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5年後のゴールより目の前の目標を 働く女性の力を引き出すマネジメント

皆さんの職場で働く女性スタッフの中には、上昇志向が弱く、仕事への意欲がないように見える方がいるかもしれません。

しかし、それは仕事の優先順位が低いのではなく、いま目の前の仕事を大事にする姿勢の表れだと捉えられます。

スタッフの9割を女性が占めるサマンサタバサで執行役員を10年以上務めてきた世永亜実さんは、一般的に女性は人生でいつ何が起こるか分からないという気持ちを持っているため、想像しづらい数年後の将来よりも少し先の目標に向けて頑張ることが得意だと言います。

リーダーやマネージャーなど管理職の方は、男女の仕事への取り組み方が異なることに直面し、それぞれに合わせたアドバイスや接し方が必要だと感じているのではないでしょうか。特に男性にとって、働く女性の価値観を理解するのは簡単ではないはずです。

そんなとき、ぜひ参考にしていただきたいのが世永さんの著書『発想の転換で読み解く働く女性のやる気スイッチ 持てる力を120%引き出す並走型マネジメント』(翔泳社)です。

世永さんはこれまで管理職として多くの女性とともに仕事をしてきました。その中で得た経験や気づきをまとめ、女性の「やる気スイッチ」を押すためのマネジメント術を解説したのが本書です。

自分では働く女性の気持ちを理解しているつもりでも、実は相手は本音で話してくれてはいないかもしれません。本書はコミュニケーションの齟齬を解消するポイントはもちろん、管理職に必要な振る舞い方、新人を即戦力に教育する方法など、職場の女性の力を引き出すヒントが詰まった1冊です。

今回は本書から、「第2章 発想の転換で女性のキャリアは花開く」を抜粋して紹介します。5年後のゴールよりも目の前の目標、成果を出させるよりも成長を感じてもらうなど、「発想の転換」のポイントを掴んでいただければ幸いです。

『発想の転換で読み解く働く女性のやる気スイッチ 持てる力を120%引き出す並走型マネジメント』(翔泳社)から「第2章 発想の転換で女性のキャリアは花開く」を抜粋します。掲載にあたって一部を編集しています。

「5年後のゴール」よりも「今、目の前にある目標」

アパレル業界は、半年以上先の流行を予測して商品の準備をします。たいてい春夏の展示会が11月、秋冬の展示会が6月に行われるのです。

でもそんな業界に慣れた私でさえ、まだ春なのに「今年のクリスマスの施策を考えて」と言われると、精神的にとてもきつくなります。クリスマスになってもまだ仕事を続けているつもりでいても、いつ何が起こるかわからない。

それが若い世代だったらなおさらだと思います。

「5年後のキャリアプランをどう考えているの?」と言われたら、「彼氏と結婚するかもしれないし、しないかもしれない」、「子どもが生まれているかもしれないし、いないかもしれない」、「転職しているかもしれないし、していないかもしれない」と悩むでしょう。

男性は、今がんばっている方向の先に道が開けることをイメージする一方で、女性は今がんばってもその先に違う道が待っているかもしれない

だから先のことを聞かれても、女性は苦しくなったり、「重い……」と感じたりしてしまうのです。

てっぺんを目指している人に比べ、必ずしもてっぺんを目指していない人は、ともすれば腰掛け気分で働いているように見えたり、やる気や意欲が低く感じられたりするかもしれません。

