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がんのこと、家族や友達にどう話す? それとも話さない?

がん経験者100人のリアルな生活をまとめた書籍『がん経験者のリアルな生活 「恋愛・仕事・お金」の悩みと上手につきあうヒント』が翔泳社から発売中です。

本書の著者は、自身も25歳で胎児性がんに罹り、抗がん剤治療と手術を経て経過観察中である岸田徹さん。岸田さんがさまざまな人に実際の生活についてインタビューした動画を掲載しているYouTubeチャンネル「がんノート」での活動が、書籍のベースとなっています。

がんノート、そして本書の原点は、岸田さんががんになった当時、医療情報は医療者に尋ねればいいものの、患者がどのように日常生活を送ればいいのか、特に仕事やお金、恋愛、食事、メンタルなど治療以外の生活にまつわる情報があまり得られずに困っていたことにあります。

病院では治療に関することしか聞けなかった、いわゆるAYA世代(15歳~39歳)のがん経験者の情報が少なくて困っている、ほかの人の体験談を知りたいなど、生活を送るための情報が見つからなくて困っている方は、ぜひ本書を読んでみてください。いろんなテーマに関するがん経験者の声が掲載されているので、同じような状況の人がどうしたのか、ヒントをもらえるかもしれません。

この記事では、「第2章:家族・友達」から内容を一部抜粋して紹介します。がんのことを家族や友達に話したほうがいいのか迷っている方や、どのように伝えればいいのか分からないという方にとって、少しでも参考になれば幸いです。

◆著者について
岸田徹 (きしだ・とおる)

1987年生まれ、大阪府出身。立命館大学卒。NPO法人がんノート代表理事。
25歳で「胚細胞腫瘍(胎児性がん)」という希少がんの告知を受ける。それから約3か月の抗がん剤治療、2度の手術を受けて社会復帰するが、約2年後に再発し再手術を受ける。現在は経過観察中。自身の経験から、医療情報以外の「患者側の情報」も大切だと考え、がん経験者へインタビューを行い、それをYouTubeで生配信する番組『がんノート』を2014年から始動。配信はすでに300回を超え、世界最大級のがん経験者インタビューWEB番組となっている。現在は、国立がん研究センター広報企画室にも所属。また、厚生労働省がんとの共生のあり方に関する検討会の委員や昭和大学医学部客員講師、小・中・高校のがん教育外部講師など多方面で活躍している。


※抜粋内容は記事掲載のために編集しています。実際の誌面は下記画像をご確認ください。

がんのことは家族や友達に話した・話さなかった

「話す・話さない」には、絶対こうしないといけないということはないので、あまり気を張らずに考えてみてくださいね。なによりも「治療などがスムーズにすすむ・ストレスがない」ことが大事だと思います。「身近な信頼できる人」には話していても「それ以外の人に言うか」悩むという人もいます。ちなみに僕は「どちらか迷ったら言う」、そのほうがストレスがなかったですね。みんな急に優しくなってくれるので(笑)。

そのほかにも、「自分のなかでがんのことをきちんと整理できていないと、うまく伝えられない」という人も多いようです。だから焦らず、自分の環境が話すことによってよくなる(サポートなどをしてもらえる)のか、それともあまりよくならないのかを考えてからでもいいかもしれません。周りに話したくない人はそのまま話さなくても全然いいと思います。「周りに心配かけたくない」だったり「自分のことで精一杯」だったりすることもあると思いますので

がんのことを伝えたタイミング

これもよく悩む問題ですよね。ただ、伝えたいと思ったときで大丈夫

僕の場合、最初に伝えたのは会社の上司でした。そのときは仕事が第一だったので(笑)。友達には遊びの誘いの連絡がきたときに「ごめん! 行かれへんねん。がんなってもうて。治療終わったら行くからまたの機会に誘って!」と伝えていました。友達も驚いたと思いますが、なるべく深刻さを出さないようにしていましたね

最後に、家族には治療方針の説明を聞きに行くときに伝えました。医師から説明を聞いているときに、ふと横をみると親が「この世の終わり」みたいな顔をしていたので「大丈夫! 頑張るから!」って気丈に振る舞ってました。

もちろん僕もショックを受けましたが、周りの人のほうがショックを受けているということも。そう思うと、がんという言葉は周りもびっくりすると思うので、伝えるタイミングは「ある程度自分が落ち着いているとき」がよいかもしれないですね

がんのことを伝えるときに意識していること

僕は「見通し」も含めて伝えるようにしていました。いまどんな治療をしていて、これからどうなっていくのか。たとえば「いま首と胸とお腹のリンパ節にがんが転移してんねん。これから抗がん剤と手術をやる予定。ただ、こんな状況でも余命宣告されてへんし、治療成績も五分五分もあるらしいから大丈夫やで!」みたいな。

あと、僕の周りでも「この雑誌に載ってる治療をしたほうがいいよ」「この食品ががんに効くらしい」と親切心から言ってくれる人がいるのですが、まずは治療のガイドラインに従ってやっていくこと(標準治療)が大事。だから「治療は主治医と相談して進めているから大丈夫やで。心配してくれてありがとう」と伝えていました

そして、周りの人へ。「△△をしてたから、がんになったんちゃう?」とか絶対言わないよう注意してもらえると助かります。原因を追求するんじゃなくて、一緒に今後のことを考えてくれるほうが、がん経験者として嬉しいです!

