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【deflection efect B〜】第1話

【ディフレクション】
ディフェンスがスティールに至らずとも、
ドリブルやパスのコースをずらすこと。
これにより相手に精神的負担を与えたり、
味方のスティールに繋がる“かも”しれない。
例えるなら
野球でいう『カット』『牽制』
ボクシングでいう『スウェー』
サッカーはそのまま『ディフレクション』

NBAオールスター 13回
オールNBA 8回
FMVP 1回
NBA制覇 3回
NBAスター“カフーナ・ジョンソン”通称KJ
引退後、彼はメディアの前に姿を現さず
その動向は謎に包まれていた。
???
「KJ、あなたの幸運を祈ります。」

                 6月上旬 日本 成田空港
KJ
「ここが日本か。」
妻・アンナ
「どんな出会いがあるかしらね。」
ドンドン
栃木県へ移り日光観光に興じた夫妻は
ホテルへの道中、聞き馴染みのある音を耳にする。
KJ
「聞こえたかい?」
アンナ
「ええ。」
「相変わらずね、行くんでしょ?」
KJ
「悪いな、君は先に行って休んでいてくれ。」
アンナを見送り、
KJは1人音のする体育館へと入っていく。
突然の訪問者に手を止め驚く子供達。
しかしそれ以上に驚きを露にする人物がいた。年は20代前半か。このチームのコーチのようだ。
KJ
「Nice to meet you.」
コーチ
「Nice to meet you, too.」
「I speak English.」
以下、日本語訳
KJ
「カフーナといいます。もしよかったら練習を見学させてもらえないかい?」
コーチ
「やっぱりカフーナさんですね!
こんな所で会えるなんてっ!?」
「わ、わかりました。どうぞこちらに座ってください。私は“奈瀬公平”(ナセ コウヘイ)と申します。」
KJ
「よろしく。
気にせず、いつも通りにしてほしい。」
異様な空気の中、練習が再開されたが
子供達は次第に没頭し始め練習は熱を帯びていく。
KJ
「世界の何処であろうと子供達の熱中する姿は変わらない。」
子供達
「お疲れ様でした!」
練習後、子供達はKJに会釈し帰路に付き
体育館にはKJと公平が残った。
KJ
「今日はありがとう。」
公平
「いえいえ。」
KJ
「ところでこのクラブのレベルはどのくらいだい?」
公平
「そうですね。
県ベスト8くらいでしょうか?」
KJ
「日本では?」
公平
「それはちょっと、、、
見当がつかないですね。」
KJ
「そうか。」

「突然だが公平、僕を雇ってくれないか?」
公平
「!?あなたが?!」
KJ
「あぁ。」
「1年間、このチームのコーチをさせてほしい。」
公平
「そんな!願ってもないことです。」

「しかし私の一存では決められないので
親御さん達に相談させていただきたいです。」
KJ
「あぁ、返事が決まったら連絡してくれ。」
KJは宿泊するホテルを教えその場を後にした。
                                  ホテル
アンナ
「そう。いい返事だといいわね。」
               後日、保護者ミーティング
公平は保護者に一連の出来事を伝えた。
賛同する者もいる一方、懐疑的な者もいた。
父母
「彼が凄い選手であったことは分かりましたけど、、、」
「そもそも本物なんですか?少し怖くないですか?」
「NBA選手ですよ!
断る理由が無いでしょう?」
「ウチの子にそれほど本気でバスケットボールをさせるつもりはなかったのですが。」
公平
「皆さんの気持ちは理解できます。」
「彼は元NBA選手ですが、決してそれだけでこうやって皆さんに説得しているわけではありません。」
「彼は現役時代から球界中にリスペクトされている人格者だと聞いています。」
「きっとバスケットボールだけでなく子供達に良い影響をもたらしてくれると自信を持って言えます。こんなチャンス無いですよ?」
父母
「公平くんがそこまで言うなら、、、」
「分かりました。
では、1ヶ月ほど様子を見てから判断させていただきましょう。」
公平
「最後に、この事は親族の方以外に口外しないでいただきたいです。子供達のために。」

pururururururu
公平
「Mr.カフーナ。私達“UBC”はあなたにコーチとしてオファーを出します。
しかし保護者会の意見により、大変申し訳ないのですが1ヶ月の試走期間をいただきたいとの声が挙がりました。」
KJ
「子供達のことです。慎重になる気持ちも分かります。」
「とりあえず1ヶ月間、よろしくお願いします。」
                               6月下旬
ガヤガヤ
体育館には多くの父兄が見学に訪れていた。
父兄
「話を聞いて驚きましたよ〜」
「ほう、そんなに有名な選手なんですか?」
「うわっKJだ!」
「後でサイン貰おうぜ。」
「お前1on1してもらえよ。」

