高齢社会の課題はビジネスになる? 「困った」を減らす持続的なビジネスの作り方
人口減少に超高齢化、さらに出生数の減少のニュースまで相まって、日本の将来はどうなるのかとどんよりした空気が漂ってきます。それに伴って様々な社会課題も表面化しており、解決していかなければならないという意識が広く共有され始めています。
では、高齢社会に生じた課題はどのように解決していくべきなのでしょうか。国家や自治体が主導して福祉や社会保障を充実させるほかに、NPOや有志団体などが非営利に取り組む方向性があります。
これまで日本では社会課題に対して自治体やNPOが中心的な役割を担ってきましたが、一方で、ビジネスによって社会課題を解決する機運が高まっています。
誰かの困っていることや苦労していることを見つけ出し、優れたサービスを提供することで解消していくのはビジネスが最も得意とするところ。ソーシャルグッドや「社会のために何をすべきか」といった考え方も普及しつつあり、多くの企業が社会課題をテーマに参入し取り組みを進めています。
社会課題は一時的に解決しても焼け石に水。いかに継続性をもって取り組んでいくかが真の解決への鍵です。持続性を考えれば、ビジネスとして取り組んで収益を得ることは非常に重要です。
ただ、実際に取り組むのは難しそうに感じます。そこで参考にしていただきたいのが、翔泳社の『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』です。
翔泳社の通販サイトSEshopではPDF版も販売しています。
本書は西武百貨店やパルコを経て現在は電通にてシニア・マーケットのビジネス開発を手がける斉藤徹さんが、ビジネス視点で高齢社会における持続的な対策について解説した本です。
シニア向けのビジネスに難しいイメージを持っている方は少なくありません。本書でも先駆的な課題解決ビジネスの失敗事例が紹介されています。ただ、その詳細な分析もなされており、役に立つ知見が盛り込まれています。補助金や介護保険制度に頼りすぎると失敗しがちだという言葉にははっとさせられる方もいるのではないでしょうか。
もちろん、ビジネスの作り方や成功事例もたくさん挙げられているので、アイデアを持っている方はどのように実現・具体化していけばいいのか参考になると思います。
本書は6つの観点から高齢化・高齢社会化に伴う変化が取り上げられています。その変化こそがビジネスに繋がる種となるわけです。体の変化、介護の変化、生活の変化、地域の変化、余暇の変化、仕事の変化。これからどんどん高齢者が増えていくと考えれば、そこにはビジネスチャンスがあるという見方もできるのではないでしょうか。
さて、ここまで『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』を紹介してきましたが、今回は皆さんに本書のエッセンスを感じていただきたく、「序章 高齢社会の課題はビジネスになるか?」の全文を公開します。
斉藤さんの想いが詰まったこの序章。斉藤さんの語り口や成功事例はとても明るくポジティブで、わくわくさせられます。ぜひ一読ください。
以下、『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)から「序章 高齢社会の課題はビジネスになるか?」を抜粋します。掲載にあたって一部を編集しています。
なぜ、高齢社会は課題が山積みなのか?
【「人生100年時代」の実像】
日本では今、未曾有の高齢化が進行しています。人々は自らの人生の先行きに大きな不安を抱いています。最近、よく耳にする「人生100年時代」という言葉に対して抱く思いも複雑なものではないでしょうか。
戦後70余年を経て、日本は世界に冠たる長寿大国になりました。平均寿命は、男女ともに戦後間もない頃から30年以上も伸びて世界トップクラス。本来、これは喜ぶべきことですが、現在の日本は手放しで喜べる状況にはありません。高齢化、長寿化にともなうさまざまな社会課題が浮上しているからです。
日本の人口は2004年をピークに、その後は減少局面に入っています。2018年現在で1億2422万人の人口は、約30年後には1億人を切り、2060年には9284万人になると予想されています(国立社会保障・人口問題研究所推計)。これは、毎年平均70万人減り続けるということを意味します。
人口減少の一方、高齢化率(65歳以上の人口比率)はさらに上昇します。2018年時点の高齢化率はすでに28%を超えていますが、2030年には31.2%、2060年には38.1%となります。
【「高齢化」で増加する不安要因】
