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スティリミス

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#小説連載中

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退屈な買い物について行くのに必死で私は困憊していました。そしてあの乗り心地の車。睡眠に遁走したのです。しかし私は1人でした。車の後部座席、チャイルドシートの中にいたのです。ああいうのは、運転中の親が目を離しても子供が勝手に開けることの出来ぬように、手を開閉部に伸ばしただけで力尽きるようになっていて、うまく握力が入りません。私は身動きを封じられたのでした。大人の力が必要で、この場合それは母でし

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 私の家庭は……それはそれは凄惨なものです。「家」ではなく「家庭」というところから、今から話す内容など、多少は明らかになったでしょう。つまりは家庭内の人間関係が私の抱える悩みなのです、私と父、私と母、私と妹、私と祖父母、…私がいない間柄にも問題はあります。ですがそれは追々話します。本当に、どこから話したものでしょうか。
 先生は、私のように悩んだ人間が通例、似通った血の流れる人間を求めて相談を持ち

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ニノウデの世界

 桜井恭弥は一九九九年の一月に生まれて、二〇一六年に高校二年生、十七歳となった。思い出と季節の寒暖とが、まるでマズルを整えて並べられたマスケットのような、ファスケスの要素を持った気色悪い制服で一緒くたになって彼の頭に刻印されていることが、彼がこの日々を振り返ったときに悔やまれることの一つであった。こればかりはシステムのせいなのだから、仕様のないことだと呑み込んでは、吐き出した。
 青春とは、多くの

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