップセルをしやすくするため

  3. 比較的早期に、別のキャリアの選択肢を提示するため(SFDC内で別の製品、ポジションに就くことが可能)

逆にSAP型は、ConcurやQualtricsに代表されるように、別法人別組織として運営を継続する型です。こちらのメリットとしては下記が挙げられるかなと思います。

  1. それぞれの会社のカルチャーを維持できる

  2. 製品にあったインセンティブプランや組織を構築できる

  3. 買収前から存在する社員において、急速な変化に振り回されず、ゆっくりと変化に適応できる

買収後の組織の形は、当然のことながら買収後の方針によって変わりますよね。セールスフォースはさすが慣れてるなあと思ったのが、EBO(Emerging Business Operation)という組織があり、買収統合後のオペレーション整理を行うチームがあることです。M&A後のGo to Marketを担うチームと密接にやりとりし、全体のオペレーションを整えているチームです。このチームから定期的に今後どうなっていくのかのアナウンスがあり、また日本の事情も勘案して個別にやりとりしてくれるなど豊富なサポートがありました。

営業組織の形

SaaS業界における買収は概ね、大きな会社が小さな会社を取り込むことが多いと感じます。買収された側の営業パーソンは、どうなるのでしょうか?前述した通り、買収完了後の次の会計年度に、私は正式にセールスフォースの営業組織の一員になりました。当時のざっくりした組織体系は下記です。

2019年当時の営業組織。私は3列目の所属

1列目がお客様に近い立場です。遠くなればなるほど、製品担当営業の性質に近づきます。1列目がアカウントセールス、3列目がプロダクトセールスの性質が強いです。セールスフォースのようなTech Giantにおいては、取り扱う製品が多岐に渡るため、このように製品ごとの分業制を強いていることが多いのではと思います。

営業パーソンとしてのキャリア

上記のような組織体系は、大きな会社を運営する上で非常に有用です。しかし、1列目だった自分が3列目に移動したことで、下記のようなキャリア上のデメリットがありました。

  • 営業活動のテリトリーが制限される

    • 特定の領域(セールスフォースではお客様の従業員数)のみを担当する営業として動くことになりました。セールスフォースでは当たり前ですが、Datorama時代はすべての領域を担当していたので、これは結構なギャップがありました。

    • また、Datoramaは広告投資に関するソリューションなので、「従業員数が少なくても、広告投資が多ければ大きな収益ポテンシャルがある」お客様もいらっしゃいましたので、ライセンスビジネスで従業員でテリトリー分けする考え方とはあまり相性が良くなかったように思います。

  • 情報共有が必要となりフットワーク軽く動きづらい

    • 買収前は3人の営業組織が、ざっくり全体で600人になりました。お客様とやりとりをするときも逐一各担当営業との情報連携が必要となり、頻繁に社内説明が必要なことから、スタートアップのスピード感とはかなり異なる動き方が求められました。

  • お客様に直接提案しづらい

    • 上記の営業がそれぞれお客様を担当しており、様々な提案を行っている中で、全体的なアカウントプランのなかで、Datoramaの提案優先度を下げざるを得ないときがありました。

    • 例えば、マーケティング部門様のツール予算が限られており、Marketing Cloud導入を優先的に導入して、Datoramaは先送りする、など。

お客様の中で「セールスフォース」に期待することは多々あり、Datoramaがその中のOne of themになってしまうことに、忸怩たる想いがあったのも事実です。一方で、キャリア上のメリットもたくさんありまして、

  • スタートアップと比較して、大きな組織がどのように動いているのかが体験できた

  • セールスフォースのスーパー営業パーソンから、高度な提案の方法を学ぶことができた

  • 素敵な仲間にたくさん出会うことができた

以上のようなメリットもたくさんありました。買収統合により圧倒的にリーチできる顧客が増えますが、1営業平社員にとって上記のような特徴があることは頭の片隅に残したいところです。結果的に私は退職してしまったのですが、上記のような変化があることを客観的に把握できれば、また判断も変わったかもしれないな、と思います。

受け入れる側のマインドセット

Datorama / セールスフォースで以上のような経験をしつつ、紆余曲折もあり今はDoubleVerifyにて買収する側、PMIを進める側として動いています。

買収したOpenSlateはアジア地域に進出したばかりで、日本にOpenSlateの法人はなく、シドニーのメンバー1人でAPACを全て管理している形でした。また、日本のお客様のご支援は、OpenSlateの旧株主であるパートナー企業の日本拠点が担っていました。このような状況で、結果的に現在行っていることは下記となります。

