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「頑張れ」と言われるのが嫌いだったので辞書10冊で意味を調べてみた

「頑張ります」
「頑張ってね!」
「今日も頑張ったなぁ......」

学校で職場で、そのほか日々の生活のなかで、よく使いよく耳にする言葉。
自分に向けて、誰かに向けて。だいたいのシーンではプラスのニュアンスで使われますが、「頑張るぞ」と思いつつ内心ため息をつくことも、たまにはありますよね。

頑張る=我慢する?

「ていうか、頑張るって我慢し続けるってことじゃん?」

当時大学受験を控えていた高校生の私に、友人が放った言葉です。あらゆる娯楽を我慢していた自分にはこの言葉が刺さりまくり、その後しばらく「私に頑張れって言わないで!」と周りに向かって騒いでいた記憶があります。頑張るってあんまりいい言葉じゃないや、と思ってしまったんですね。

まあ昔のそんな会話はすっかり忘れ去っていたのですが、実は最近「はぁ。よし、頑張らないと」と思う出来事がありまして。そのときふと、友人の言葉が7年ぶりに思い起こされたわけです。頑張るってなんだっけ。どうすれば「頑張る」になるんだろう。

というわけで今回は、(私にとっての)真の「頑張る」を探るべく、手持ちの辞書+図書館にあった辞書を集めて、それぞれの定義を調べてみました。

実際に辞書で引いてみた

今回エントリーした辞書は以下の10冊。

①広辞苑 第七版(岩波書店 , 2018)
②三省堂国語辞典 第八版(三省堂 , 2022)
③集英社国語辞典 第3版(集英社 , 2012)
④明鏡国語辞典 第三版(大修館書店 , 2021)
⑤日本語源広辞典 増補版(ミネルヴァ書房 , 2012)
⑥新装改訂 新潮国語辞典(新潮社 , 1982)
⑦新レインボーはじめて国語辞典(学研プラス , 2016)
⑧Wiktionary(ウィキペディア)
⑨じしょ君(スマホのアプリ , Penzo)
⑩日本語口語表現辞典 第2版(研究社 , 2020)

努力、忍耐、一生懸命……

ではさっそく引いていきたいと思います。すべてを書くとボリューミーなので、それぞれ1、2番目に記されている意味だけを見ていきます。

①広辞苑 第七版(岩波書店 , 2018)

  1. 我意を張り通す。

  2. どこまでも忍耐して努力する。

我意は、「自分の考えをおし通そうという気持ち」だそう。「張り通す」も相まってなかなか強い印象を受けます。辞書といえば!の広辞苑ですが、意外にもピンときませんでした。もう少し見ていきます。

②三省堂国語辞典 第八版(三省堂 , 2022)

  1. 一生懸命に努力する。

  2. 考えを変えず、ずっと言い張る。

これはとてもわかりやすいですね。一生懸命に努力する。試験合格や試合に勝つなど、高い目標を掲げているときに、ぴったり当てはまりそうです。

③集英社国語辞典 第3版(集英社 , 2012)

  1. 忍耐して力いっぱい努力する。

  2. 自説を曲げずに押し通す。がんこに意地を張る。

「力いっぱい努力する」はエネルギーに溢れている感じがして素敵だと思いました。やる気に満ちているとき、物事が上手くいきそうな予感がするときはこの意味で使いたいと思います。月曜日に使うには、ちょっと向いていないかも……大体元気がありませんので。

④明鏡国語辞典 第三版(大修館書店 , 2021)

  1. 自分の考えや意志を押し通そうとする。我を通す。

  2. 精一杯努める。

これは個人的にとてもしっくりきます。思い返すと、上司に「頑張ります」と言うときは「精一杯努めます」の意味で言っていたような。

ところで、今のところ全ての辞書に「自分の考えを通す」といったような意味が記されていますね。個人的には、その意味で使ったことがあんまりなくて不思議に思ったので、ここで語源を調べてみることにします。

⑤日本語源広辞典 増補版(ミネルヴァ書房 , 2012)

語源は「眼+張る」です。「頑張る」は、当て字。広辞苑は、「我に張る」語源説ですが、これは語源俗解で、正しくありません。(中略)「頑張る」は、かっと目をむいて、能力一杯につとめる意です。

