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「観る将」が観た第34期竜王戦2組ランキング戦 藤井二冠準決勝

3月23日に行われた竜王戦2組ランキング戦準決勝の、藤井二冠と松尾八段の対局を観た感想です。
藤井二冠は2回戦で広瀬八段を破り、本局に勝てば竜王戦のランキング戦で5期連続決勝に進出となり、本戦出場が決まります。松尾八段は第30期竜王戦で挑決三番勝負に進出した経験がある強豪で、今期は深浦九段と千田七段を破り準決勝に進出しています。両者はこれまで公式戦で1回の対局があり、藤井二冠が勝っています。

本局は振り駒で先手となった藤井二冠が、いつも通り飲み物を口にしてから2筋の歩を伸ばします。藤井二冠は3月からサントリー伊右衛門のTV-CMに出演していますが、何故か紙コップを使って飲み物の種類やブランドが見えないようにしています。松尾八段は2手目に7筋の歩を突き横歩取りに誘導し、藤井二冠は青野流に構えます。

松尾八段は、22手目に飛車取りに△2三金と出る趣向を魅せました。松尾八段は、屋敷九段との将棋で先手を持って指したことがあるそうで、ここまでの消費時間は14分と研究手順をぶつけてきたことを感じさせます。藤井二冠は首を傾げて席を外し、熟考の上飛車を引きます。

松尾八段が飛車を追って2四まで金を繰り出すと、藤井二冠は不安定な金を狙って▲4六角と反発し、お互い後に引けない激しい中盤戦に突入しました。藤井二冠は慎重に時間を使い、持ち時間は2時間以上差がついています。

松尾八段は金を取らせる間に桂を取り、飛車銀両取りに△3六桂と打ちます。勝負所に差し掛かり、46手目に松尾八段が初めて熟考に沈む間、藤井二冠はTV-CMに出演している不二家の「ONチョコレート」を口にしました。ABEMA解説の及川六段と藤森五段は、詰むか詰まないかの局面まで検討を進めています。

松尾八段は更に飛車と銀の両取りに△4四角と打ち、藤井二冠が飛車を浮いてかわすと再び長考に沈みます。一気に終盤戦に突入するか、いったん局面を落ち着かせるか、大きな作戦の岐路となり、松尾八段は時折頭を抱え込みながら、2時間を超える大長考のまま夕休に入ります。AIはわずかに藤井二冠優勢を示していますが、ABEMA解説陣は明快な勝ち筋を発見できていません。

夕休明け、松尾八段は一気に決着を付けに行く△3七桂成を決断します。必然の流れでバタバタと△8八角成まで進み、藤井二冠は▲8四飛の一手と思われる局面で手を止めます。AIは相手玉の退路を狭める▲4一銀のタダ捨てを推奨していますが、解説の及川六段と藤森五段は「ここで▲4一銀が見えるプロ棋士いますか」「神が降臨して来ないと見えないでしょう」と話しています。

藤井二冠は席を外し伊右衛門を手に戻ってくると、少しずつ紙コップに注ぎ飲んでいます。約1時間の長考の末、藤井二冠の選択は「神の手」▲4一銀でした。松尾八段も藤井二冠の考慮中に読んでいたようで、すぐに△同金と取りますが、藤井二冠の▲7五桂で先に詰めろが掛かりました。

ここでの受けも何通りもあり、解説の北浜八段が詰めろを続けられるのか検討しています。AIの評価値は藤井二冠の80%以上と示していますが、詰めろが続かなければ、逆に松尾八段が△3八金と打って大逆転です。松尾八段はまたも1時間以上の長考で残り2分となったところで△5一金と受けました。

非常に難解な終盤戦となりましたが、藤井二冠は慎重に時間を使いながら詰めろを続けます。最後は松尾八段が王手を掛けて形を作りましたが、無念の投了となりました。

本局は、松尾八段が「先手番でやられたことがあったので、研究してやってみたかった」手順を進め、藤井二冠は「あまり見ない構想」に対して角を打って反発しました。藤井二冠が「△3六歩と強く取り込まれて失敗したかと思った」と語った通り、中盤まで形勢は互角ながら松尾八段ペースに見えました。激しく駒を取り合う中で、藤井二冠が「詰めろを続けるなら▲4一銀かと思った」と打った手が強烈な決め手となりました。それ以降も難解な局面が続きましたが、最善手を指し続けた藤井二冠が寄せ切りました。

この結果、藤井二冠は5年連続でランキング戦決勝進出となり、前人未到の5年連続ランキング戦優勝に向け、渡辺名人と八代七段の勝者と対局することになりました。本戦トーナメント進出も決定し、竜王挑戦に向けまた一歩近づいたことになります。

松尾八段はこの1局のために準備した作戦が奏功し、75手という比較的短手数での投了となりましたが、濃厚で白熱した好局を魅せてくれました。ABEMAの解説陣が、「凄い1局だった」と繰り返しつぶやいていたのが印象に残ります。両者は来年度B級1組で対局することが決まっていますので、熱戦を期待したいと思います。

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