脳卒中、心臓疾患、悪性腫瘍、関節疾患……年齢を重ねると否応なしに高年齢由来の疾病罹患率が上昇します。後期高齢期(75歳以上)に入れば要介護状態となる可能性も高まり、これらは社会保障費用の増大に直結します。財源不足が懸念される中、適切な医療や介護サービスの持続的な供給は可能でしょうか。
すでに表面化しつつある認知症への対策も喫緊の課題です。現在、約500万人と推計される認知症患者は、2030年には800万人、2050年には最大1000万人を超えるともいわれています(「平成29年 高齢社会白書」内閣府)。認知症を原因とする行方不明者の増加、道路逆走による事故の多発なども社会問題化しています。
また、今後は単身高齢者の増加も確実で、彼らが地域コミュニティ内で孤独・孤立を深める可能性も懸念されます。社会的な絆(地域コミュニティ・ネットワーク)を再び築いて、自立しながら尊厳のある生活を可能にするためにも、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の再構築は重大なテーマです。
買い物難民の支援も同じく大切なテーマです。近隣に食料品店がなく、生鮮食品などの食料の入手が困難になる「フードデザート問題」について、全国の約6割の市町村が「何らかの対策が必要」と考えています(『「食料品アクセス」に関する全国市町村アンケート調査結果』農林水産省)。この問題は過疎地域や限界集落に限らず、経営に行き詰まったスーパーの撤退、地域を支えていた小規模ストアの廃業などにより、都市部でも表面化しています。
この他にも、振り込め詐欺などの特殊詐欺、ゴミ屋敷問題、死者増加による空き家問題、高齢者による自動車事故、高齢期の貧困問題……など、高齢化にともなう課題は枚挙にいとまがありません。日本の高齢社会課題は山積状態なのです。
【課題解決にいかに取り組むか】
こうしたさまざまな社会課題に、いかに立ち向かうか。しかも、それを「ビジネス視点」で考えようとするのが本書のテーマです。とはいっても、すべてを「利益の出るビジネス」として考えるのはそう容易ではありません。場合によっては、行政・自治体との連携、地域住民やNPOとの連携により課題解決に立ち向かう必要もあるでしょう。いずれにしても、多様な視点で課題解決に向かおうとするのが本書のスタンスです。持続可能な課題解決を実現するためには、何が必要なのかを考えていかねばなりません。
次章以降で紹介するさまざまな課題解決のケーススタディを通じて、ビジネス視点に立った新しい解決の方策を考えていきたいと思います。
新しいビジネスチャンスとしての「高齢社会」
【高齢社会の課題には総掛かりで立ち向かう】
政府の政策でも、高齢化にともなう社会課題の解決に向けた取り組みに着手しています。例えば「政府基本方針」(平成30年)でも、「少子高齢化に真正面から立ち向かい、誰にでも、何度でもチャンスがあり、多様性に満ちあふれた、女性活躍、1億総活躍の社会を創り上げる」との方針決定がなされています。
しかし残念ながら、政府や官公庁で立案された政策がすぐに効果を発揮すると考える人は少ないでしょう。高齢化にともなう社会課題は極めて根深く、多岐にわたります。解決への道は遠く厳しいというのが現実です。社会課題に立ち向かうためには、「誰が」というより、官民一体で知恵を絞り出す必要があります。いわば、国民一人一人が自分ごととして、総掛かりで取り組むべきテーマなのです。
課題解決に向けて必要なのは、多くの人々の知恵やアイデアによる解決手段の立案・実行です。多くのステークホルダーがアイデアを実践につなげ、トライ・アンド・エラーを重ねていく。これにより、初めて実践的な課題解決プランが実現します。
【新しいビジネスチャンスと考えてみる】
今まで、高齢化にともなう課題解決を担ってきたのは、国や自治体などの行政機関に加えて、社会福祉協議会、社会福祉法人、NPO、ボランティアなどの中間組織が中心でした。しかし現在では、積極的に社会課題解決に向けてチャレンジしようとする民間企業やベンチャー企業も増えています。もちろん、行政による支援は重要ですが、その財源は主に税や社会保障であり、それにはおのずと限界があります。むしろ、社会課題をビジネスチャンスと捉え、このジャンルに積極的に参入していく企業のイノベーション・マインドが期待されます。
企業の参入動機は多種多様です。個人的な動機や思い入れから取り組み始めた事業もあれば、純粋にビジネスチャンスと捉えて挑戦しているケースもあります。また、近年はSDGs(持続可能な開発目標/後述)を導入しようとする企業が増えており、そうした視点から事業に取り組む動きも増えていくでしょう。