  • 新規営業のプランニングと実行

  • パートナー企業から既存顧客の支援業務引継ぎ

  • 契約体系の整理と移管

  • プロダクトの理解と要望などのフィードバック

特に、パートナー企業からの引き継ぎにおいては、諸事情で買収完了後、ゼロから2ヶ月で実行する必要があり、それなりにタフな業務でした。

買収を受け入れる側のマインドセットとして、私が気をつけていることは下記です。

  • 買収受け入れは非常に嬉しいことだと表現する

    • 人によっては、キャッチアップすべき製品が増えたと感じるかもしれません。しかし、営業担当としては、「お客様に提供できる価値が増えて嬉しい」と感じるべきです。受け入れ側が積極的に行動することで、統合のスピードもあがると感じます。

  • One Team, One Dreamで、できることが広がったと理解する

    • チームが増えるということは、一緒に協働する仲間が増えるということです。OpenSlateのみんなも業界経験が豊富で、業界をよくしていこうという気持ちに溢れています。そのようなポジティブなマインドセットを伝播させるのが重要だと感じます。

  • 不確実性を楽しむ

    • とはいえ、決まっていないことがまだまだたくさんあるのも事実です。決まっていること、これから決めることを整理の上、不確実な状況を楽しむ気持ちも忘れないようにしたいところです。

私自身は、新たな会社を受け入れることで打ち手が広がり、日本のお客様に提供する価値が増えたので、今回の買収統合はとても嬉しく感じています。

ちょうどGWに営業会議があり、OpenSlateのメンバー含む営業部門のみんなとたくさん話してきました

もし所属企業が買収されることになったら?3つのアドバイス

買収されたOpenSlateのメンバーともたくさん話していますが、ちょうど、4月から新しい組織に移行したこともあり、色々と不安に感じていることもあるのではと感じました。また、日本でもこれからSaaS企業の買収統合が増えていくと推察されます。特にスタートアップのみなさんは、所属企業が買収される日も近いかもしれません。そんなみなさんに、私からささやかなアドバイスです。

  • すぐに辞めない!

    • 実は、Datoramaからセールスフォースに買収され、雇用形態が変わるタイミングでいくつかの仲間が退職を選択しました。その時々の意思決定はもちろん尊重しますが、もし辞めるかどうか悩んでいる方がいるとしたら、辞めないことをオススメします。たくさんの新しい出会い、学びがあることは保証しますので、ある程度買収後を経験してから辞めるのでも遅くないはずです。

  • 文句を言わない!

    • 統合は大体の人は初めての体験で、全体感が掴みづらく、方向性が変わることも多いです。嫌になることもあるかと思いますが、文句を言わず、不確実性を楽しみましょう。確実に稀少価値の高い経験なので、必ず今後の糧になります。

  • (セールスの場合)アカウントセールスに戻る道筋を作ろう!

    • 大体の統合の場合は、アカウントセールスからプロダクトセールスに転換されます。最初の1年はなんとかプロダクトセールスで我慢しましょう。その間、アカウントセールスのキャリアに戻れるように色々情報整理しましょう。もしかしたら案外プロダクトセールスでも良いかもしれないし、やっぱりアカウントセールスが良い、となるかもしれません。大きな企業でアカウントセールスになる道のりは楽ではなく、覚えることも多々ありますが、次のキャリア構築のチャレンジとして設定するのもよいと思います。

    • これを読んでいる経営者の方がもしいたら、買収後に、営業パーソンがプロダクトセールス⇆アカウントセールスのキャリアを行き来できるように、評価やキャリア設計をしていただけると助かります。セールスフォース内でも、昔のDatoramaの仲間がMarketing CloudやSlackやTableauにキャリアチェンジしていて、喜ばしいことだなと思います。

ちょっとした体験談をシェアするレベルでしたが、本記事は以上です。

これから統合業務に取り組むが、どのように進めるとスムーズなのか?一般従業員として会社が買収されちゃったけどどうしよう?などなどの観点で疑問をお持ちで、もし突っ込んだ話を聞きたい方がいましたら、ぜひお気軽にご連絡いただければと思います。TwitterのDMでお気軽にご連絡ください。

また、#SaaSLovers のTwitterアカウントがありますので、よろしければこちらもフォローいただけると助かります。ブログ企画期間中は毎日ツイートします。

最後に、#SaaSLovers 明日の2日目は、坂本達夫さんによる「マネージャー1年生が8ヶ月間でどんなインプットをしたか公開します」です。きっと達夫さんのことなので、骨太な内容間違いなし!どうぞお楽しみに!

おわり

参考文献
Post-Merger Integration in Software - BCG
M&A-driven sales & marketing Know where to play and how to win - Deloitte

ありがとうございます。