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2022年度将棋大賞 升田幸三賞・名局賞予想

将棋界では年度毎に将棋大賞の表彰があります。2022年度も年度末を迎えるにあたり、観る将の観点から、升田幸三賞と名局賞の予想をしていきたいと思います。私はタイトル戦や藤井竜王の将棋を中心に観ているので、それ以外の将棋が予想から外れてしまうことをご了承ください。日本将棋連盟では、「第29回升田幸三賞・第17回名局賞 投票受付開始!」と一般からの投票も受け付けていますので、みなさまもこの1年を振り返り、これはと思う一手や名局があれば参加されてみてはいかがでしょうか。

応募〆切:2023年3月31日(木)23時59分


■過去5年の受賞者

2021年度
升田幸三賞:千田翔太「△3三金型早繰り銀」
升田幸三賞特別賞:田中寅彦「居飛車穴熊や飛車先不突矢倉などの序盤戦術」
名局賞:第34期竜王戦七番勝負第4局 ●豊島将之 ○藤井聡太
名局賞特別賞:該当なし

2020年度
升田幸三賞:大橋貴洸「耀龍四間飛車」
升田幸三賞特別賞:藤井聡太「第91期棋聖戦五番勝負第2局、対渡辺明戦の△3一銀」
名局賞:第91期棋聖戦五番勝負第1局 ○藤井聡太 ●渡辺明
名局賞特別賞:第34期竜王戦ランキング戦2組準決勝 ○藤井聡太 ●松尾歩

2019年度
升田幸三賞 elmo「elmo囲い」
升田幸三賞特別賞 脇謙二「脇システム」
名局賞:第60期王位戦七番勝負第7局 ●豊島将之 ○木村一基
名局賞特別賞:第69回王将戦挑戦者決定リーグ7回戦 ●藤井聡太 ○広瀬章人

2018年度
升田幸三賞:藤井聡太 「第31期竜王戦5組ランキング戦決勝、対石田直裕戦の△7七同飛成」
升田幸三賞特別賞:丸山忠久「一手損角換わりをはじめとした角換わりの研究」
名局賞:第76期名人戦七番勝負第1局 ○羽生善治 ●佐藤天彦
名局賞特別賞:第45期女流名人戦女流名人リーグ ●渡部愛 ○上田初美

2017年度
升田幸三賞:青野照市 「横歩取り青野流」、佐々木勇気 「横歩取り勇気流」
升田幸三賞特別賞:大内延介 「振り飛車穴熊を戦法に確立した工夫」
名局賞:第30期竜王戦七番勝負第4局 ●渡辺明 ○羽生善治
名局賞特別賞
 :第11回朝日杯将棋オープン戦本戦決勝 ○藤井聡太 ●広瀬章人
 :第31期竜王戦6組ランキング戦 牧野光則 中尾敏之(持将棋)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

■升田幸三賞・升田幸三賞特別賞の予想

升田幸三賞は、日本将棋連盟の投票受付ページによれば「主にその年度において注目された斬新な発想による戦法・戦術が対象、また感動を与えた新手や妙手なども対象とします」となっています。

第93期棋聖戦五番勝負第二局 116手目△9七銀
永瀬王座が先勝して迎えた第二局、最終盤に藤井棋聖が飛車をタダで取らせる代わりに放った一手は、教科書に出てきそうな銀のタダ捨てによる退路封鎖でした。形勢を入れ替えた藤井棋聖は、この後も正確な寄せで再逆転を許さず、シリーズの流れを変える貴重な勝利となりました。

第72期王将戦七番勝負第二局 59手目▲8二金
藤井王将に羽生九段が挑戦するという将棋ファンにとって夢のような対決で、レジェンド羽生九段が若き王者を一撃で窮地に追い込んだ名手でした。3筋の後手玉から遠く離れた場所に持ち駒の金を投じる異筋の一手は、藤井王将に攻め合いを選択させましたが、羽生九段が正確な応手で逃げ切る快勝譜となりました。

■名局賞・名局賞特別賞の予想

私の印象に残った名局を時系列で並べてみます。

第7期叡王戦五番勝負第三局 〇藤井聡太叡王 ●出口若武六段
両者とも1分将棋となる大熱戦となり、難解な終盤戦には藤井叡王も負けを覚悟した局面がありました。タイトル戦初登場の出口六段が力を出し切った末に流した涙は、勝敗を超えた感動を与えたと思います。

第35期竜王戦七番勝負第三局 ●広瀬章人八段 〇藤井聡太竜王
広瀬八段が序盤の工夫で1-2筋を制圧して優勢となりましたが、藤井竜王は我慢の末に7筋から反撃に転じ、緩急自在の指し回しでリードを拡げると、最後は鮮やかな寄せを魅せました。

第16回朝日杯本戦2回戦 〇藤井聡太竜王 ●増田康宏六段(当時)
藤井竜王が角換わり腰掛け銀に誘導し、いきなり激しい戦いとなりましたが、増田六段が先手玉を追い詰めAIの評価値も大きく傾きました。両者1分将棋の中、藤井竜王は12連続王手で自玉の危機を脱しますが、増田六段も懸命に応じて入玉しリードを保ちました。藤井竜王には相入玉の選択肢もありましたが、増田六段の一瞬の隙を突いて即詰みに討ち取りました。

第72期王将戦七番勝負第五局 〇藤井聡太王将 ●羽生善治九段
羽生九段が横歩取りに誘導し渾身の研究手をぶつけましたが、藤井王将は長考の末に最も強気な応手を選択しました。一度は藤井王将に傾きかけた流れを羽生九段が押し返し、どちらが勝つのかわからない大熱戦となりました。将棋ファン待望の顔合わせとなった七番勝負は好局が続きましたが、手に汗握るという意味では本局が最高の一局だったと思います。

第48期棋王戦五番勝負第三局 ●藤井聡太竜王 〇渡辺明棋王
藤井竜王が仕掛けて主導権を握りましたが、渡辺棋王は長考を重ねて優勢になり徐々にリードを拡大していく展開となりました。藤井竜王が粘って1分将棋となった渡辺棋王を追い詰め、ついに一瞬逆転するという大熱戦になりました。藤井竜王には珍しい詰み逃しという結末がなければ、文句なしに名局賞の最有力候補だったと思います。

今年度の名局賞の本命は、やはり夢の対決となった王将戦七番勝負の中でも、もっとも手に汗握る展開となった第五局と思います。対抗には、タイトル戦ではありませんが朝日杯2回戦の藤井竜王vs増田六段戦を挙げたいと思います。両者1分将棋の中、絶体絶命となった藤井竜王が、大きな悪手もなかった増田六段を追い詰めた死闘は、名局賞に値する濃密な一局だったと思います。

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