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うつ病に効果のある認知行動療法、自分でできるセルフカウンセリングを紹介

最近よく眠れない。
職場の人たちから嫌われている気がする。
「自分はダメな人間だ」と思うと、涙が止まらなくなる。
日曜日の夜は、翌日の出社のことを考えてひどく落ち込む。

これらはうつ病を疑う代表的なサインです。あてはまる方でも「まさか自分が」と考えて放置していないでしょうか。誰もが思いがけないきっかけで患ってしまうのが心の病、治すには早急な対処が必要です。

疑わしい場合はまず専門医に診察してもらうのが第一。治療法には薬物療法と認知行動療法がありますが、イギリスの調査では認知行動療法も薬物療法も回復する割合は約50%と、同じ程度の治療成績です。

それを踏まえて、どちらの治療法を選ぶかは患者さんの自由意思に任されていますが、イギリスでは4人に3人が認知行動療法を選んでいるとのデータがあります。薬物療法と比べて再発しにくいことも明らかになっており、日本でも今後ますます注目されていく治療法になると思われます。

翔泳社では、この認知行動療法を自分で行なえるセルフカウンセリングの方法を紹介・解説した『自分でできる認知行動療法 うつ・パニック症・強迫症のやさしい治し方 ココロの健康シリーズ』を刊行しています。

翔泳社の通販サイトSEshopではPDF版を販売しています。

認知行動療法は、治療者(セラピストや医師)との対話によって、「考え方の偏り」を少しずつ修正していく治療法です。もし診断を受けた方で認知行動療法を希望する場合は、医師にきちんとその旨を伝えることが大切です。

ただし、認知行動療法を受けたい人にとっての最大の問題は、実施しているところがまだ少数であること。症状がそれほど深刻でなく、いい治療機関がなかなか見つからないときは、セルフカウンセリングを試すのも1つの選択肢です。

本書は認知行動療法の専門家で、千葉大学医学部附属病院 認知行動療法センター長の清水栄司氏による監修のもと、医学系ライターの浅岡雅子が執筆。うつ病のほか、パニック症と強迫症の方に実践していただけるセルフカウンセリングを解説しています。

今回は特にうつ病のセルフカウンセリングについて、本書から抜粋して紹介します。すでにうつ病の診断を受けている方だけでなく、もし下記のような状態にあてはまる方がいれば、認知行動療法を試してみていただければと思います(生活習慣を整えて治療する方法についてはこちらを参考に)。

以下、『自分でできる認知行動療法 うつ・パニック症・強迫症のやさしい治し方 ココロの健康シリーズ』(翔泳社)から「うつ病のセルフカウンセリング」を抜粋します。掲載にあたって一部を編集しています。

うつ病の簡易チェック表

<あなたは最近、次に示すような状態が2 週間以上続いていますか?>

□気分が落ち込む。
□何に対しても興味が湧かず、楽しめない。

<以上の2つのうち、1つでもあれば、下記の症状がないかもチェックしてください>

□食欲がない。
□眠れない、または眠くて起きられない。
□疲れが抜けない。
□本、新聞、資料など、文字を読むことに集中できない。
□自分はダメな人間だと思う。
□家族や仕事場の人から、普段と様子が違うといわれた。
□死んでしまいたくなることがある。

<上記の質問で複数にチェックをつけた場合、それによって、仕事、家庭生活、交友関係などを続けることに困難を感じていますか?>

2週間以上、複数の症状が続き(特に5つ以上の症状がある場合)、仕事、学業、家事などを続けるのが困難で、支障が出ているのであれば、うつ病の可能性があります。

※ これは診断用ではなく、自分の状態を把握するための簡易的な自己チェック表です(『DSM-5』や『PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)』を参考に、一般向けにわかりやすい形で作成)。

セルフカウンセリングを始める前に、ココロを落ちつかせましょう

このセルフカウンセリングは、認知行動療法の理論に基づいて組み立てられているので、順を追って読み進んでいくうちに自然に問題が解決していくようにできています。

終わったときには、心がだいぶ軽くなっているはずです。

【今ここにいるあなたは、何も怖がらなくていいのです】

あなたは今、暗い気持ちでこれからのことに不安を感じているでしょう。でも、自分の周りをゆっくり見回してみてください。あなたは今、この本を一人で読んでいると思いますが、そのことを非難したり否定したりする人はいないでしょう?

