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最初はうつ病と診断されることの多い双極性障害、病気の経過を振り返って医師に相談しよう

双極性障害がうつ状態から始まった場合、多くはうつ病と診断されます。躁状態が表れることでうつ病から双極性障害へと診断が変更されますが、平均して4年~10年かかることもあります。

適切な治療のためには正しい診断が不可欠ですが、当事者や周囲の人はどういったことに気をつければいいのでしょうか。

翔泳社から発売中の『これだけは知っておきたい双極性障害 躁・うつに早めに気づき再発を防ぐ! 第2版  ココロの健康シリーズ』から、双極性障害と診断について解説された「PART3 最初から双極性障害と診断されないことが多いものです」を紹介します。

◆監修者について
加藤忠史(かとう・ただふみ)

順天堂大学医学部精神医学講座 主任教授。医学博士、精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医。1963年、東京生まれ。東京大学医学部卒。滋賀医科大学精神医学講座助手、東京大学医学部附属病院講師を経て現職。国内外において双極性障害の研究を牽引している。非常勤等に、日本医療研究開発機構脳科学研究戦略推進プログラム・プログラムスーパーバイザー他。著書に『双極性障害 第3版―病態の理解から治療戦略まで』(医学書院)、『双極性障害 第2版―双極症Ⅰ型・Ⅱ型への対処と治療』(ちくま新書)など、双極性障害を中心にうつ病、脳科学に関するもの多数。

多くの場合、最初はうつ病と診断されます

双極性障害は、躁状態が表れるまではうつ病と診断されます。うつ病から双極性障害への診断の変更は、誤診というわけではありません。

躁状態が表れるまでは、うつ病と区別がつきません

双極性障害は躁状態から始まるか、うつ状態から始まるかは人によって異なりますが、最初にうつ状態から始まった場合は、うつ病と診断されます。

なぜなら、前述の通り、双極性障害はうつ状態と躁状態が表れる病気なので、躁状態がない以上、うつ病と診断することになるからです。

さらに躁状態から始まった場合でも、患者さんや家族が躁状態のことを知らず、病気と思っていない場合も少なくありません。

躁状態で病院を受診して診断がついていた場合でも、うつ状態になって受診したとき、以前の躁状態のことを医師に伝えない傾向があることも、この病気の診断を難しくしています。

正しい診断がつくまで、時間がかかります

あきらかな躁状態で受診したときには正しい診断がつきますが、そうではない限り、最初はうつ病と診断されることが多いものです。

実際、うつ病と診断されていた患者さんの10人に1、2人が最終的には双極性障害に診断がかわるといわれています。

正しい診断にいきつくまで、平均して4~10年ほどかかっているのが現状です。最初うつ病と診断されて、のちに病名がかわると、誤診されたと思われるかもしれません。しかし、双極性障害は、正しい診断がつくまで時間を要する病気なのです。

うつ病が治らない人は、双極性障害かもしれません

うつ病がなかなか治らない人は、双極性障害の可能性もあります。病気の経過を家族や周囲の人と振り返り、思いあたることがあれば医師に相談してください。

双極性障害に気づかずにうつ病の治療を受けていると、困った問題も

「双極性障害にはうつ状態があるから、うつ病と診断されても問題ないのでは?」と思う人も多いかもしれません。しかし、うつ病の治療薬は双極性障害のうつ状態には効果がないのです。

そればかりか、気分の状態が非常に不安定になって、ちょうど良い状態が続かなくなってしまう場合もあります。特に三環系抗うつ薬を使っていると、うつ状態から急激に躁状態が表れる「躁転」のリスクが増え、さらに、長く服用することで「急速交代型(ラピッドサイクラー)」を引き起こすことが知られています。

うつ病の治療をしてもなかなか良くならない人は、双極性障害を疑ってみるべきでしょう。以前に、例えばすごくがんばれた時期や、眠らなくても平気で元気いっぱいだった時期がなかったか、などを振り返ってみてください。

うつ状態のあとにいつもより調子が良くなったなどの経験があれば、「たいしたことではない」と思わず必ず医師に伝えてください。それが正しい診断につながります。また、下記の項目も双極性障害と考える1つの目安になるでしょう。

