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介護事業所がBCP(業務継続計画書)を作るうえで大切なことをまとめました

令和6年度の介護報酬改定において、「BCP(業務継続計画書)が未作成だった場合の基本報酬の減算」が設けられました。

BCPの作成を急いだり、どうやって作成すればいいのかと情報収集をしている介護事業所の担当者は多いはずです。

そんな方におすすめの書籍として、『そのまま使える〈スッキリ図解〉介護・障害福祉BCP作成ガイド』(翔泳社)がおすすめです。

本書は大きく自然災害と感染症に分けてBCPの作成方法を詳細に解説しています。付属のフォーマット(Wordファイルをダウンロードで提供)に従って作成すれば、それぞれの事業所に適したBCPを作成できるようにもなっています。

BCP自体について詳しく知りたい方は、既刊の『これならわかる〈スッキリ図解〉介護BCP(業務継続計画)』も合わせて読んでいただければ、「なるほど!」と理解を深められます。

※下掲の記事で「第1章 業務継続計画(BCP)とは何か」の一部を掲載。

今回は本書『そのまま使える〈スッキリ図解〉介護・障害福祉BCP作成ガイド』から、「第1章 BCPの基礎知識」の「BCPを作成するうえで大切なこと」を抜粋して紹介します。

BCPを作成中の方も、これから作成する方も、ぜひ前提知識として押さえておいただければ幸いです。

◆著者について
小濱道博(こはま みちひろ)

小濱介護経営事務所代表。介護事業経営研究会最高顧問。一般社団法人医療介護経営研究会専務理事。介護経営コンサルタントとして、全国の介護施設等への個別支援を行う。

小林香織(こばやし かおり)
株式会社ベストワン代表取締役。一般社団法人コグニティブ・サポート代表理事他。BCPコンサルティングは、全国の介護施設での指導実績多数。講演実績多数。

小林柔斗(こばやし じゅうと)
一般社団法人コグニティブ・サポート理事および小濱介護経営事務所専任コンサルタントとして活動。

●執筆協力
山村樹(やまむら いつき

栃木県を拠点に置くEducarealize Groupの経営戦略室長。Future Grip研究所代表。


すべてのサービスに義務化

令和3年度介護報酬改定において、すべての介護サービス事業者を対象に、業務継続に向けた取り組みの強化が義務化されました。業務継続に向けた計画などの策定、研修や訓練の実施などが必要になります。また、この訓練や研修は定期的に(在宅サービスは年1回以上、施設サービスは年2回以上)開催し、記録しておかなければなりません。

なお、感染症BCPに関する研修は、感染症対策指針の研修と一緒に実施しても問題ないとされています。

BCPは職員第一で作成する

ある医療機関の医師は「BCPを作成するうえで優先順位をつけると、一番が職員、次に組織、最後に利用者」と話されていました。

いくら徹底した感染対策をしても、クラスターが発生した場合、まずは自分自身(職員自身)を守ることを最重要と考えるべきです。職員一人ひとりの安全を確保できてこそ、介護サービスの提供を続けられます。

また、介護サービスは個人プレーではなく、チームプレーでおこなうものです。しっかりと組織としてのマネジメントが機能していなければなりません。

職員一人ひとりが安全で健康であり、そのうえで組織がきちんと機能していれば、緊急時でも利用者へのサービスは継続できます。職員が倒れてしまうと何もできません。ましてや、感染症に罹患したり、濃厚接触者に認定されると、数週間動けなくなります。こういった「職員第一」の考え方は、自然災害BCPにおいても同じです。

利用者個々の対策は盛り込まない

利用者一人ひとりの状況(たとえば、重度者の安否確認の手段や避難方法、備蓄品についてなど)を検討し、BCPの作成を進めているケースを見かけます。これは、BCP作成において適切ではない行動といえます。

BCPは、職員と組織体制の維持のために作成するものです。利用者個々の対策を盛り込んではいけません。

少ない職員でいかに業務を続けるか

たとえば、感染者や濃厚接触者が発生した場合、作成したBCPの想定と大きく違いが生じることも珍しくありません。介護事業所における最大の経営リスクは、職員の多くが濃厚接触者に認定されることです。

濃厚接触者に認定されるとPCR検査が陰性でも2週間は自宅待機となります。新型コロナウイルス感染症が5類に移行したことで、事業所側に判断が委ねられる場面が増えました。一般的にはウイルスに感染した場合、「4~5日間の自宅待機後、検査結果が陰性だった場合に職場復帰」とすることが多いようです。