※以下、公平による通訳
KJ
「初めまして、カフーナ・ジョンソンといいます。昔NBAでプレーしていました。」
「1ヶ月このチームのコーチをさせてもらうことになりました。“KJ”とか“カフーナ”って呼んでください。」
「よろしくお願いします。」
続いて子供達の自己紹介
「真軸 尊です。キャプテンをしてます。ポジションはポイントガードです。」
真軸 尊(シンジク タケル)156cm PG 6年
羅知 亜蓮(ラチ アレン)152cm SG 5年
今泉 樹里(イマイズミ ジュリ)155cm SF 6年
大賀根 啓斗(オオガネ ケイト)160cm PF 5年
安部 享(アンベ トオル)173cm C 6年

人見 舞彩(ヒトミ マイカ)151cm PG 5年
西峰 光洋(ニシミネ コウヨウ)145cm PG 4年
桑羽 将仁(クワ マサト)146cm SG 4年
藍沢 永久(アイザワ トワ)136cm PG 3年
※PG=ポイントガード
 SG=シューティングガード
 SF=スモールフォワード
 PF=パワーフォワード
   C=センター

KJ
「よし、始めよう!」
ウォーミングアップを終え再び集合する。
KJ
「公平、1コーナー貰うよ。」
「早速だけどバスケットボールで1番大事なスキルは何だと思う?」
永久
「シュート。」
タケル
「チームプレーですか?」
アレン
「シュート。」
KJ
「うん、シュートかな。」
「毎試合100点取るスポーツもコートの2/5がシュートエリアのスポーツも、
まぁ無いよね。」
「シュートの上手い選手は立ってるだけでディフェンスは怖いんだから、こんなスポーツほかに無いんじゃないかな?」
「僕に言わせれば、“ディフェンス”って言うコーチは選手をチームという組織に落とし込みたい大人の詭弁だね。」
「少し難しかったかな?」

【バスケットボールは変わった
2000年代まで主に巨人達が支配していたこの競技は2010年代のある男の出現によって競技性が一変する。
神様“マイケル・ジョーダン”の支配していた時代からは3ポイントシュートの試投数が激増し、それによる守備エリア拡大からゴール下のイージーレイアップも増える。
対して、激減したのはミドルレンジ。
ゴール下と3ポイントの間の中途半端な距離から放たれるシュートはゴール下ほど確率が高くなく、積み重ねると3ポイントほど得点を期待出来ないとされ、限られたスター選手の特権となった。
しかしそれから数年、ディフェンスがミドルレンジへの警戒を極端に緩めたため、
再びミドルレンジは評価を見返しつつある。
スポーツの進化はイタチごっこだ。】

KJ
「と言っても僕はシュート苦手なんだけどね。笑」
「じゃあ、NBAの“ブロック王”は
どのくらいブロックすると思う?」
樹里
「10!」
啓斗
「5?」
タケル
「3。」
KJ
「去年が2.27、その前が3.38だ。
大体3前後だね。」
樹里
「えー少なっ!」
KJ
「NBA選手はそれだけシュート力に長けている、っていうのもあるし、そもそもバスケットはオフェンスが有利な競技なんだ。
例えば80点のオフェンスと90点のディフェンスが1on1したら、大体オフェンスが勝つと思うよ。」

「ランニングシュートからやってみよう!」
KJによる実演
KJ
「まずはフローター。」
ガコンッ! タンタンタン
大きく外すKJ。
KJ
「低くない?」
※通常リング305cm
ミニバス(日本)のみ260cm
KJ
「修正修正。」
「フローター」スパッ
「フックシュート」スパッ
「1ステップ」
「ビアーステップ」
「ユーロ」
「ダンク」ガコンッ

