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福祉や医療の現場で必要な「質問力」、明日から活かせる質問の仕方とは?

相手の話を聞く力、あるいは傾聴が重要だという認識が一般的になってきました。日常生活でも仕事でも、他人とのコミュニケーションは必ず発生するので、そこでお互いに気持ちよく意思疎通できることは欠かせません。

福祉や医療の現場では、基本的には相手と対面でやり取りしますが、それゆえに質問する機会もたくさんあります。もちろん、相談事や不安要因、体調、希望など、しっかり相手の気持ちを知ることがよりよいサポートに繋がります。

ですが、うまく質問できていると思っていても実は相手は戸惑っていたり、相手からすると威圧的に感じたり親身ではないと思われたりしてしまっている場合もあります。

気づかぬうちに自分の望ましい答えに誘導している、自分が知りたいことばかり優先して質問する、具体的な質問ができていない(会話が続かない)などなど。

相手を思ってのことでも、そのやり方がふさわしくなければ誤解や齟齬が生じます。それを避けるために重要なことは、自分が知りたいことを尋ねつつ相手に気持ちよく答えてもらえる「質問力」を高めることです。

「翔泳社の福祉の本」には、質問の仕方をきちんと学んだことがない方のために『対人援助の現場で使える 質問する技術 便利帖』という本があります。医療や介護、教育の最前線に携わってきた大谷佳子さんが、どんな質問の仕方が有効なのかをまとめてくれています。

翔泳社の通販サイトSEshopではPDF版を販売しています。

対人援助の現場では、よい質問をすることがなにより大切です。相手が何を考えているか、何を不安に思いどうしたいのかを知るためには、質問するしかないからです。

そこで今回は、本書の「第1章 もっと質問してみよう」を抜粋して紹介します。うまく相手の気持ちを引き出せないと悩んでいる方に役立つ内容となっていますので、ぜひ参考にして現場で活用してみてください。

以下、『対人援助の現場で使える 質問する技術 便利帖』(翔泳社)から「第1章 もっと質問してみよう」の一部を抜粋します。掲載にあたって編集しています。

上手に質問できる援助職になろう

【「コミュニケーションが苦手」な人の特徴】

対人援助の現場では、人と人とのかかわりを基盤にして、日々業務が行われています。しかし、対人援助の現場だからといって、人とかかわることが得意な人ばかりが集まっているとは限りません。コミュニケーションの大切さは認識していても、自分自身のこととなると、コミュニケーションに苦手意識を持っている援助職も少なくないようです。

コミュニケーションが苦手」と思っている人には、共通してみられる特徴があります。それは、上手く質問ができていないことです。知らず知らずのうちに、ダメな質問をしている人や、そもそも質問はあまりしないという人もいるでしょう。

「質問をしないなんて、もったいない!」と言いたくなるほど、質問にはすごい力があります。上手に質問を活用して、コミュニケーション力をアップさせましょう。「何を話したらいいのかがわからない」「会話が弾まない」「間が持たないので、ひたすら自分が話し続けている」などの悩みを持っている人ほど、質問の力が実感できるはずです。

【意識の方向は、自分ではなく相手】

「コミュニケーションが苦手」と思っている人に、もう1つ、共通している特徴があります。それは、会話をしているとき、意識が相手ではなく、自分に向いてしまうことです。

目の前にいる相手に意識を向けているようでも、「何を話そう」などと頭のなかで考えているときは、意識が自分自身に向いています。会話を上手にリードしようとして、あれこれ考えてしまうと、相手の話を聞くことに集中できません。その結果、話の流れや内容を無視した発言になったり、反応を示すタイミングを逃してしまったりしてしまうのです。

会話では、意識を相手に向けて、その人の話を軸に、質問をしてみましょう。上手に質問すると、意外なほど、相手が積極的に語ってくれるようになるでしょう。

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質問して、引き出そう

【援助は「その人を知る」ことから始まる】

私たちは、自分の知りたいことを、誰かから教えてもらいたいときに質問をします。援助職にとって、質問は、援助の対象者のことを知るための有効な手段です。

「その人らしさ」を大切にした援助を提供するためには、その人を知るための情報収集が欠かせません。年齢、出身地、家族構成、既往歴、現病歴などの個人情報や、生活環境全般に関する情報などから、その人がどのような人物であるかを知ることができます。しかし、このような書類から得られる客観的な情報をつなぎ合わせても、その人らしさを知ることはできないでしょう。

