カメラマンになれない

いつ「カメラマンになりたい」と思ったか、昔のことすぎて忘れてしまったが、私は20歳前後でカメラマンになりたい、と思った。

当時はまだフィルムカメラ全盛期で、プロカメラマンもフィルムで撮影し、納品するのが当たり前の時代だった。

カメラマンになりたいと思ったキッカケは他記事でも書いたが、要は端的に言うと職業としてカッコ良いんじゃないかな、と思ったからだ。

当時は「残したいものがある」とか今のように「映画を撮りたい」とかそんな思いはなく、ただ単にカッコ良いじゃないかな、という思いだけだった。

話は変わるが20歳前後、私は東京近辺、近郊で行動していた。当時は大学生であり、大学の同級生がクラブでDJなどを始めたりしていて、私は付き合いでクラブに出入りするようになっていた。

初めて入ったクラブは東京の中目黒という街にあった小さなクラブで店の名前は「オボ」というところだった。
オボは比較的若い人が集まるクラブだった。
20代の人たちばかりだ。
ちなみに今はもう、オボはなくなってしまっている。中目黒の駅前にあった、通いやすいクラブだったのに残念だ。

オボには6、7人くらい座れる座席があった。
私は大学の友人がDJをしているとき、座席に座ってよくお酒を飲んでいた。
ただ、クラブって行ったことがある人はわかると思うが、不特定多数が集まる場所だ。
色んな人が私の隣の席に座っていった。
しかし、21歳くらいだったから人見知りみたいなものもあり、私は隣に座ってきた人が男性だろうが女性だろうが話しかけられないでいた。

そんな時、DJをしていた友人は
「いいか松田(私の名前は松田と言います)。ここは話す場所なんだよ。みんな話にきてるから「話かけないでくれ」というオーラはだすな。」
と言ってきたものだ。

ある夜、いつも通りオボの座席でお酒を飲んでいたら、ある1人の女性が話しかけてきた。
年齢は23歳くらい。
私より少し歳が上くらいの女性だ。

「オボによくくるんですか?」
「ええ、まあはい。友達がDJしてるからたまに来てるんですよ」
「へーそうなんだ。なにしてる人?学生?」
「そうですね。あなたは何してる人?」
「社会人だよ」
「そうなんですね」
「将来やりたいことあるの?」
「カメラマンになりたいんですよ。写真が好きで大学の写真サークルに入ってます。」

とそんなことを話していたらその女性は
「あなたには無理」
と言っきた。

なんとも失礼な女性だと思ったのを今でも覚えている。
ただ思うんだけど、私はあの時、なにも知らない、なにもできない若造だった。
あれからなにも努力していなければカメラマンになれなかっただろう。
初対面で私のポテンシャルを見抜いた彼女の洞察力はすばらしかったかもしれない。

しかし、私はカメラマンになった。

映画も撮ったし、小さいながらCMも撮ったことある。音楽ライブ撮影も撮ったし、ポートレート撮影も何度も行った。

あのころ、あの夜会った、失礼だったかもしれない女性に一言言いたいことがあるとすれば、

どうだ、ざまあみろ、あなたがやれないことを私はやってやった。なんの躊躇もなくカメラマンの夢を語った私に嫉妬があったかもしれないな。

私はカメラマンになった。

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