見出し画像

NHKスペシャル「藤井聡太二冠 新たな盤上の物語」を観て

録画しておいたNHKスペシャルを視聴しました。さすがNHKだけあって、将棋をあまり知らない人にもわかりやすいように工夫された番組でしたね。個人的には、藤井少年がこども大会で負けて本当に悔しそうに泣いている姿を、初めて動画で観たのが印象的でした。あの悔し涙が、藤井二冠をここまで成長させた原動力だったのだろうと思います。

藤井二冠は「人間は最初の感覚でほとんどの手を切り捨ててしまうが、感覚だけで切り捨てた手でも実は良い手だったという手があるので、そういう手を拾っていけるようにしたい」と語っていました。同じ時間で考えるならば、候補手を絞り込んだ方が深く読めるはずで、これまでプロ棋士たちは、定跡とか手筋という形で切り捨てるためのノウハウを蓄積してきたように思います。藤井二冠のこうした考え方が、棋聖戦第二局の△5四金や△3一銀のような、他のプロ棋士の常識を超えた好手を生み出してきたのでしょう。

中村七段は「プロ棋士なら20~30手先まで読めるが、藤井さんは更に2~3手先まで読んでいる印象です」と語っていました。2~3手先と言っても、1手先を10通り読むとしたら、2手先まで読むには10×10=100倍、3手先まで読むには10×10×10=1,000倍の能力が必要です。それくらい計算能力に差があるということでしょうか。霧の中、良く見えないままに選択する手と、2~3歩前に出て先の状況を確認してから選択する手では、精度に大きな差が生じるということは理解できる気がします。

羽生九段は「藤井さんの将棋からいろんなものを吸収し学んで追いついていく。藤井さんという棋士が現れて、将棋界全体のレベルが底上げされた」と語っていました。将棋界一の実績を挙げてきた羽生九段にここまで言わせること自体衝撃的ですが、こうした謙虚で柔軟な考え方に、これまで常に目標とされながらタイトル通算99期を積み上げてきた底力を感じます。

ただ1つ凡人の想像力がついていけなかったのは、藤井二冠は頭の中で盤面ではなく符号で考えているという件です。確かに、41手詰めの古典詰将棋を20数秒で解いたとか、7手詰めの詰将棋を1分間に17問解いたといったエピソードを以前聞いた時、答えを知っていてもそんなに速く駒を動かせないなと感じましたが、元々頭の中で駒を動かして考えている訳ではないということなんでしょうか。もしかするとコンピュータと同じ仕組みが頭の中にあるのでしょうか。

番組を通して、藤井二冠の人間離れした能力がクローズアップされていたようにも思いますが、藤井二冠が大切にしているのは人間らしさなんだなということも感じました。少年時代に爆発させた激しい人間らしい感情を内に秘め、人間が紡ぎ出す盤上の物語の果てに広がる新たな世界を見てみたいというモチベーションが、藤井二冠を強くしてきたのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?