子どもにがんのことは伝えた・伝えなかった

株式会社メディリードと一般社団法人キャンサーペアレンツが行なった調査によると、子どもにがんであることを伝えているのは73%、そのなかで子どもに「伝えて良かったと思う」は87%、「伝えて良かったのか悪かったのかまだ判断できない」が13%で、「伝えないほうが良かったと思う」と答えた人は0%でした。

※「がん患者のコミュニケーションに関する実態調査 レポート」(2016,一般社団法人キャ
ンサーペアレンツ・株式会社メディリード)

僕の周りには、子どもにがんのことを伝えていない人ももちろんいますが「言っていないけど、子どもは親ががんであることに気づいているかも……」と話す人もいます。案外、子どもは気づいているかもしれませんね。

ただ「子どもはまだ小さいから伝えないでおこう」という判断も全然アリです。また、子どもが小さくて、どうやって伝えるか悩んでいる方には、方法の1つとしてキャンサーペアレンツが出している『ママのバレッタ』という絵本があります。がんになった母と娘のやりとりが描かれた絵本ですので、これを活用して伝えている方もいますよ。

周りに辛さやしんどさが伝わりづらいことがある

「がんになったことがない人」が周りには多いと思うので、がん経験者の痛さや辛さ、しんどさについて想像がつかない人が多いです。何気に医療者も(笑)。なので、たとえば痛さを伝えて対応してもらうときは、単に「痛いです」と言うだけではなく具体的に伝えるとよいかも

医療現場では「いままで経験した1番強い痛みを10として、いまの痛みはどれくらいですか?」と聞くこともあるそうです。これを自分なりに活用して、たとえば「耐えられない激痛を10とすると、いまは8ぐらいです」と伝えてみたりするとよいかも。すると医療者もイメージしやすいと思います。僕の場合は「10、いや13です!」と勝手にオーバーさせているときもありました(汗)(よい子は真似しないでください)。

そのほかにも「手足のしびれ」を伝える場合「長時間正座をしたあとに足を崩したときの感じ」と例えながら話すと、がんになったことがない人でもイメージしやすかったりするかもしれないですね。

【インタビュー】がんになってからの"家族の関係性"

52歳のときに、スキルス胃がん(ステージⅣ)で腹膜播種・リンパ節転移あり、遠隔転移ありの手術不能、根治手術不適応と診断を受けた轟哲也さん(男性)。診断後の家族の様子などを、轟さん夫妻にお伺いしました!

岸田:スキルス胃がんだとわかって哲也さんから奥さんの浩美さんには検査後に連絡したとのことでしたが、息子さんや娘さんにはどう伝えたんですか?

浩美さん:息子には私から伝えました。診断を受けた日が息子の誕生日だったんですけど、もう頭のなかから飛んでしまって、とにかく息子に連絡しなきゃと思いました。社会人で、かつ1人暮らしをしていたこともあって、私のなかでは頼る人はこの人しかいないと。連絡をしたらすぐに飛んで来てくれました。息子はとにかく私に「大丈夫だよ」って泣きながらも声をかけてくれて。で、娘にはそのあと伝えました。「わかった」と一言だけ発したあとに、一粒涙を流している姿があって、それが1番キツかったですね。

岸田:娘さんとは会って?

浩美さん:はい。当時は大学生で、まだ一緒に暮らしていましたので……。

哲也さん:私は「余命数か月でいなくなる」っていう覚悟があったので、どうってこともなかったんですけど、娘の涙を見たときに「あ、この子のために生きなきゃな」って思いました。

岸田:そっか。じゃあ、子どもたちには素直に伝えて。そのあと旅行に行かれたんですよね?

浩美さん:そうですね。息子も1人暮らしをしていたので「家族4人でどこかに行く」っていうことが10年以上なかったんですね(哲也さん:なかったね)。それでまぁ、このときは「最後の旅行になるだろう」と思って、息子にも娘にも休みを取ってもらって行きました。

浩美さん:旅行では、息子と主人でダイビングもしたりしました。

岸田:マジっすか? え、胃がん大丈夫なんですか?

哲也さん:大丈夫(浩美さん:いや大丈夫も何も、やりたいことはやりましょうってことで)。

岸田:そっかそっか。

哲也さん:息子はつきあってくれたんでしょうね。私が「ダイビングしたい」って言ってたので。

岸田:素晴らしい本当に。じゃあいまも息子さん・娘さんが支えてくださっているっていう感じ?

浩美さん:そうですね。もちろん支えてもらってますけど、私たちが2人でできるうちは彼らの人生は邪魔しないというか。私たちの影響を与えたくないと思っているので、特に何か支えてもらわきゃいけない場面じゃないときは言ってないです。ただ、お医者さんの話を聞くとか、そういうときには息子を呼びます。娘はちょっとしたことで心配してくれるんですけど、いまはまだ自分の人生をちゃんと歩んで欲しいと思っているので。

岸田:なんかすごいですね。本当に、親心っていうか。やっぱ、娘と息子の将来を考えて(浩美さん:それはね!)。素晴らしい。ありがとうございます。

◆本書の目次
第1章:治療・副作用
第2章:家族・友達
第3章:仕事(就職・転職・復職・退職)
第4章:お金(保険・制度など)
第5章:恋愛・結婚
第6章:妊よう性(妊娠するための力)
第7章:容姿(アピアランス)
第8章:食事
第9章:メンタル(再発への不安など)
第10章:学生生活(学校)

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