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見た人向け!『君たちはどう生きるか』宮崎駿の反省と我々への問いとは何か。考察の突破口に向けて② ーキャラ&ストーリー編

こんにちは!

昨日は『君たちはどう生きるか』について、主に作中の時代背景と塔、積み石などのモチーフを客観的に関連付けて考察してみました!

今日はもう一歩抽象度を上げて、キャラやストーリに対するメタ考察も記していこうと思います。

例えば「アオサギって明らかに鈴木敏夫だよね笑」「やっぱり宮崎駿ってマザコンだよね笑」みたいな感じで、作品は作家の心象の表れである、という立場で物事を考えていきますね。


大叔父さん=宮崎駿説について

チラッとネットを見たところ、大叔父さん=宮崎駿なのではないか?という記事が散見されましたが、確かにそう考えることは可能だと思います。

ジブリのドキュメンタリー映画に『夢と狂気の王国』という作品があります。
これは宮崎駿が自分の作りたいものだけ作りながらも、周りの人はグッズ開発だなんだで死ぬほど大変だし仕事も無茶振りばっかで人間関係めちゃめちゃだよって話なんですが、まさに大叔父さんが籠っていたのは美しい世界ばかりを見て自分が作ったものに囲まれた世界ー宮崎駿にとってのスタジオジブリという夢と狂気の王国であったと言うことができるでしょう。

『風立ちぬ』でも主人公の堀越二郎がカプローニに誘われたのは「呪われた夢の王国」、戦争を顧みずに飛行機作りに没頭できる狂った世界でした。

『ハウルの動く城』も同様です。
美しいマスクの下に人外の姿を隠した魔女のハウルは、ソファーには秘密にして戦争の最前線で空襲をしかけまくって戦火で街を燃やし尽くしています。

この「美しいものは醜いものを生む」というダブルスタンダードに苦しむ主人公の姿が『風立ちぬ』『ハウルの動く城』のストーリーのど真ん中にありました。

『風立ちぬ』では現実から目を逸らしてくれる(フィルターをかけてくれる)二郎のメガネの存在とそれを赦す菜穂子の悲恋、『ハウルの動く城』では紳士なインテリゲンツィア的振る舞いとは裏腹に戦争と魔法という呪いに苦しむハウルとそれを救うソフィーの愛が、「夢と狂気」を裁定する物語のキーとなっていました。

ということで、宮崎駿による「夢ばっか見てて現実を見れない自己批判」はもういつもの事なんですよね。

ですから大叔父さんが宮崎駿だ〜っていうのはまぁそうだと思います。

ただし、ここから先が問題山積みなんですが…それはまた後ほど。

(それにしても、やっぱり駿には後継者いないんだね笑笑 哀れ…笑)

真人の母親ヒミ=里見菜穂子(風立ちぬヒロイン)説

脱線しかけることを承知でもう少し掘り下げると、空襲による火災で病院で死んでしまった真人の母とは、誰なのでしょう??

作品をオーバーラップして考察することが許されるなら、この真人の母=ヒミとは、ハウルの空襲によって殺された人々のひとりであり、同時に堀越二郎の飛行機による空襲で死んだ誰かでもあり、彼らの呪いによる戦争被災者だと言えるでしょう。

そしてそれは今まで宮崎駿が描いてこなかった、描けなかった人々の象徴的存在でもあります。(高畑勲などは『火垂るの墓』で真っ先に書いてますが)

これは一見、反省しているようですが、物語ラストでヒミは真人に「元の時代に戻ったら死んでしまう!」と言われた際、彼女は自分が戻らないと真人が生まれないことに言及しつつ、「それに、火は美しいもの!」とまで言い放って帰っていってしまいます。

端的に言えばここで宮崎駿は、子供のために死んでくれる母親+戦火の肯定という、マザコンと戦争オタクである自身の性癖丸出し全肯定というとんでもない業の深い所業をさらっとやってしまうんですね。

(というとよくある宮崎駿評論なのですが、まだ続きがあります。)

『風立ちぬ』の制作時にはラストシーン手前で「やっぱり菜穂子を殺したくない!」と現場で相当ゴネたらしい宮崎駿。その甲斐?もあってか最後の離別のシーンでは一応菜穂子と飛行機の間で心がグラグラしてみせた堀越二郎(宮崎駿)ですが、今回はヒミに「火は綺麗!」とまで言わせてヒミをもう一回殺すという躊躇のなさというか、開き直りの凄まじさを感じます。

そして、ここで自らを焼く戦火について、ヒミにその美しさを喝破させるということは、いってしまえば戦火をも肯定するということになります。

しかしそれはそれで、もう少々の飛躍が許されるなら、ただの戦火の肯定以上の意味で筋が通っているのです。

その飛躍とは、今作登場したヒミとは、菜穂子の描き直しなのでは?とうことです。菜穂子は直接ではありませんが、二郎の戦闘機作りのために生涯を捧げてしまっている点で戦争被災者ですし、彼女は二郎の「美しいもの」でいるため、「美しいもの」を守るために死にました。