その人がどのように生活してきたのか、また、これからどのような生活を望んでいるのか、などの主観的な情報は、本人に語ってもらわなければ、わからないことも多いのです。

【質問は、アセスメントの重要な手段】

アセスメントとは、援助過程における事前評価のことです。援助目標を設定したり、援助計画を策定したりする前の段階として、アセスメントでは、その人に関する客観的な情報と、本人でなければわからない主観的な情報を収集します。それらの情報から、その人の抱えている問題を把握したり、ニーズを見出したりして、援助の方向性をつかむのです。

質問は、アセスメントの重要な手段です。書類からわかる情報は、本人に確認する程度にして、修正箇所や補足事項がないかを尋ねましょう。書類からわからない情報は、相手に自由に語ってもらえるように、十分な時間を確保して、丁寧に質問しましょう。援助職には、用途に応じて、上手に質問を使い分けることが求められるのです。

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【ナラティブアプローチ】

1990年代以降、相手をより深く理解するための手法として、ナラティブアプローチが注目されてきました。心理療法においてはセラピーとして、社会福祉の領域では援助的アプローチとして、ナラティブアプローチは、さまざまな対人援助の現場で活用されています。

ナラティブアプローチでは、その人の語るストーリー(ナラティブ)を通して、援助を行います。その人の自由な語りのなかには、その人なりの起承転結や、出来事に対する主観的な意味づけがあります。そのストーリーに耳を傾けることで、客観的な情報からは把握できない、その人の考え方や生き方、そして人柄が伝わってくるのです。

質問して、確かめよう

【思い込みはトラブルのもと】

質問は、何かを確認するときにも、欠かせないコミュニケーション技術です。

何かについて説明をしたら、最後に必ず、相手の理解度を確認する質問をしましょう。いくら上手に援助職が説明をしても、その内容が正確に伝わったかどうかは、説明を受けた本人に確認してみなければわかりません

「これぐらいのことはわかっているはず」「きっと、理解できているだろう」などと、援助職が一方的に判断をしてしまうと、相手に確認することを怠ってしまいがちです。ちょっとした確認不足が原因となって、後から「言った」「言わない」のトラブルに発展してしまうこともあるのです。

【自問自答を心がける】

理解しているかどうかの確認は、相手に質問するだけでなく、援助職自身も自問自答して常に心がける必要があります。

アセスメントにおいて、援助の対象者からさまざまな情報を収集しても、それらの情報をどのように組み合わせ、その人をどのように理解するのかは援助職次第です。情報を分析したり、その人が語ることを傾聴したりして、その人のことを理解したつもりでも、実際のところは本人に質問してみなければわかりません。「私は○○さんのことは、よくわかっている」という思い込みが、援助職の視野を狭めてしまい、客観的に相手を理解することを妨げてしまうこともあるのです。

普段から、「○○さんに対する自分の認知は偏っていないだろうか」「視点を変えたら、どのような捉え方ができるだろう」などと自分に質問を投げかけることを心がけましょう。

【対人認知】

以下の図を見てみましょう。あなたは、何に見えましたか?

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若い女性の絵に見えた場合は、女性の耳が見方を変えると老婆の目に、アゴが鼻に、ネックレスが口なり、老婆の絵にも見えてくるでしょう。老婆の絵に見えた場合は、老婆の目が見方を変えると若い女性の耳に、鼻がアゴに、口がネックレスになります。

「老婆の横顔に見えた!」人もいれば、「画面奥に顔を向けている若い女性に見える!」という人もいるでしょう。この絵は老婆と若い女性の二通りに見えるように描かれた作品ですが、どちらを先に認知するかは見る人によって違います。

なぜなら、私たちは、これまでに自分が見たことや聞いたこと、経験したことなどに基づいて、受け取った情報を処理しているからです。私たちは、自分のなかにそれぞれフィルターのようなものを持っていて、そのフィルターを通して、それが何であるのかを認知するのです。