今のあなたは、苦しい思いをするかもしれない未来のあなたでも、上司に責められたり、電車のなかで具合が悪くなったり、焦燥感に駆られて手を洗ったりしている過去のあなたでもなく、今この場でただ静かに本を読んでいるだけです。

あなたは、今この瞬間、何かを怖がる必要のない安心で安全な場所にいるのです。そのことをまず心に留め、味わってみてください。

【今の時間とあなた自身を大切にしましょう】

今ここにいる時間を大切にすることは、自分自身を大切にすることにつながります。日常と切り離されたこの瞬間、自分の存在だけに気持ちを集中し、ひとまず心配事を考えるのをやめてみましょう。しばらくガマンしているうちに、心を占領していた不安や恐れは頭のなかで自分自身がつくり出していたものだ、ということに気づくのではないでしょうか?

このセルフカウンセリングは、前知識がなくてもできます。安心して、今はただ、ここにいる自分の存在を感じて慈しみましょう。

Step1 何がつらいのかを落ちついて考えてみましょう

あなたは今、どんなことに苦しみ、何を悩んでいるのでしょうか?

悩みを言葉にするのはつらいことです。でも、悩みを言葉でいい表すことで、うつの正体が少しずつ見えてくる。それが、うつから抜け出す第一歩になるのです。

【つらいことは何ですか?】

PART1にも登場したうつ病のPさんは、大学を卒業するまでは大きな挫折を経験したことがなく、自他ともに認める優秀な女性。それまでも、小さな失敗をすることはあったでしょう。でも、それをほかの人から非難されることはほとんどありませんでした。

ところが、社会に出て価値観の違う上司にたびたび叱責されるようになってから、「自分はダメな人間だ」という思いが生まれ、それがだんだん大きくなって日々自分を苦しめるように…。

休みがあまりとれない仕事の忙しさも、彼女を追い詰めたのでしょう。とき
には死にたいと思うこともあるといいます。

この本を読んでいるあなたは、今、どんなつらさを抱えていますか? そのつらさはどこから来ていますか? そこから抜け出せたら、どんなことがしたいですか? その答を声に出して、あなた自身の心に届けることが大切なのです。

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Step2 どうして「ダメな自分」が頭から離れないのか考えてみましょう

「自分はダメな人間だ」との思いが頭から離れず、つい涙が出る。そして、自己否定の気持ちがさらに強まっていくPさん。

あなたもそんな悪循環に陥っていませんか? それは、どうしてなのでしょう?

【悪循環を形づくる要素が何なのか考えてみましょう】

認知行動療法では、何かが起こったときにその人がする一連の反応を、「出来事をどう考えたか(認知)」、それによって「どんな気分になったか(感情)」、その結果「何をしたか(行動)」に分けて考えます。

認知とはそもそも出来事を目や耳を通して知覚し認識するところから始まりますが、認知行動療法では、出来事に関する知覚情報が言語やイメージとして解釈されて“考え(思考)”になったものを重視し、それを認知と呼んでいます。

この認知(思考)のなかで特に重要なのが、理性が働き出す前に「とっさに浮かぶ考え(自動思考)」。なぜなら、「私はダメな人間だ」と落ち込んでいる人にとって、「とっさに浮かぶ考え」はうつ病の悪循環を引き起こすスイッチのようなものだからです。

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Step3 悪循環を起こしている根本原因を探っていきましょう

「自分はダメな人間だ」「何をやってもうまくいかない」という考えの堂々巡りはますますあなたをうつにさせていることでしょう。

性格のせいだから、とあきらめるしかないのでしょうか? 悪循環が起こる原因が何なのか、一緒に考えていきましょう。

【心の底にある「偏った考え方のクセ」について考えましょう】

認知行動療法では、「とっさに浮かぶ考え(自動思考)」のほかに、「偏った考え方のクセ」に注目します。それは「とっさに浮かぶ考え」は、あなたの心の底にある「偏った考え方のクセ」が見える形で姿を現したものだからです。つまり、悪循環の根本原因は「偏った考え方のクセ」なのです。

もちろん「考え方のクセ」自体は誰にでもあり、その人の信条(信念)ともいえます。認知行動療法ではそのまとまり(構造)を「スキーマ」と呼んでいます。スキーマ自体が問題なのではなく、それの偏りが問題なのです。

【偏った考え方のクセ(スキーマ)を見直しましょう】

「とっさに浮かぶ考え」を無理やり否定しても、また同じような悩みが湧き起こってくるのは、スキーマが偏ったままだからです。そこを変えないと、悪循環はなくなりません。だからといって、「あなたの考え方のクセを全否定して、新しくつくり直しましょう」といっているわけではありません。