菜穂子という女性もよくよく考えると相当狂ったヒロインなのですが、要するに彼女は「美しいもの」のためなら死ねる…というか死ねてしまったのです。

そして今作で菜穂子がヒミ、母親という形で登場するのは宮崎駿の菜穂子への弔いだとも思えなくもないのですよね。

『風立ちぬ』での菜穂子は病弱で、子供を身籠ることもできませんでした。

しかし今回は真人を産み、その子と冒険することもできた。

子を助け、また子を産むために死ににゆくヒミとは、母になれた里見菜穂子なのです。

だからこそ、また、病院で死ぬことができる(風立ちぬの菜穂子は高原病院で死亡したと思われる)し、今度死ぬときは一人じゃないわけです。美しい炎…堀越二郎が生んだ戦火に包まれて死ねるわけですから。

ヒミは火を操って地獄の世界でワラワラを守っていたことも、それとは無関係ではないはずです。

あの地獄におけるワラワラとは受精卵のようなものだと思われます。

ワラワラは内臓を食べ、自身に臓器を蓄えることによって、準備が整うと地獄より上の世界=現世へと向かっていきます。要するに赤ちゃんとして身体の準備が整ったら生まれるお〜ってことですね。

さて、ヒミは火を使ってこの地獄で子供=ワラワラを守っていたわけですが、時にその火はワラワラをも殺してしまいます。

彼女が使う火とは誰かを守るためにその敵を殺すものでありながら、過ぎればその火は守りたかった者にも及び、殺してしまう…これはまさに戦火そのものですね。

そしてそんな火の暴力性、破滅性に無頓着でいられて「火は美しいわ」なんて言えるのは、もはや堀越二郎の呪いと心中できた里見菜穂子しかいないわけです。

まだパンフレットも公式サイトも公開されていないのでわかりませんが、ヒミという名前、漢字を当てると「火美」という字になるのではないでしょうか。

そして宮崎駿は、そんな前作菜穂子の呪いを利用しながら、ヒミという新たな役割を与えながら彼女に生の意味を与え、そのバトンを真人や夏子達に引き継がせていきます。

真人=宮崎駿説

大叔父が宮崎駿だという意見より、僕はどちらかというとまんまこちらが宮崎駿だと思いました。まぁ、両方なんでしょう。ということは駿の内省物語という側面が本作を大きくオキュパイしているのは確定ですね。

宮崎駿の実家は中島飛行機の下請けで儲かってたらしいですし、その辺はもう何のブレもなく真人の環境は宮崎駿の幼少期とリンクしてしまっています。

塔の中で冒険が終えたらいつの間にか時が過ぎ終戦を迎えてしまっていますし、そもそも、宮崎駿はガチの戦争を知らないんです。幼少時に空襲に遭った思い出から『火垂るの墓』の空襲シーンを緻密に再現しようとした高畑勲とはもうその時点で境遇や立場が異なってしまっているんですね。

宮崎駿の青年期がそうであったように、現世とあちらの世界を隔てる塔には壁にびっしりと本が並んでいますし、戦争や当時の日本の惨状というものも、インコなどの戯画化されたイメージを使って想像するしかない。よって本作は外の世界にある人々の“現実”はあまり知らない、そんな宮崎のコンプレックスも描かれていると思います。裕福な家庭で育ってるからしゃーないですね。

前作『風立ちぬ』でもこういった不都合でよくわからない現実はわざと隠したり、軍部の人間も異人のように描かれていました。

しかし今回は、戯画化されているとはいえ、直接その不都合な世界へ真人少年が挑んでいく内容となっており、…ここがこれまでの宮崎作品とは大きく違うところなのではないでしょうか。

しかしそれもまた、現実への挑戦ではありません。

何故なら、塔はあくまで現世と切り離された神隠しの世界であり、不都合な現実隠し=タブーによって成り立つわけです。あ、よく考えたら塔の内部に存在してる人間って皇族だけで、国民は全てより下等な生き物として描かれてますよね。やっぱり天皇制のことは明確に意識して批判的に描かれているでしょうな。

この二つの構造に対して、結果的に真人(宮崎駿)は大叔父(もう一人の宮崎駿)の箱庭的世界を否定し、そのために一人の母(ヒミ=菜穂子)を再び殺し、一人の母(夏子)やと友達(青鷺)を救うことで塔は瓦解します。

この歪な建造物の瓦解とは『ハウルの動く城』で登場したモチーフですね。そして、何かよくわからないものが人工物に覆われていて、その部分がぶっ壊れるという構造も『天空の城ラピュタ』と共通します。

とはいえ、この辺にどのような共通点があり、相違点があるのか…ジブリ作品のブリコラージュとしての『君たちはどう生きるか』を論じる上で、やはりここは大切だと思います。

そしてこの辺に昨日整理した時代設定や天皇制、女性の解放といった建前も織り込んで行くとどうなるのか、先は長そうですね。

今回はヒミと菜穂子のブリコラージュを紐解くだけで既に多くの紙幅を費やしてしまったので、ここまでとします。

それでは!

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