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新しい防災の考え方「フェーズフリー」、日常時と非常時を区別しないデザインとは

災害の多い日本に住んでいるとしても、日常生活を送りながら常に非常時に備え続けるのは簡単ではありません。

そこで注目されているのが、「フェーズフリー」という新しい防災の考え方。

フェーズフリーとは、「いつも」を豊かにする物が、「もしも」においても暮らしと命を支えてくれるようにデザインしようという、防災にまつわる新しい考え方のことです。

製品やサービスの対象とするフェーズ(社会の状況)をフリーにする、つまり、「日常時用」と「非常時用」という区分をやめて、「いつも」と「もしも」の両方で価値を発揮するデザインにすることで、「いつの間にか備わっている社会」を実現することが狙いです。

このフェーズフリーについて紹介した本が、社会起業家でフェーズフリーの発案・提唱者である佐藤唯行さんの著書『フェーズフリー 「日常」を超えた価値を創るデザイン』(翔泳社)です。

◆著者について
佐藤唯行(さとう・ただゆき)

社会起業家/防災・危機管理・地域活性アドバイザー/フェーズフリーファウンダー。国内外で多くの社会基盤整備および災害復旧・復興事業を手掛け、世界中で様々な災害が同じように繰り返されてしまう現状を目の当たりにしてきた。その経験・研究に基づき、防災を持続可能なビジネスとして多角的に展開。その一つとしてフェーズフリーを発案し世界ではじめて提唱、フェーズフリーの推進において根源的な役割を担う。フェーズフリー協会ほか複数団体の代表。

本書ではフェーズフリーの事例として、2022年度のグッドデザイン賞を受賞したコクヨのコンパクトテーブル「MULTIS(マルティス)」が挙げられています。そのコンセプトは「いつもの価値を高めるものが、もしもとこれからをささえる」、まさにフェーズフリーを体現した製品です。

MULTISはコンパクトテーブルの名のとおり、幅80cm奥行き60cmと非常に小さく、誰でも簡単に持ち運べるテーブル。テーブルの脚にはマグネットがついていて簡単にテーブル同士を連結することが可能なため、ソロワーク用に切り離した状態から、瞬時にミーティング用デスク環境に切り替えられるなど、多様化するワークスタイルに柔軟に対応したオフィス活用が可能です。

こうした特徴は非常時においても、大きな価値を発揮します。たとえば、災害対策本部を立ち上げたり、ソーシャルディスタンスの取れるレイアウトを作ったりする手間を、大幅に削減できるのです。

また、それぞれのデスクにはソロワーク時に集中して働くための半透明パネルを設置できるため、これを用いれば、飛沫感染のリスクを低減できるほか、たとえば災害時に臨時の申請・面談用窓口を設置する際などにも、即時にプライバシーに配慮した環境の用意が可能になっています。

MULTISは、多様なワークスタイルという日常のクオリティを高めつつ、非常時のオフィス環境の質も高められる製品なのです。

本書『フェーズフリー』より

本書ではこうしたフェーズフリーの具体的な事例とともに、どのようにフェーズフリーなデザインを実現すればいいのかを解説しています。

フェーズフリーなデザインには防災的な価値は当然として、ビジネス的な価値も必要です。ビジネスとして成り立つということは、すなわち私たちの日常生活におけるニーズを満たしているということ。

日常時の暮らしを豊かにしつつ、非常時にも役立つ。この考え方を活かした製品やサービスを作ることが、今求められています。

商品開発や新規事業の立ち上げに携わっている方、防災の見直しを考えている方などに、ぜひフェーズフリーを知っていただければ幸いです。

◆本書の目次(抜粋)
第1章 「社会課題」としての「災害」

HazardとDisaster/防災ビジネスが難しい理由/「備えられない」から考える/「コスト」から「バリュー」へ/「解決策」から「参加策」へ /etc

第2章 創発の現場から
自由のためにルールを設ける/認証制度導入の葛藤/「日常」はレッドオーシャンになっている/ etc

第3章 フェーズを超えたニーズを探る
定義と原則から視点を得る/社会の状況を問わない価値を作る/5つの原則/顕在化していないニーズを捉える/etc

第4章 フェーズフリーのつくり方
フォアキャスティングで考える/「立派な使命」に夢中になりすぎない/カテゴリから発想する/専門家よりも、あなたの方が可能性を秘めている/etc

第5章 誰も取り残さず未来に進むために
地域固有のフェーズフリー/被災者支援に残された課題/災害は、弱い立場にある人を襲う/etc

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