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本作りは半径5mマーケティングで! 超個人的な体験から考えた「杖」の本

こんにちは、編集部のタケダです。

リモートワークに移行して半年ほどたちましたが、谷間の時期なのか、自宅で仕事をすることに飽きてきました。初心を思い出すべく、社歴の浅いころに作った本の話をさせていただければと思います。

苦肉の策で生まれた企画立案方法

書籍企画の立て方には編集者それぞれのスタイルがありますが、私の場合は、新卒で入社した最初の出版社の影響があるような気がしています。

そこはいわゆる零細出版社で、たくさんイラストを入れたり、多色刷りにしたりといったコストのかかる本が作れない環境でした。ビジュアルで勝負できないので、テーマや切り口などが新しくないと企画が通りません。

すでに他社から出ているような本の企画は出すな」と言われ続けた新人時代。その中で私が身につけたのが「半径5mマーケティングにもとづく本作り」でした。超個人的な体験を起点に企画を立てるという方法です。

新聞やテレビなど他メディア経由で見つけたネタは、すでに関連書籍が出ている場合が多く、資金力のない出版社が後追いするのは難しい。でも、私が「日常生活の中で気になったこと」をもとにしたテーマなら、まだあまり目を付けられておらず、関連書籍も存在しない可能性が高かったからです(思いついても本のネタにならないことのほうが多いですが…)。

杖を使っている人が増えた?

翔泳社に入って福祉系の本を作るようになり、街を歩く高齢者を意識的に観察するようになりました。そして2017年のある日、なんとなく「杖を使って歩く人」が以前よりも増えたような気がしました。

「気になったら、軽く掘ってみる」が習性なので、試しに数えてみます。すると、通勤途中や昼休憩の外出時に通りすがりに見かけただけでも、けっこうな人数になりました。

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さらに観察していると、「杖の握り方が人によって違う」「杖を使っているのに不安定そうに見える人がいる」ことが気になり、次のような疑問が出てきました。

●どのように杖を入手するのか?(自分で買う? 家族から持たされる?)
●杖の正しい選び方・使い方とは?
●みんな正しい使い方を知っているのか?(杖を買う時に教えてもらったりするのか?)

とりあえず、「杖 使い方」で検索してみると、整形外科のドクターによる「杖使用者の7割くらいが使い方を間違えている気がする」という記述を発見。これだけでは何の裏付けにもなりませんが、なんとなく「杖の本」の可能性を感じ、リサーチを続けました。

ほぼ勢いのみで企画ができた

「まだ類書はなさそう」→ライバルがいないのはビジネスチャンスですが、そもそもニーズがないから誰もやっていないという可能性も。

「杖に関する調査データがほとんどない」→年間何万本売れているとか、何万人使っているといったことがイマイチわからないので市場規模が不明。

「これならいける」という決定打はないものの、企画を否定するようなデータもない。すでに4月下旬でしたが、ひとまず9月刊行を目標に企画を立ててみました。

9月にしたのは、気候が落ち着いて人々が出歩くようになる秋の直前がいいと考えたからです。刊行まで5か月を切ってからのスタートは、余裕のある日程とは言えませんが、例えば翌年の春先などに延ばすと、自分の勢いが半減してしまうような気もしました。

時間がないので、著者候補は「専門知識がある人」に加えて「文章を書くことに慣れている人」をポイントに探しました。専門職の方のブログなどを色々と読み漁り、最終的に「杖の使い方」について言及されていた理学療法士の西野英行さんに執筆をお願いしました。

しかし、著者さんと打ち合わせを始めて早々に、「どうも『杖』だけでは本1冊分のネタがなさそうだ」と判明。高齢者向けの筋トレや歩行姿勢に関する内容を加えて「歩き方&杖」の本に軌道修正することになりました。

類書がない本を作る面白さと不安

それっぽい企画書ができちゃったけど、こんな思い込みにもとづく企画で通るのか? 内心おびえながら会議に出してみると、まさかの承認。翔泳社、懐が深いです。

その後、『100歳まで元気でいるための歩き方&杖の使い方』というタイトルで無事に刊行され、Amazonで好意的なレビューがつくなど好調なスタートを切ることができました。類書のない本を作るのは、面白さもありますが、不安と隣り合わせの作業でもあります。

見本となるものがないので、本の構成から文章量、文字の色やサイズ、図表の入れ方まで、「本当にこれがベストかな?」とドキドキしながら決めています。だから、「こんな本が欲しかった」という読者の声は、とても励みになります。

今まさに、締め切りに追われて半泣きの私ですが、日常でふと気になったことが本という形になる感動を思い出しながら、なんとか乗り切りたいと思います。

高齢者は「転ばない(転ばせない)こと」が大事

ちなみに、高齢者が骨折する原因の4分の1は「自宅での転倒」だそうです。高齢の方の骨折は若者の骨折とはわけが違い、リハビリがスムーズにいかないと、「寝たきり」さらには「要介護」「認知症」などにつながるリスクも高くなります。 

つまり、要介護状態にならないためには、「転ばないこと」(家族の立場から言うと「転ばせないこと」)が大事と言えます。『100歳まで元気でいるための歩き方&杖の使い方』では、

●自分の転倒リスクを見極める方法(例:何もない場所でつまずく、歩幅が狭い、腰や膝が痛い、歩くときにお尻が大きく揺れるなど)
●転びにくい体づくり(高齢者でも無理なくできる筋トレやストレッチ)
●杖の選び方・使い方

などを紹介していますので、興味のある方はぜひご一読ください。


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