動機はともあれ、社会課題の解決には新しい知恵や工夫が必要です。本書では、高齢社会に立ちはだかる大きな壁に果敢にチャレンジする人々や企業の姿をリサーチし、課題解決のアイデアを考えるヒントを提供したいと考えています。このようなイノベーション・マインドを持つ人々の輪を広げることで、迫り来る高齢社会の課題解決に立ち向かう機運を高めたいというのが、本書の執筆動機です。
本書の構成と使い方
本書では、“高齢社会における新ビジネスやイノベーション”を通じて“社会課題の解決”を考えていきます。第1章では、高齢社会の課題の概要、ビジネスによって課題解決に取り組む意義、高齢社会の課題解決ビジネスを構想する上での注意点や失敗させないためのポイント、事業の広げ方などを解説します。
第2章以降は、大きく以下の6つのテーマ・ジャンルに分けています。
1 「体の変化」に対応するビジネス(第2章)
2 多様化する「介護周辺ビジネス」(第3章)
3 「日常の困りごと」を助けるビジネス(第4章)
4 「地域コミュニティ」を活性化するビジネス(第5章)
5 「学び」と「エンターテイメント」のビジネス(第6章)
6 長寿社会の「働き方」をサポートするビジネス(第7章)
それぞれ、どのような課題がいかにして発生しているのか、そうした課題をビジネス視点で捉えるヒントをまとめた上で、筆者が興味を惹かれ取材したさまざな企業の取り組みをケーススタディとして紹介していきます。
紹介する事業のいくつかは、「社会的事業(ソーシャルビジネス)」や「コミュニティ・ビジネス」の領域に近似しますが、必ずしもそこに限定するものではありません。事業拡大志向を持ったビジネスも多数取り上げています。
ソーシャルビジネスとは、「(環境保護、高齢者障害者の介護・福祉から、子育て支援、ちづくり、観光など)地域社会の解決に向けて、住民、NPO、企業など、さまざまな主体が協力しながらビジネスの手法を活用して取り組むもの」(経済産業省による定義)ですが、本書で語るビジネスは、主に「高齢化にともなう社会課題」を取り上げています。
上記1〜6のテーマに加えて、IoTや人工知能(AI)、ロボットといった情報技術・テクノロジー分野は、高齢社会の課題解決を考える上で重要なポイントです。第3次安倍内閣による成長戦略「未来投資戦略2018」でも、IoT・ロボット・AI等の著しい進歩を第4次産業革命と捉え、経済社会に活用する視点が打ち出されています。これらの技術を活用し、健康管理、病気・介護予防、自立支援に軸足を置いた、新しい健康・医療・介護システムを構築し、健康寿命をさらに延伸し、世界に先駆けて生涯現役社会を実現させる目標が掲げられています。
現状生じているさまざまな社会課題を解決につなげるためには、個々の事業モデルの構築だけでなく、社会システムの改良につなげるためのさまざまな法律、諸制度の改正、制度上のバックアップも欠かせません。ミクロとマクロの両面からのアプローチが、高齢社会の課題解決には重要です。特に章を設けてはいませんが、そうした指摘も本文の要所要所で行うように心がけました。
【本書の使い方】
興味のままに読んでいただければと思いますが、「高齢社会において、現在そしてこれからどのような問題が起きるのか?」といった概要を押さえておきたい場合は、第1章を読んだ上で第2~7章の関心のあるテーマに進むと、わかりやすいと思います。
高齢社会課題についての基礎知識があり、取り組みたいテーマが決まっている、具体的なビジネスのヒントを先に知りたいという場合は、第2章以降のどの章、どの事例から読んでいただいてもかまいません。
なお、ケーススタディは、おおむね以下のような流れで構成しています。
◆どんなビジネス?
取り上げる商品・サービスの内容をコンパクトに紹介。先にこの部分に目を通し、気になったらさらに読み進めてみましょう。
◆発想のきっかけ
商品やサービスを思いついたきっかけや、着想をいかに具体化していったのかを解説。イノベーションを起こす人々の視点は参考になります。
◆どこが新しい?
既存のものとどう違うのか? その商品・サービスのオリジナリティについて解説します。
◆ブレイクスルーのポイント
新規ビジネスの立ち上げ、拡大、継続の難しさを、どのように乗り越えているのかを紹介します。
◆ビジネスのヒント
ケーススタディから得られるビジネスのヒントをまとめます。業界や職種が違っても、応用できるはずです。
ケーススタディとして紹介する各種課題解決への取り組みは、ある意味で先例のない困難事例への挑戦でもあります。本書を通じて、彼らの果敢なチャレンジを少しでも感じ取っていただければ幸いです。
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