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令和を駆けろ! 俊英棋士インタビューVol.14 井出隼平五段「ずっと能動的でいたい」


2023年9月から日本プロ麻雀協会に所属。棋士と麻雀プロを両立する挑戦が始まった

(初出:将棋世界2023年12月号。本文中の段位・肩書は当時のものです 【構成】大川慎太郎 )

ABEMAでの解説などで、井出のマシンガントークをご存じの方も多いだろう。このインタビューでも同様で、沈黙することなく喋り続けた。9月に麻雀プロになった井出は、楽しみながら自分のやりたいことに素直に挑んでいる。雄弁な四間飛車党の本音トークをお楽しみいただきたい。

Profile
1991年5月3日生まれ。神奈川県横浜市出身。2003年9月、田丸昇九段門下として奨励会入会。09年7月、三段昇段。16年、第58回三段リーグで12勝6敗の成績を収めて四段に昇段。同年、第6期加古川青流戦で決勝三番勝負に進出し、優勝。21年2月、勝数規定で五段に昇段。振り飛車党で四間飛車が得意戦法。23年9月、日本プロ麻雀協会に所属することになり、話題を集めた。趣味はカラオケ。



●井出さんは9月に日本プロ麻雀協会に入会して、棋士と麻雀プロを両立することになりました。麻雀プロになろうと思ったきっかけを教えてください。

「なりたいという意思は薄々はあったんですけど、やっぱり鈴木先生(大介九段)が先にプロになられて、『おお』と思ったんです。日本プロ麻雀協会の大先輩でMリーガーでもある堀慎吾さんと将棋を通じて仲よくさせてもらっていて、『プロになりたい』と相談してみたら、試験を受けてこうなりました(笑)」

●麻雀はいつ頃からやっていたんですか。

「高校生のときにルールを覚えたので、もう10年以上はやっています。やる量は時期によってまちまちですけど」

●将棋の修業の妨げにはなりませんでしたか?(笑)

「いや、なったんでしょうね。7年も三段リーグにいたということは(笑)。将棋の息抜きにはなりましたけど、息抜きをしすぎたんでしょうね」

●麻雀はどんなところが面白いですか?

「やっぱり確率のゲームなので、将棋と違って弱い人が強い人に勝つことがあるところです。ある程度数をこなせば強い人が勝つことが多いんですけどね。でも何て言うか、将棋は強い人が明確にわかるじゃないですか。藤井聡太八冠と誰かの強さを比較したら、それは覆せません。でも麻雀は短期的に負けていても、まだ自分のほうが強いと思える逃げ道がある。それがよくも悪くも将棋との違いです」

●逃げ道というのは面白い発想ですね。

「こういう言い方をすると怒られるかもしれないけど、逃げ道に近いと思います。例えば3回連続で最下位になったとしても、相手が自分より明確に強いかといったらそれだけでは全然測れない。結局、誰がいちばん強いのかよくわからないみたいなところが面白いですね」

●井出さんは将棋界では誰と麻雀を打ってきたのですか。

「始めた頃は将棋界の人とはそんなに打ってないんですよね。打ち始めたのは棋士になってからです。いまは青嶋君(未来六段)や黒沢さん(怜生六段)とか、鈴木先生(大介九段)とも打つし、あと三枚堂さん(達也七段)とか、多いのはその辺りの方々です」

●井出さんから見て、麻雀が強いと思う棋士は誰なのですか?

「わかりやすい強さで言えば青嶋君ですね。鈴木先生は強いのかもしれないけど、何が強いのか正直よくわからないです(笑)。青嶋君の強さは説明できて、彼はいわゆる現代麻雀をきちんと学んでいます。セオリー通りに打って、攻めの手数が多いわりには失点が少ないイメージがある。鈴木先生は自分よりはるかに強いかもしれないし、それほど変わらないかもしれないとも思う。やっぱり鈴木先生の麻雀は『雀鬼流』という特殊な世界観なので、現代流の自分には測れない強さなんです。鈴木先生は普段は論理的な話が多いのに、打つ麻雀はちょっとオカルトチックというか」

●井出さんはどういう雀風ですか。

「自分で言うのもちょっと悲しいですが、平凡な麻雀だと思っています。セオリー通りに進めて、ミスなく打つようにしている感じです。特別な1打みたいなのはなかなかなくて、それが特徴といえば特徴ですね。バランス型というか、あまり尖った部分はありません」


井出はYouTubeで「プロ棋士井出隼平の将棋麻雀チャンネル」を持っており、
麻雀の実況プレーをしている

●麻雀プロになって、井出さんは何を目指しているのですか?

「日本プロ麻雀協会には『雀王戦』といって、将棋でいう順位戦みたいなものがあります。A1という最高峰のクラスを目指すのですが、最下のF1まで14クラスもあって、C1~F1は半年に1つしか昇級できない。普通のルートで上がろうと思うと果てしなく長いんです。ただ特別昇級枠があって、例えばネット麻雀の天鳳というサイトで天鳳位を取ると飛び級が用意されています。私はその天鳳で対局数をこなしているので、ゆくゆくはその天鳳位を獲りたい。かなり対局数も必要だし、上のクラスはレベルが高いので相当、難しいですが」

●井出さんはその天鳳でいい位置につけているのですか?

「上位の卓は七段、八段、九段、十段、天鳳位となっています。いま自分は九段なので、天鳳まであと2つ。まあ、そこからがすごい大変なんですけど、全く狙えないわけではない。自分の麻雀のデータを取ると、九段にいるのはツキがある感じなんです。なのでいけても十段かなというのが現状の分析です。もうちょっと技術面が向上しないと難しいですね」


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将棋のほうが生々しい?

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