しかし、今後新型コロナウイルス以外の新しい感染症が発生する恐れもあり、そういった場合は原則2週間の自宅待機となることが想像できます。そして、出勤可能な職員は通常業務以外にも、何役か業務をこなすことが求められます。定期的な消毒作業や1時間に一度の換気、休職中の職員の業務を分担して担当するなどです。

こういったことは、自然災害でも同様で、事業所が被災すると職員も被災します。被災直後に出勤できる職員は少なくなるでしょう。そのとき、出勤できる職員だけでどのように役割分担して業務を継続するかを、BCPでは
考えておく必要があるのです。

「最悪の状況」を想定する

作成すべきBCPは、自然災害と感染症の2つです。過去に自然災害や感染症を経験したことがある事業所では、経験値がすでにあるためBCPの作成は比較的容易でしょう。

しかし、多くの場合、自然災害の被災経験はないに等しいといえます。幸い、いまは多様な体験談や事例がインターネット上に公開されています。そのような情報を積極的に職員間で共有しましょう。近年は線状降水帯による集中豪雨と洪水被害が、全国各地に大きな被害をもたらしています。令和6年1月に北陸で起こった大地震など、毎年のように全国各地で大きな自然災害が起きています。

感染症については、我々が知る限り最悪な状態は「新型コロナウイルスが発生した初年度」です。未知のウイルスがまん延し、多くの方が犠牲となり、マスクやPPE、手袋が手に入らない状態が続きました。防護策も手探りの状況で、フェイクニュースもまん延しました。あのときの状況を前提に、感染症BCPをつくるのが正解です。

新型コロナウイルス感染症は5類に移行しましたが、BCPは「最悪の状況」を想定してつくるため、5類移行後の状況に合わせてBCPを修正する必要はありません。感染症BCPのひな型は、新型コロナウイルスが発生した当時の対策を記載すれば正解です。

内容は新型コロナウイルス対策になりますが、将来現れる未知の新型ウイル
スでも応用可能となります。インターネット上の過去の自然災害・感染症の情報をもとに、「最悪の状況」を想定しながらBCPを作成しましょう。

メンタルやストレスケアも重要

BCPを作成する際、職員のメンタルヘルスについての配慮も重要です。たとえば自然災害の場合、介護職員は、自らが被災者であるとともに救援者でもあります。両方の立場にいることで感じるストレスは計りしれません。

ストレスを放置すると急性ストレス反応からPTSD、うつ状態、アルコ
ール乱用などの状態を招き、組織の疲弊・劣化につながります。

セルフケアの方法について、定期的に研修をおこなうなどの教育的介入(予防)が重要になってきます。

ひな型の様式は自由

厚生労働省からもひな型が提供されていますが、後半になると一気にハードルが上がります。なぜなら、地域との連携や共同訓練などがテーマになるからです。ハードルの高い項目は「後日検討」や「削除」でも問題はありません。

本書のひな型と厚生労働省のひな型、どちらを利用しても問題ありません。また、ひな型をすべて埋める必要はないのです。できる範囲で、ザックリとでもよいですから、まずは一通り記入することが重要です。

BCPは永遠に完成しない

BCPの内容は、あくまで頭で考えた対策です。実際に研修や訓練で体験するものとはギャップが大きいことがよくあります。そのため、BCPは研修や訓練後に見直しをおこなう必要があります。

定期的に研修と訓練を実施し、BCPを肉付けして、バージョンアップさせていきます。BCPは永遠に完成しません。BCPの作成が一旦完了した時点がスタート地点です。職員で知恵を出し合い、検討しながら作り込んでいく必要があります。

また、ほかの事業所とBCPを共有して、補完し合うこともよいでしょう。ほかの事業所でのBCP作成経験が豊富な専門家に、アドバイスをもらうことも有益です。「BCPを常にバージョンアップさせる」という意識が大切なのです。

BCP作成で大切な意識

(1)作成したあとは「研修・訓練・見直し」を実施する

  • 在宅サービスは年1回以上

  • 施設サービスは年2回以上

(2)次のことを意識してBCPを作成する

  1. 職員第一の内容にする

  2. 利用者・入所者、個人個人の対策は盛り込まない

  3. 緊急時、職員の数が少ないことを想定する

  4. 「最悪の状況」を想定する

  5. 職員の身体的・精神的負担を踏まえ、検討する

◆本書の目次
本書の使い方
第1章(BCPの基本知識)
【コラム】人材不足が深刻な状況でのBCP作成
第2章(自然災害BCP)
【コラム】BCPのメリット「業務改善」
第3章(感染症BCP)
【コラム】BCP作成と訓練のポイント
第4章(障害福祉サービスのBCP)
【コラム】放課後等デイサービスにおけるBCP

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