相手をどのような人物か認知(対人認知)しようとするときにも、人それぞれのフィルターを通して、相手を理解しています。援助職は、その人に対する自分の認知が、他の人の認知とは異なるかもしれないことを意識しておきましょう。

質問して、好意を伝えよう

【好意を伝えると、好意が返ってくる】

質問は、相手との良好な関係づくりにも力を発揮します。

なぜなら、質問すること自体に、相手に対する関心と、好意を伝える効果があるからです。質問をするという行為は、「あなたのことをもっと知りたい」「あなたの話をもっと聴きたい」という意思表示でもあります。上手に質問することで、相手は、援助職から肯定的な関心と好意を感じることができるでしょう。

援助職からの好意を受け取った相手は、心を開いて、自分のことを話してくれるようになります。それは援助職の好意が伝達されると、相手も、援助職に親しみを感じたり、好ましく思う気持ちになったりするからです。このような心理を好意の互恵性と言います。

質問によって、相手の新たな一面や意外だった一面などを知ることができると、援助職のその人に対する関心がさらに高まり、相手に質問したいことが増えていきます。そのような援助職の姿勢が、相手との心の距離<心理的距離>を縮めていくのです。

【根掘り葉掘りの質問は逆効果】

質問するときは、効果的に好意が伝わるように、援助職の表情や視線、姿勢などの非言語も意識しましょう。質問している援助職が、無表情で、無関心なそぶりでは、相手は快く答えようという気持ちにはならないでしょう。

また、相手のプライベートなことを根掘り葉掘り、質問するのは逆効果です。個人的に興味・関心を持ったことがあっても、それを質問するときは、相手が援助の対象者であることを忘れないようにしましょう。個人的な質問が多いと、会話が本来の目的から離れた方向に向かってしまうので注意が必要です。

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質問して、会話を弾ませよう

【質問は、会話への参加を促す】

援助の対象者のなかには、積極的に自分の話をする人もいれば、コミュニケーションが苦手で、会話に消極的な人もいるでしょう。

質問は、コミュニケーションが苦手な人にも、効果的に会話への参加を促します。

会話に消極的な人には、つい援助職から話題を提供して、あれこれ一方的に話し続けてしまいがちです。区切りのよいところで一呼吸おいて、「○○さんは、どう思いますか?」などと、質問をしてみましょう。質問されたことで、相手は話の内容に意識を向けることができます。そして、その質問に回答することで、相手が会話に参加するきっかけになるのです。

【共通点がなくても会話を弾ませる方法】

さらに、会話を弾ませるためには、自分と相手との間に共通点を見つけるとよいでしょう。例えば、「出身地が同じ」などの共通点が1つでもあると、互いに親しみを感じて、心の距離がぐっと縮まります。これは、“似たもの同士は親しくなりやすい”という類似性の要因が働くからです。

しかし、共通する話題が見つからないときもあるでしょう。そのようなときは、相手が答えたくなるような質問をしてみましょう。例えば、その人がよく知っていることや、好きでやっていること、得意な分野に関する質問などです。相手は、自分のよく知っていることなら、快く、積極的に、その質問に答えてくれるでしょう。

「私は、詳しく知らなくて……。○○って、どのようなものなのですか?」などと質問すると、教えてほしいという援助職の気持ちが伝わり、相手は気分よく話をすることができるのです。

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会話が弾むと、互いに、コミュニケーションの楽しさを感じることができます。相手が答えたくなるような質問をすることで、自然と相手との距離も近づき、信頼関係を築くこともできるでしょう。

質問して、思考や気づきを促そう

【情報を引き出す質問、思考を促す発問】

教育の分野では、生徒や学生に対して、教員が教育的な意図を持って問う行為を発問と言います。“発問”は学習を促進するために問う行為であり、答えを知るために尋ねる“質問”と区別されることもありますが、上手な質問には、発問と同様の効果が期待できるでしょう。

援助の現場においても、援助職が上手に問いかけることで、質問と発問の両方を活用することができます。例えば、アセスメントでは、質問によって、相手が持っている情報を引き出します。同時に、考えなければ回答できない質問をすることで、相手の思考を促すこともできるでしょう。発問の効果によって、相手は、問われたことを振り返ったり、思考を深めたりして、新たな気づきを得ることができるのです。