それは人生における仕事の優先順位が低いということではなく、一瞬一瞬を大事にしようという意識の高さの表れだと、私は受け取っています。

先のことを問い詰めて窮屈にさせてしまうぐらいだったら、今がんばってもらったほうがずっといいと思うのです。

マネジャーがそういう発想でいたほうが、女性スタッフのキャリアサポートがうまくいったりします。

必ずしもてっぺんを目指さなくてもいい

では、必ずしも頂上を目指していない女性たちを、どうリードしていけばいいのか。

「自分はどうなりたいの?」「どんなキャリアを築きたいの?」

と聞くより、

「今、何をしたい?」「今、何ができるようになりたい?」

と声がけする。

「大丈夫、大丈夫。苦しかったら山頂まで行かなくてもいいけど、もうちょっとだけ進んでみようか」

と、必ずしもてっぺんを目指さなくてもいいということを伝える。

すると、彼女らはまた一歩一歩進んでいけます。そしてその歩みは、意外としっかりとしたものです。

そういうわけで、私は女性スタッフと今後のプランを話す時、どんなに先でも半年後くらいまでしか聞かないことにしています。

「この仕事でどんなことができそう? 何をがんばってみたい?」

と、目の前のことから目標を立てていくことを大切にしたいです。

大きな目標や目的がなくても構わない、と私は考えています。それがないからこそ、今の環境に感謝して、とにかく今をがんばりたい。そう感じる人も多いのです。

「成果を出させる」よりも「成長を実感させる」

では、女性たちの「頂上までの道のり」をキラキラさせるのは何でしょうか。

やりがいのある仕事、人の役に立てること、楽しい仲間など、いろいろ考えられますが、私が重視しているのは「自分が成長できているという実感」です。

前回の仕事より何か一つできることが増えていたら、それは前進している証拠です。

「この前は手配に困っていたけれど、発注のやり取りがすごくスムーズにできるようになったよね。進んでいるじゃない!」

と言葉にして、ちゃんと本人に成長を気づかせ、一緒に喜ぶようにしています。

マネジャーとしてはもちろん「成果」を上げさせたいけれど、ちょっと発想を切り替えて、「成果」より「成長」を軸にサポートしてあげれば、本人にとって「成果」までの道のりが充実したものになります。

ハードルは少しだけ高く

一つ大事なのは、少しだけ高いハードルを用意してあげること。

「あなたにとって、もうちょっとだけ高いハードルってどんな感じ?」

と本人に聞くこともあります。

その人によって答えは違うでしょうが、自分が課題としていることは大体気づいているはずです。もしすぐに思い浮かばなくても、自分に近い上司や先輩の仕事を見ていたら、次に越えたいハードルが見えてくるかもしれません。

取り組めそうな課題が出てきたら、

「じゃあ、次はこれを跳び越えてみようか」

と、目標を一緒に設定します。

それでも何も思い浮かばないようなら、現在取り組んでいる、またはこれから取り組むプロジェクトに対して、目標を一つずつ一緒に考えていきます。

少しずつ小さなハードルを設定しては、飛び越えるのを見届ける。それを繰り返していくうちに、いつの間にか高いハードルを乗り越えられているものです。

マネジメントと子育ては似ている

子育てでも、

「あの時、初めて跳び箱を跳べたよね」

「自転車に乗れたよね」

など、言葉にして一緒に振り返ることで成長を確認したりしますよね。

それと同じで、スタッフ全員の成長ドラマの瞬間を、私はよく覚えています。何かの折にそういった瞬間のことに触れて、

「1年前は、あんなに低いハードルで泣いていたよね。もう笑い話だけど、今はこんなに高いハードルをスッと跳んじゃっているじゃない!」

と、本人と笑いながら語り合ったりします。

越えられそうになかったけれど越えられた過去のハードルの一つひとつを、一緒に振り返ってあげれば、本人の自信になります

一歩一歩を大切にして働いている人にとって、重要なのは自分が前進しているという実感なのだと思います。

「離職者を引き留める」よりも「成果を手土産に送り出す」

どんなにマネジャーが優れていて、スタッフが活躍できる環境を用意できていても、辞める人はいます。

個人的には、ネガティブな理由でなければ入れ替わりはあっていいと思っています。

こんなにライフスタイルやキャリアが多様になっている時代です。昔より可能性が広がっている中、「この会社でしか生きていけない」と思っている若者は、もはやあまりいないですよね。

例えば、Instagramがあれば一人でマーケティングもできるし、ショップスタッフであれば接客力を活かして、インスタライブをしながら商品をEC販売したり、自ら発信者となってインフルエンサーとして活躍することも可能になっています。

だからこそ、前向きな理由で新しい挑戦をしたいと言うなら、私は止めません。転職や退職は本人の判断なので、無理に「続けたほうがいいよ」と言うのは意味がないですよね。

衝動的に辞めようとしている人には、「今」を乗り越える力をあげる

ただし、「辞めたい!」という言葉が、業務のつらさや負担など一時的な理由からきている衝動的なものなのか、悩みに悩んだ末に自分で決めたことなのかは、きちんと見極めなくてはいけません

目の前のことでつまずくと、「もう無理!」と、すべてに対してキャパシティオーバーになってしまう人もいます。衝動的に辞めたいと言っているなら、一緒に冷静に考えてみます