「これにフィニッシュとコンタクト(手と身体の使い方)で無限のバリエーションが生まれる。」
「やってみよう!」
列に並び試みる子供達。
KJ
(うんうん。)
樹里
「フローターって、無回転と回転どっちが良いんですか?」
KJ
「君は、樹里だったね?」
「よくそこに気が付いたね。
そうだな、どっちでもいいよ。
そこは君の打ちやすい方で構わない。」
「ただ」
「皆も聞いてくれ!
フローターは無回転でもスナップを利かせてもいい。
ただ、シュートを打つときに心掛けるのは“真っ直ぐ飛ばすこと”。」
「身長や筋力が変わっても“真っ直ぐ飛ばす”
ことが染み付いていればすぐに入るようになると思うよ。」
10分後
KJ
「次にディフェンスを入れてみよう!」
「ディフェンスと言っても本気じゃなくていい。」
「“ダミーディフェンス”ワザと右に抜かせたりブロックに跳んだりコンタクトしたりするんだ。」
「オフェンスはそれを見てシュートまで行く。
いい選手は後出しジャンケンが得意だ!」
試みる子供達。
しかしなかなか入らない。
KJ
「コンタクトを怖がっちゃダメだ。
コンタクトと言ってもタックルして相手を吹っ飛ばすことじゃない。オフェンスから一瞬、ディフェンスに接触しに行ってディフェンスの様子を見る。後手後手に回ったディフェンスが慌てて対応してくるからそこで逆を突く。
ドンチッチなんかはこの駆け引きが天才的だ。」
子供達を見守るKJと公平。
公平
「意外でした。」
KJ
「ん?」
公平
「あなたはアスレチックなスラッシャー(ドライブタイプ)の印象だったので、こういった練習をするのは。」
KJ
「うん。」
「フィジカルと身体能力で相手をねじ伏せる。それが理想だ。
だが、
その世界に長く関わりたいなら
それだけでは足りない。」
「俺の30前と30以降のハイライトを見比べてほしい。」


「タケル、上手いな〜。」
タケル
「おい樹里、それはチート(ズル)だぞ笑」
シュート練習が終わり
やがてミニゲームが始まった。
しかしKJはあまり口を挟まなかった。
公平
「どうしましたか?」
KJ
「色々詰め込んだからね。
これ以上言ったら皆パンクしちゃうよ笑」
「アレン、ナイスプレー!」
「考えながらプレーしよう。
いつか考えないで出来るようになるために。」

「皆、素直ないい子達だ。スポンジのように吸収する。高校生になったらこうはいかないんだよな〜。」
公平
「高校生にも教えてたんですか?」
KJ
「あぁ、ちょっとね。」

練習開始から2時間。
公平
「よし、終わろうか!皆集合!」
「明日は試合だからこのくらいにしとこう。
ちゃんと寝て遅刻するなよ。
永久、ユニフォーム忘れちゃ試合出られないぞ。」
KJ
「皆と話してみたいから。夏休みに公平と3人で個人ミーティングをしよう。それまでにどんなプレイヤーになりたいか考えておいてほしい。」
公平
「よし、解散!」
一同
「ありがとうございました!」
カフーナに挨拶し子供達は体育館を後にした。
体育館には公平とKJが残された。
公平
「KJ、明日は大会なので今日は短めにしました。」
KJ
「What?!言ってくれよ!知ってたらゲーム前日にこんなでしゃばってないぜ。」
公平
「フフフッ」
KJ
「クレイジーな奴だな君は。笑」

                                    翌日
公平車にて体育館へ向かうKJ。
KJ
「今日はどういった試合だい?」
公平
「今日は県大会の地区予選決勝です。
今日勝てば、地区1位で県大会進出することになります。」
KJ
「なるほど。
地区のチャンピオンシップってとこだな。」
会場に集合した一同。
公平
「おはよう。」
子供達
「おはようございます!」
公平
「今日勝って1位で県に行こう!」
子供達
「はい!」
子供達がウォームアップへ動き出す。
公平
「KJ、悪いけどあなたはまだベンチには入れないよ。」
KJ
「OK、俺は新参者だ。
この大会中は客席で見させてもらうよ。
グッドラック!」