  • 20代のはじめまでにうつ病と診断された

  • 血縁者に双極性障害をもっている人がいる

  • 幻聴や妄想が出てきたことがある

思いあたる項目がある人は、うつ病と診断されていても双極性障害に移行する可能性があります。

双極性障害とうつ病とでは治療目標も内容も違います

双極性障害の本格的な治療は、躁・うつのエピソードがおさまったあとにスタートするといっても過言ではありません。

双極性障害は、再発を予防する維持療法が何より大事です

混同されやすい「うつ病」と「双極性障害」ですが、両者は治療目標が大きく違います。「うつ病」はうつ状態が良くなれば治療は終了します。

しかし、双極性障害は、その「躁状態」や「うつ状態」を抑えただけでは治療終了となりません。再発を予防し、安定した人生を送ることが最重要の目標なのです。このため、再発を予防するための維持療法を長期にわたって続けていく必要があります。

双極性障害とは長い付き合いになりますが、維持療法で病気を上手にコントロールできれば、この病気は克服したも同然です。病気に振り回されない人生を送り、日々を楽しみましょう。

また、前述のように、うつ病の治療に有効なのが抗うつ薬ですが、特に三環系抗うつ薬は双極性障害に用いると効果がないばかりか、症状が悪化することがあります。双極性障害の治療は、主に気分安定薬のリチウムを用います

双極性障害と一緒に起こりやすい病気

双極性障害と、依存症や摂食障害などほかの精神疾患を併発しているときは、治療を軌道に乗せるために少し手間取る場合もあります。

併発しやすい病気

ある病気が原因でほかの病気が起こる場合を「合併症」といいますが、2つの病気の診断基準を同時に満たすけれど両者の因果関係は、どちらが原因とは簡単にいえない場合「併発症」といいます。双極性障害と併発しやすい病気に下記のものがあります。

依存症

快感や高揚感を伴う特定の物質にはまってしまい、それなしではいっときも我慢できない状態が依存症です。代表的なものに、アルコール・薬物依存があります。病的賭博(ギャンブル依存)も類似のメカニズムによると考えられています。

摂食障害

極端に食事を制限する、あるいはまったく食べない「拒食」と、イライラして一度に大量の食べ物を食べてその後吐いたりしてしまう「過食」があります。それぞれが単独で出ることもありますが、拒食と過食が一緒に出る場合もあります。

パニック障害

突然激しい不安感や恐怖に襲われ、動悸がしたり、息苦しくなって「死ぬのではないか」という強い恐怖を感じます。内科で病気の検査をしても、なんの異常も見つかりません。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)

災害や事故、性暴力、虐待など、過酷な体験のあとに表れるさまざまな精神的・身体的症状をいいます。

双極性障害を専門に診るのは、精神科です

双極性障害を疑って受診を考えたときに、精神科にかかることにためらいを感じる人も多いかもしれません。しかし、双極性障害を専門にしているのは精神科です。

受診する医療機関の医師が精神科の専門医かどうか知りたいときは……

日本精神神経学会、専門医・指導医名簿のサイトで調べることができます。日本精神神経学会の専門医であれば、経験のある精神科医と考えて間違いないでしょう。医師の名前でも検索できます。

双極性障害に詳しい専門医を探すときは……

日本うつ病学会「双極性障害委員会」のサイトで探すことができます。双極性障害委員会のメンバーおよびフェローのリストを見ることができるほか、双極性障害の情報も掲載されています。

適した治療を受けるためには、精神科の医療機関を受診しましょう

双極性障害をはじめとして、うつ病や統合失調症、薬物・アルコール依存症などの精神疾患を専門に診るのが精神科です。

精神科の医療機関は、ほかに「メンタルクリニック」「神経科」「精神神経科」などと書かれている場合もあります。「心療内科」と書かれている場合は、内科なのか、精神科なのか、よく見極める必要があります。心療内科は内科の一部門です。ストレスで生じた内科の病気に対して、心身の両面から診ていく診療科なので、双極性障害は専門外です。

ただし、「精神科」と看板を出すと敷居が高いと感じる患者さんも多いため、精神科医が開業しているクリニックでも「心療内科」を標榜する場合が少なくありません。

専門医かどうかを要チェック

反対に、「メンタルクリニック」や「精神科」と標榜していても、十分な経験のある精神科医がいないクリニックもあります。

受診しようと思っている医療機関の医師が精神科の専門医かどうか知りたい場合は、受診機関のホームページで確認するか、上記のサイトを参考にしてみると良いでしょう。また、地域の精神保健福祉相談などを利用するのも1つの方法です。

「PART2 本人は「うつ」がつらく、 家族は「躁」がつらいのです」を紹介した記事も公開中

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