「ぶっちゃけ会社なんて、役員の私でもいなくても回るの。だから、代わりはいくらでもいるんだよ。私じゃなくても、あなたじゃなくても、仕事は回るよ」

とはっきり言ってしまいます。

「でも、クライアントとの窓口があなただったからこそ、今までこういう人間関係ができて、プロジェクトがうまくいった。私はあなたが会社にとってすごく大切な存在だと思うけど、本当に辞める?」と話します。そうすると、一旦冷静になれる人が多いです。

私はよくインタビューなどで、

「世永さんなんて、仕事を辞めたいと思ったことはないんじゃないですか?」

と聞かれることがありますが、

「もうしょっちゅうです! 昨日も思っていました(笑)」

と何度も答えています。

サマンサタバサでの現役時代、仕事で壁にぶつかったり、悩んだりすると、「もう無理!」と思って何度も当時の社長の寺田さんに半泣きで訴えていました。

でも、話しているうちになんとかなりそうな気がしてくるのです。そして、寺田さんに、「とりあえずやってみたら?  それでダメだったらまた相談に乗るからさ」

と言われて、気づいたらまた仕事に向かい、少し経ったらその壁も乗り越えていたりしました。そのおかげで、ここまで来ることができたと思っています。

だからこそ、私もそうやって駆け込んでくる女性たちに、

「大丈夫、大丈夫。とりあえず今、目の前にあることだけやってみようか?」

と言葉をかけます。

前向きな巣立ちなら、語れるものを持たせてあげる

一方で、前向きに飛び立つ人たちを止めることはしません。新しいスタートを切ろうというポジティブな決断ならば、きっとそれは良い幕開けだからです。

そうしてスタッフが飛び立っていくなら、その前に、何かしら「語れる経験」をしっかり持たせて送り出すようにしています。小さなチームのリーダーを務めた話でもいいし、お客さんに喜ばれた話でもいい。そこにその人のがんばりや工夫、努力から得たものがあるからです。

逆に言えば、語れる経験が何もないうちに送り出すのは、マネジャーとして無責任にも思えます。

私はサマンサタバサにいる間、中途採用でプレスを志望する人の面接に立ち会ってきました。相手が転職者なら、やはりこれまでの経験について聞きます。肩書よりも、どんなことができる人なのか、何に情熱を持てる人なのかを知りたいからです。

しかし、実際に面接をしていると、自分が何をやってきたのか話せない人が多くいることに衝撃を受けました。

何の仕事をしていたかなら言えるけれど、具体的にどんな経験をして、それが自分にとってどんな意味があって、どう成長することができたかなど、うまく言葉にできていないのです。

私自身、サマンサタバサで働いた17年間には大変なこともたくさんありましたが、私が就職活動する側になったら、語れることがありすぎるほどです。

チームを離れても、どこかでがんばっている

私自身、サマンサタバサの正社員としての立場から卒業し、新しい働き方を選ぶと決めた時も、寺田さんは止めませんでした。2人で何時間も話し、とても前向きな話ができました。

また、新卒で入社したアミューズという芸能プロダクションを退職した時のこともよく思い出されます。

アミューズでは、まだ新入社員研修の途中だというのに、私は大里洋吉会長が始めたプロジェクトのメンバーに入れてもらっていました。ただ、2年目にいろいろ社内の体制が変わり、若気の至りで飛び出すように転職してしまいました。それでも大里会長は、当時まだ24歳だった私のために時間を割いて、話をする時間をくれました。

それから6年後、当時のメンバーとの同窓会で会長に再会した時、私は涙ながらにこう話しました。

「あの時は、若気の至りでみなさんの気持ちを踏みにじって、生意気に飛び出して辞めてしまったことを謝りたいです」

すると、会長はこう答えてくれました。

「強い思いのある若者の気持ちを活かしてあげられなくて悪かったな。お前が本当にがんばっていたのは、いろいろなところから聞いていたよ。サマンサでの活躍はずっと見ていたし、うれしく思っていたよ」

大里会長は、自分の会社を辞めた私のことまで心配し、遠くから見守ってくれていたのです。

メンバーが退職してチームから離れてしまうのは寂しいですが、どこかで新たにがんばっている仲間であることには変わりない。だからこそ、そこでがんばるための"手土産"を持たせて送り出してあげたいですね。

まとめ

●将来の話は、長くても半年先まで。だからこそ今どんどん跳べるハードルを用意する。すると、彼女たちは少しずつ進んでいける。

●てっぺんを目指していない女性には「今何をしてみたい? 」と聞く。そして期待をさりげなく伝えておく。

●来た道を振り返り、成長できたことを一緒に喜ぶ。小さな成功体験が彼女たちの自信になる。



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