アップを済ませ試合開始
               〈栃木県中部地区大会決勝〉
1Q
タケル、享、樹里、光洋、永久
ティップオフ
ジャンプボール→Myボール
タケルがプレイメイク。
タケル
(とりあえず享で攻めるか。)
タケル→享
享のポストプレイで先制。2-0
タケル
「ナイスプレイ。ミスマッチだから
そこで攻めるけど落ち着いて1on1しろよ。」
タケルのスティール→樹里のカウンター。
4-0
永久のミスマッチを突かれ、ドライブで失点。4-2
タケル
「樹里、サボるなって!お前が行ってやるとこだろ。」
樹里
「悪い。」
樹里にボールが渡りアタックを試みるも2
人に挟まれターンオーバー。4-4
樹里
(クッソ。)
樹里のミスが続く。
タケルからポストの享へパス。
Wチームで挟まれた享は冷静にパスを捌く。
享→光洋→タケル
タケルのミドルシュートで得点。6-4
タケル
「落ち着け!」
享のブロックからタケルへ。
タケルの速攻、相手と1対1。
シュートモーションでディフェンスを誘い出し、後方から駆け込む永久にノールックビハインドパス。フリーの永久が沈め得点。
8-4
タケル
「ナイスラン永久。よく走ってたぞ。」
その後は優位に試合を進め
1Q終了 16-9
タケル
「おい樹里!何リキんでんだよ。
お前の悪いとこだぞ。」
樹里
「悪い。」

2Q
タケル、アレン、啓斗、マサト、マイカ
KJ
「メンバー変わったなぁ。
ほぅ、3Qまでに8人は出さなきゃならないのか。」
2Q開始。
タケル安定のプレイメイク。
マイカ
(やってみよう。)ホィッ
マイカのフローターは外れるも
啓斗がオフェンスリバウンドを奪取。
啓斗→アレン
アレンがフリーのロングシュートを沈め得点を重ねる。
ディフェンスでは啓斗とマサトが運動量で
相手を封じる。
リードを広げ前半終了。32-21
3Q
光洋、アレン、樹里、啓斗、享
KJ
「あれ、タケルは?」
ルールを調べるKJ。
「なるほど、ここでタケルは出られないのか。」※1〜3Q続けて出場不可
司令塔タケルを欠いたことで得点が伸び悩む。
対して相手は3Q4Qとベストメンバー。
UBC、タケル不在時の司令塔・光洋(4年生)はまだフィジカルの弱さが目立つ。
得点源はアレンのシュートと啓斗、享のポストプレイ。
オフェンスが停滞し悪循環。
着々と差を詰められ3Q終了。40-34
公平
「やっぱり3Qは課題だな。」
「落ち着いて、全然焦る展開じゃないぞ!」

4Q
タケル、アレン、樹里、啓斗、享
チーム最強の5人は息の合ったプレイで相手を圧倒し始める。
タケル&享のパス&ゴー。
淡々とシュートを沈めるアレン。
享と啓斗のハイ&ロー。
タケル
「やっとか、困った奴だ。」
ようやくリズムに乗り個人技で
このクォーター最多の10得点を上げた樹里。
試合終了
1Q    16-9
2Q    16-12
3Q      8-13
4Q    24-15
ーーーーー
 合計 64-49
UBC、中部地区1位で県大会進出決定。
                                 試合後
公平
「ひとまず大会お疲れ様。ところところで昨日教わったシュートまで行けてたし手応えもあったんじゃないか?」
「県大会まであと1ヶ月かな?」
「何処と当たるか分からないけど、課題を見つめ直して頑張っていこう。解散!」
残った公平とKJ。
公平
「どうでしたか?」
KJ
「楽しみだね。」
「課題は沢山ありそうだ。」
公平
「えぇ。」ニコッ
KJ
「実りある出会いにしよう。」

UBC、栃木県大会中部地区1位。
県大会進出決定。                 
                                                                 第1話 完

第2話https://note.com/shogun0189/n/ne93e4c5fa856

                           

















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