大切なのは、本来のあなたを生かす形でスキーマの偏りの不健康な部分のみを修正することです。世の中には少しネガティブくらいのほうが穏やかで楽に生きていけるという人もいます。

でも、今のあなたは、自己否定的なマイナス思考のせいで心が悲鳴を上げている…。そこで、「苦しい状況へあなたを誘導している『偏った考え方のクセ』を見直して修正し、バランスのよい考え方をしましょう」というのが認知行動療法のアプローチなのです。

Step4 あなたの悪循環を図にしてみましょう

考え方の偏りは、親から受け継いだ気質も一部あるかもしれませんが、大部分は家族・知人との関係も含めた生活環境と習慣のなかで出来上がってきたもの。

悩みが大きくなって考え方のクセが際立つ今が、修正する絶好の機会です。

【あなたの悪循環の要素を図にしてみましょう】

Pさんの悪循環の図を参考に、あなたが悩むキッカケとなった出来事から生じている悪循環の図をつくってみましょう。

こうした流れが起きていることに、あなたは何となく気づいていたはずです。でも、それを改めて図にしたときに、あなたは自分のことをどう感じるでしょうか?

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Step5 とっさに浮かぶ考えや行動を少しずつ変えていきましょう

あなたを落ち込ませている「偏った考え方のクセ」を修正するには、とっさに浮かぶ考えや行動を少しずつ変えていく必要があります。

「あの人だったらどう考えてどう行動するだろう?」と想像してみるのも、1つの方法です。

【「とっさに浮かぶ考え」が確かか見直してみましょう】

あなたの「とっさに浮かぶ考え(自動思考)」は、100%確信がもてる考えでしょうか? 案外そうではないかもしれません。

Pさんも、「上司は企画書の不備な点を指摘しただけだったかもしれない」といい、「上司はそのことで自分を無能だと切り捨てるか?」と自問したときも「100%そうだとはいい切れない」と思い直しました。

悪循環を図にして眺めるのは、「絶対!」と思ったことを冷静に見つめ直すためです。あなたも、悪循環の図を描いているうちに、「絶対ではないかも?」と思うかもしれません。

確信が100%でないのは、そこに別の考え方を入れる余地があるということ。その余地のなかにこそ、あなたの考え方のバランスを修正する鍵が隠されているのです。

【「あの人だったら…」を活用しましょう】

ここでいう隠された鍵とは、別の見方や合理的な考え方のことです。あなたが「あんなふうに心にゆとりをもって生きられたら楽だろうな」と思っている人やテレビに出ていつも納得できる見方を示してくれるあの人だったらどう考えるだろう、と想像してみるのも1つの方法です。そういう人たちなら、あなたをもっと公平にもっと肯定的に見てくれるはずです。

Pさんのケースでいえば、「そのくらいのことで部下を切り捨てていたら、自分の企画した仕事が進まないだけだから、そうはしないだろう」というのでは? そして、考え方を修正する習慣がついてきたら、次は行動を慎重に少しずつ変えていきましょう。

Step6 ココロのエクササイズ『ココ練』

偏った考え方のクセを修正し、考え方や行動のバランスをよくするには、少しエクササイズ(練習)が必要です。

それに役立つのが、『ココロの練習5分間』(略して『ココ練』/清水栄司先生監修)。『ココ練』は、明るく生きるためのイメージトレーニングです。

◆『ココ練(ココロの練習5分間)』

問いかけの答を声に出して(心のなかで唱えてもOK)いってみましょう。慣れれば5分でできるようになります。

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Step7 ココロのポジティブエクササイズ『ポジ練』

落ち込みやすい人は、小さな達成感やよろこびに気づきにくい傾向があります。でも、明るい気分は、見落としがちなそんな小さな感動から芽を出して育っていくのです。

その練習になるのが、『ポジティブ練習』(略して、『ポジ練』/清水栄司先生監修)です。

【『ポジ練』で今日一日を気分よく終わらせましょう!】

人の記憶というのは不思議なもので、ネガティブな出来事ほど強く残る傾向があります。落ち込みやすい人には偏った考え方のクセがあるため、なおさらネガティブな記憶が幅を利かせることに。

『ポジ練』は、「少しでもポジティブな記憶を残そう」、「少しでもポジティブな時間があったことに気づこう」というエクササイズです。一日を「今日もいいことがなかった」と暗い気持ちで締めくくらず、『ポジ練』で心を少し軽くしてから眠る習慣をつけましょう。

◆『ポジ練(ポジティブ練習)』

寝る前に3つのテーマに対する答を声に出し、今日あったほんのちょっとした小さな「いいこと」を思い出しましょう。

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