【問われると、考える】

私たちは、質問をされると、その質問に答えようとして考え始めます。外に向いていた意識が、質問されたことによって、内側へと向かうからです。

例えば、「あなたは、○○の存在を信じますか?」などと、テレビ番組や本のなかで、ただ投げかけられただけの質問でも、私たちは問われると答えたくなるのです。

目の前にいる援助職から直接的に質問されれば、適度な強制力も加わって、相手に問われた内容に向き合ってもらうことができるでしょう。援助職が一方的に話し続けると、相手は、話に耳を傾けているだけの受け身の状態になり、その話とは関係のないことを考えてしまうかもしれません。

援助職が質問をすることで、相手の意識は回答することに集中して、他のことを考えるような余裕はなくなります。自分のこととして、主体的に考えてもらうためには、相手に質問をすることが効果的なのです。

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【脳を活性化するのはアウトプット】

新聞を読んだりテレビを見たりして知識を得る、「○○してください」「○○したほうがいいですよ」などと言われたことを頭に入れる、のは“インプット”です。

それに対して、“アウトプット”は頭のなかにある情報を外に出すことを言います。インプットしているときの脳は受動的ですが、自分の考えやアイデアを誰かに話したり、問いかけられたことに答えたりしてアウトプットするときは、脳が活性化するのです。

質問して、表現してもらおう

【問いかけて表現を促す】

質問には、その人が抱いている感情を明確にする効果もあります。

例えば、「もう自信がなくなってしまって……」という言葉の背景には、さまざまな感情が混在していることがあります。悲しい気持ちや情けない気持ちのほかにも、自分に対する呆れた気持ち、取り組んできたことを投げ出したい気持ち、あるいは、誰かに肯定してもらいたい気持ちなどが入り混じっているかもしれません。「自信がなくなってしまって……」と言った本人も、実は、自分の感情がはっきりわかっていないこともあるのです。

「自信がなくなってしまったのですね」などと、相手の言葉を受けとめてから、「そのように思うきっかけは何だったのですか?」「今は、どうしたい気持ちですか?」などと問いかけて、相手の表現を促すとよいでしょう。

「そんなこと言わずに……」などと、相手の言葉をすぐに否定したり、「大丈夫ですよ」などと安易になぐさめたりして、会話を終わらせてしまうと、相手の感情は明確にならないまま、心の奥に残ってしまいます。

【内接的なかかわりに不可欠な質問】

話には、「話の内容」と「話に伴う感情」の2つの構成要素があります。相手の言葉を額面どおりに受け取って、話の内容に働きかけることを外接的なかかわりと言い、それに対して、その話に伴う感情への働きかけを内接的なかかわりと言います。

質問は、内接的にかかわるうえで欠かせないコミュニケーション技術です。援助職が質問することで、自分でもはっきりしていなかった気持ちが徐々に整理されて、相手は、自分の感情と向き合えるようになるのです。

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浮かない表情をして、「夜眠れない日が続いていて……」と話す相手に、「それなら、昼寝をしないほうがいいと思いますよ」などと助言をするのは、外接的なかかわりです。それに対して、内接的なかかわりでは、「それは、つらいですね」などと共感を示したり、「何か、ご心配なことがあるのですか?」などと、相手に表現を促す質問をしたりします。そのときの状況に応じて、適切なかかわり方を選びましょう。

【他職種や上司に相談するときの質問】

援助職は、対人援助の専門家であると同時に、組織で働く一員でもあります。援助の対象者と良好な関係を形成したり援助に必要な情報を共有したりするときだけでなく、組織のなかで上司や同僚、他職種と協働する際においても、コミュニケーションは欠かせません。

上司や先輩職員に助言を求めたり、他職種に相談したりする場面では、「どうしたらいいでしょうか?」と質問してしまいがちですが、これでは、相手は、問題を丸投げされたように感じるでしょう。ただ漠然と「どうしたらいいでしょうか?」と相談されても、相手も、「どうしたらいいと思う?」と質問で返したくなるのです。

あらかじめ自分の考えをまとめたうえで「私は○○と考えているのですが、アドバイスをいただけますか?」「このようにしたいと考えていますが、どう思いますか?」などと、相手が具体的に助言できるような質問を心がけましょう。


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