起立性調節障害(OD)とは? 朝起きられない子との接し方
「子どもが朝起きられない」と聞くと、怠けているのではと思いがちです。ですが、思春期に発症しやすいからだの病気である起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation、OD)の可能性もあります。
中学生の10%がODといわれており、頭痛やめまい、腹痛や吐き気といった症状が午前中に強くあらわれるのが特徴です。午後になると元気になることが多いため、誤解されやすい病気でもあります。
自分の子どもが朝起きたくないのか、それとも起きられないのか。実際に起立性調節障害だった場合、どのように接し、何に気をつければいいのか。そもそも病院に行くタイミングをどう判断すればいいのか。
聞き慣れない病気のため、保護者の方は戸惑うことが多いのではないでしょうか。そんなときに参考にしていただきたいのが、翔泳社から7月5日(水)に発売予定の『起立性調節障害お悩み解消BOOK 「朝起きられない」子に親ができること!』です。
著者の吉田誠司さんは大阪医科薬科大学病院の小児科で心身症外来を担当されています。2014年に起立性調節障害に関する研究で医学博士号を取得し、日本自律神経学会評議員や日本小児心身医学会理事(ガイドライン統括委員会委員長)もされている、まさに起立性調節障害の専門家です。
本書では起立性調節障害について詳しく説明するのはもちろん、「治療」「家」「学校」というテーマに沿った悩みを解決できるよう、丁寧に解説しています。子どもにどのようなことができるのか、どう接すればいいのか、学校で理解やサポートを得るにはどうすればいいのかなど、保護者の方が安心して取り組める内容となっています。
今回は発売前にぜひ本書を知っていただきたく、内容の一部を抜粋して紹介します。起立性調節障害をもっと詳しく知りたくなったら、本書をAmazon等で予約していただければ幸いです。
起立性調節障害(OD)とは
起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:以降OD)とは、思春期に発症しやすい、からだの病気の1つです。主な症状に、
頭痛
立ちくらみ
めまい
失神
動悸
倦怠感
朝起きられない
夜眠れない
腹痛
吐き気
食欲不振
などがあります。
これらの症状は、午前中に強くあらわれます。そのため、学校の遅刻や欠席につながりやすく、思春期の子どもたちの社会生活に大きな影響があります。
ODの発症時期に特徴はあるの?
1年のなかに「しんどくなりやすい時期」というものがあります。ODについては、特に梅雨から夏にかけて発症する人が多く、低気圧や暑さが関係しているようです。また、五月病から連続してODを発症してしまうということもあります。そのほかにも、
思春期特有の自律神経バランスの乱れ
部活動などによるからだへのストレス
人間関係などによる精神的ストレス
外出機会の減少などによる運動不足
水分不足
などが原因で、しんどくなってしまう(ODを発症してしまう)子もいます。
発症しやすい子の特徴
性格が直接ODの原因となるわけではありませんが、発症しやすい子の特徴については、いくつかの文献で触れられています。たとえば「過剰適応な子」(日本小児心身医学会ODワーキンググループ,2023)や「成績優秀な子」(Kizilbash,2013)といわれています。
真面目で我慢強いことはよいことですが、このような性格の子は「気持ちを溜め込みやすい」ともいえます。何かを我慢したり、溜め込んだりすることは、ODの要因の1つでもある「精神的なストレス」にも影響してくるでしょう。
子どもがODかも……と思ったら
症状や発症時期などから「もしかしたら私の子どもはODかも?」と思った方がいらっしゃるかもしれません。そういった場合は、この本だけでなんとか対処しようとするのではなく、病院できちんと診察を受けるようにしましょう。
「病院に行きたくない!」といった子への対応方法も掲載しておりますので、よければ参考にしてみてください。
ODの子はどのぐらいいる?
「ODって初めて聞いたけど、実際どのぐらい患者さんがいるの?」と思う方もいらっしゃると思います。ODの子(軽症を含む)は、中学生だと全体の約10%を占めているといわれています。中学生の人数を320万人と仮定すると、32万人いるということになります。ODの発症は中学生だけではなく高校生以上でもあるので、それ以上の数のODの子がいると思います。
「でも周りにODの子はいない……」と思われるのも不思議ではありません。なぜなら「朝が弱い子」と思われていたり、強い症状があっても本人や周りの人がODであることに気づいていなかったりするからです。
不登校の主な原因でもある
不登校の30~40%はODが原因であるといわれています。いま、中学生の4%が不登校状態(文部科学省,2021)なので、その30~40%(中学生全体の1.2 ~ 1.6%)の子がODによる不登校と考えられます。
なかなか理解してもらえない
不登校の原因としてODは多いですが、割合でいうと1学年に数人程度です。そのため、どうしてもクラスメイトや先生にODのつらさを理解してもらいにくく、ODの子は孤立しがちです。学校に居場所がつくれず、体調がよくなってきたとしても学校に復帰することを躊躇してしまうこともあるでしょう。周りの人がODを理解して接することは、何よりも大切なことです。
そのため、本書ではODの子とその家族だけではなく、周りの人(学校の先生や友だちなど)にどう理解・協力してもらうかも紹介していきますので、是非参考にしてみてください。
起きたくない? 起きられない?
