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渡辺名人がタイトル獲得通算28期達成

渡辺名人が1-3月に行われた王将戦と棋王戦を連続防衛しました。タイトル獲得は通算28期となり、谷川九段を抜いて歴代単独4位となりました。そこで今回は、歴代のタイトル獲得数が多い棋士の記録を振り返ってみたいと思います。

大山康晴十五世名人 1923年3月生まれ
タイトル獲得通算80期(歴代2位)、タイトル連続獲得19期(歴代1位)
タイトル戦登場通算112回、タイトル戦連続登場50回
中原誠十六世名人 1947年9月生まれ
タイトル獲得通算64期(歴代3位)
タイトル戦登場通算91回
谷川浩司九段(十七世名人資格) 1962年4月生まれ
タイトル獲得通算27期(歴代5位)
タイトル戦登場通算57回
羽生善治九段(十九世名人資格) 1970年9月生まれ
タイトル獲得通算99期(歴代1位)
タイトル戦登場通算137回
渡辺明名人 1984年4月生まれ
タイトル獲得通算28期(歴代4位)
タイトル戦登場通算37回
(参考)藤井聡太王位・棋聖 2002年7月生まれ
タイトル獲得通算2期
タイトル戦登場通算2回

タイトル獲得数関連の記録としては、何と言っても羽生九段の通算99期が有名で、あと1期取って欲しいと願っているファンが大勢います。これに続くのが大山十五世名人の通算80期ですが、タイトル数が今より少ない時代の記録であり、単純に比較はできませんが偉大な記録であることは間違いありません。また大山十五世名人と言えば、タイトル連続獲得19期・タイトル戦連続登場50回という超人的な記録があることを付記しておきたいと思います。

今回渡辺名人が通算獲得数で抜いた谷川九段は、21歳の時に初タイトルとなる名人を獲得しており、最年少記録として現在まで残っています。中原十六世名人より15歳年下であり、谷川時代到来を予感させましたが、この後8歳年下の羽生九段が急速に力をつけタイトル争いを続けることになります。勝負事にタラレバはありませんが、もし羽生九段との年の差がもう少しあれば、谷川九段のタイトル獲得数はかなり違ったことでしょう。

本稿の主役である渡辺名人は、20歳の時に初タイトルとなる竜王を獲得し、一度も無冠に陥ることなく着実にタイトル獲得数を増やしてきました。羽生九段より14歳年下であり、羽生世代のタイトル占有阻止に孤軍奮闘しつつ、自分より年下の台頭を阻んできました。今年度、藤井二冠の挑戦を受け棋聖位を失冠しましたが、年下にタイトル戦で敗れたのは初めてであり、渡辺名人のタイトル獲得の歴史を語る上で象徴的な出来事だったと思います。藤井二冠との年の差は18歳であり、これが今後のタイトル戦の歴史にどのように影響していくのかわかりませんが、両者の戦いは始まったばかりです。現在36歳の渡辺名人は、これまで羽生九段をはじめとする年上の強豪と死闘を演じてきましたが、今後は若手との戦いを続けながら、10年以上タイトルを保持し続けても不思議ではないと思っています。

渡辺名人は、タイトル戦登場37回で通算28期獲得しています。獲得率0.757は、タイトル獲得数歴代5位までの中でも目立って高い数字です。これは防衛戦に強いことを意味しており、現在30歳前後のタイトルホルダーたちが、防衛に失敗することが多いのとは対照的です。この点について渡辺名人は、棋王戦後のインタビューで「タイトル戦での戦略については、考えていることがうまくいっているのかもしれない(ダブルタイトル戦のときの戦法のローテーションだとか)」と語っています。戦略家の渡辺名人らしい傾向なのかもしれません。

渡辺名人のタイトル獲得のもう一つの特徴として、棋戦毎の偏りがあります。参考までに、谷川九段や羽生九段との比較をしてみます。

谷川浩司九段
竜王4期、名人5期、王位6期、王座1期、棋王3期、王将4期、棋聖4期
羽生善治九段
竜王7期、名人9期、王位18期、王座24期、棋王13期、王将12期、棋聖16期
渡辺明名人
竜王9期、名人1期、王位0期、王座3期、棋王9期、王将5期、棋聖1期

渡辺名人は冬将軍と呼ばれることがありますが、秋から冬にかけて行われる竜王戦・王将戦・棋王戦に滅法強いことが由来です。谷川九段や羽生九段があまり偏りなく獲得しているのに比べ、通算28期中23期をこの3棋戦で稼いでいることが目を引きます。念願の名人を獲得した際、「名人には縁がないと思っていた」と発言していますし、王位戦はこれまで挑戦したことすらありません。棋王戦後のインタビューで、季節的な相性を問われた渡辺名人は「最初に持たせてもらったタイトルが竜王で、そこから何年か、秋~冬に向けて仕上げていくという意識でやることが続いたから」と答えています。羽生世代の強豪らがタイトルを占有していた将棋界において、自らの力を秋から冬にかけてのタイトル戦に集中させようという、渡辺名人の戦略性が現れているのかもしれません。

渡辺名人を中心に、これまでのタイトル獲得記録を振り返ってみましたが、やはり通算28期というのは10数年ごとに現れる超一流棋士の証であることは間違いありません。渡辺名人は「上の3人にはもう届かない」と言っていますが、28期は通過点に過ぎないはずで、どこまで記録を伸ばしていくのか期待されます。そして今、また一人の超一流棋士がタイトル2期獲得を果たし、長く険しい道を昇り始めました。藤井二冠がこの先、渡辺名人を超え、羽生九段に近付き、そして超えていくことができるのか、楽しみに見守りたいと思います。

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