「頑張る」が当て字だとは、初めて知りました。我を張るという語源で考えれば、自分の考えを通すという意味も違和感がありません。学問的には正しくはないけれど俗解、つまり世間で受け入れられやすかったということでしょうか。語源が分かったところで後半に進みます。

⑥新装改訂 新潮国語辞典(新潮社 , 1982)

  1. 我を張る。頑固に主張する。

  2. 困難に屈せずやり通す。

「やり通す」というのは初めて出てきました。たしかに、努力むなしく散々な結果になることもありますね。結果がどうであれ、最後までやりきる、やりきったという実感を得ることのほうが、ときに大切だったりします。報われない結果に終わってしまったときは、「でも私、頑張ったよね」と言い聞かせることにします!

⑦新レインボーはじめて国語辞典(学研プラス , 2016)

  1. 苦しさに負けずに、どりょくする。また、がまんする

  2. 自分の意見などを強くおし通す

出ました、我慢。たまには苦しさに負けたっていいと思うので、もし同期が仕事で無理をしていたら「あんまり頑張りすぎないでね」と声をかけたいです。

⑧Wiktionary(ウィキペディア)

  1. くじけずにやりぬこうとする。ふんばる。

  2. よい成果を得ようとして熱心に努力する。よく働く。すぐれた活動ぶりをみせる。

誰かの健闘を讃えて「頑張ったね!」と言うとき、あるいは「私、今日も頑張ったな~」と思うときには、2.の意味が当てはまりそうですね。

⑨じしょ君(スマホのアプリ , Penzo)

 目標を達成するあるいは、特定の原因または人への改革運動に従事するために、連続的に、活発に、または目立つように、力を発揮する

「連続的に」は継続して頑張っているときの状態がうまく表されている気がします。「今日もどこまでも忍耐するぞ!」と実際に毎日思う人は少なそうですが、日々頑張りを積み重ねていこうという感じは、連続的という表現が近い気がします。

さて、ここまでは主に自分に向けての「頑張る」を見てきました。最後は人に向けた「頑張って」を調べて終わりにしたいと思います。

⑩日本語口語表現辞典 第2版(研究社 , 2020) [がんばって]

自分を奮い立たせるように、真面目な生徒や社員が先生や上司に、また目上から目下に注意する場合に用いられることが多い。他者を励ます場合は、目上から目下にしか使えない。すでにがんばっている人に対して使いすぎると、さらに忍耐を強いることにつながるので、使用には注意が必要である。

お薬みたいに用量を守って使用しましょう、という感じがして面白いです。そして目上から目下に、とありますね。先輩に言ってしまったことが全然あります、どうしましょう。

励ましの意味はもちろんですが、個人的には「事情の全部は分かってあげられないけど、あなたの物事がうまくいきますように」と、祈りの気持ちを込めて言うときがあるなぁと思いました。

私にとっての「頑張る」は「日々努める」こと

10冊の辞書を引いてみると、共通する意味もあれば、違うものもありました。そして、どの辞書にも載っていないけれど、こんな意味でも使うよな、と思い浮かぶものも。

毎日一生懸命に、そして我慢し続けて、というのが向いていない私が個人的に気に入ったのは、この2つでした。

  • 精一杯努める(明鏡国語辞典 第三版)

  • 連続的に力を発揮する(じしょ君)

つまり、私にとっての「頑張る」は、「連続的に精一杯努めて力を発揮する」ということになります。

うーん、ちょっと堅いので、「後ろめたくない状態をキープできるよう、日々努める」くらいの解釈にしてもよいでしょうか。

今日は手を抜いてしまったなとか、結果が出たあとに「あのときこうすればよかった」と思うとか。そういったことがないように、その日その日にやるべきことを、きちんと進めるよう努めていきたい、という意味をこめて。

流れていく会話の中で、毎回ことばの意味を考えるのは難しいですが、たまに調べてみると面白い発見があるのかも。

たくさんの意味があるのですから、誰にどんなふうに言われても、頭の中では好きなように解釈しちゃってよいのです。たぶん。

さて、今週も頑張ります。

(編集部 松本)

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