「朝起きて立とうとすると、頭痛やめまいがして起き上がれず、みんなと同じように学校に行けない……」という子に対して、周囲の人が「この子はODかもしれない」と気づいてあげることはとても大切です。
病院でODと診断を受けるまでのあいだ「どうして私だけこんな症状があるのだろう」「治らない大変な病気になってしまったのではないだろうか」と悩んでしまう子が多いです。
また、ODだと気がついていない親や学校の先生に「怠けているだけでしょ!しっかり頑張りなさい」といわれることもあります。そうすると、子どもは孤立してしまったり、頑張れない自分を責めてしまったりします。
誤解されやすい理由
ODなのに怠けている、と誤解されてしまう理由に、次のような症状(特徴)があります。
いつの間にか元気に
朝起きるのがしんどくても、午後になり症状が落ち着いたら、朝の様子が嘘のように元気になってしまう。用事がある日は朝から元気
テンションが上がる楽しいことがある日(修学旅行や遊びの約束があるときなど)なら、朝から元気に過ごせる。
また、ODの子は自律神経の乱れにより、夜眠れなくなってしまうことがあります。そのため、「夜更かししているから、朝起きられないんだ」と、誤解されることもあります。もし、こういった症状で日常生活に支障がでていたらODを疑い、病院を受診するようにしましょう。
ODの可能性があるかチェックしてみよう
ODが疑われるサインに、次の11項目があります。3項目以上満たすとODの可能性があります。
立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
立っていると気持ちが悪くなる、ひどくなると倒れる
入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
少し動くと動悸あるいは息切れがする
朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
顔色が青白い
食欲不振(※1)
臍疝痛(※2)をときどき訴える
倦怠あるいは疲れやすい
頭痛
乗り物に酔いやすい
子どもが病院に行くのを嫌がるときは?
子どもが病院に行くのを嫌がる理由はさまざまです。その理由が病気や病院に対する誤解かもしれませんので「どうして病院に行きたくないのか」について聞いてみましょう。
そのほかにも、子どもが病院に行くのを嫌がる理由として「病院が怖い」「全然知らない人に、困っていることを話したくない」「どうせ治らないから行きたくない」など、さまざまなものが考えられます。まずは、きちんと理由を聞いて病院に行けるように話し合うことが大切です。
どうしても嫌がるときは、からだの状態をよくしたいとは思えない状況にあるのかもしれません。
「ODを治したくない」と思う子も
「学校に行きたくない」「症状はつらいけど、この病気のおかげで学校に行かずにすむ」という疾病利得の面から病院を嫌がる子もいます。
こういった状態の子からODをとってしまう(治す)ことは、子どもにとってメリットは少なく「ODによるからだの症状がなくなったら、次は新たに過敏性腸症候群による腹痛などの症状があらわれる」ということも起こりえます。このような場合、まずはODの治療ではなく「ODを治したくない」という気持ちにさせている原因・問題を解決しましょう。
OD以外にも悩みがあるのかも?
私たち医師も、ODを治す過程で学校や家庭の環境調整はとても重要だと考えています。学校での悩みに多い「勉強」や「いじめ」などの問題にも耳を傾け、もしそういった問題を抱えているのであれば、解決に向けた作戦を一緒に考えましょう。
たとえば「いじめ」があれば、その問題に対して中立的な立場である担任の先生(周りの大人)などが、どこまで動いているかを確認します。担任の先生にはいえないでいることも子どもにはあるでしょう。子どもから気持ちや希望などを聞いて、親が子どもの代わりに担任の先生に伝えることも大切です。
「○○をしたい」気持ちを大切に
子どもが元気になって今を楽しみたいと思うようになれば、ODの治療効果もあがる印象があります。
「学校の昼休みに○○くんと遊びたいな」「○○のイベントに行きたい」といった気持ちになったときに、子どもは「病院に行こうかな」と思えるのかもしれません。
学校のこと以外でも、子どもが「したい!」と思うことがあれば、その気持ちをまずは大切にしてあげましょう。
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