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新人編集者が手話で注文するスタバで気づいた会話のきほん

はじめまして。2021年に翔泳社に新卒入社した松本です。1年間の研修(長かった......)を経て、この4月に福祉の本編集部に配属となりました。これからよろしくお願いします!
 
サイニングストアってご存じですか?
定番メニューから限定フレーバーまで、幅広い世代から支持を得るスターバックスコーヒー。

友だちとおしゃべりしたり、ちょっとした作業をするにも便利なため、私も学生時代から足繫く通っております。

そんなスターバックスコーヒーですが、日本に1店舗だけサイニングストアがあることはご存じでしょうか。「サイニング」とは手話のこと。聴覚に障がいのあるパートナー(店舗スタッフ)が勤める、手話を共通言語とする店舗です。

はじめてのコラムということで、どんなテーマにしようか悩みましたが、今回はこの国内唯一のサイニングストア「スターバックスコーヒー nonowa国立店」について書きたいと思います。

さまざまな人にやさしい工夫


編集者の休日らしく読書でもしようかと、たまたま入店した私。どれを飲もうかなーとのんびり考えていたところ、レジの順番が進むにつれて、普段行くスタバとは様子が異なることに気が付きました。

お客さんが言葉ではなく、ジェスチャーで注文している? そういえば、カウンター内での店員さん同士の掛け合いも聞こえない……。

前の人の様子をジロジロ見るわけにもいかず、要領を得ないまま私の順番がきてしまいました。 

カウンターにつくと、店員さんが笑顔で、両手の人差し指を曲げる仕草をしてくれました。後から知りましたが、それは「こんにちは」の手話。そして店員さんが差し出したのは、店内 or お持ち帰り、サイズ、ホット or アイスなど、注文に必要な情報が指さしで伝えられるメニュー表でした。

状況を理解しつつも戸惑ってしまった私は、とっさに一番上のドリップコーヒーを指さして注文を終えました(本当はスターバックスラテを飲もうと思っていましたが)。

ドリンクを受け取って席につき、気持ちを落ち着かせたところでこの店舗について調べてみました。読書どころではありません。

nonowa国立店は、聴者と、聴覚に障がいのあるパートナーが共に働き、共通のコミュニケーション手段を手話とするサイニングストア。つまりこの店舗では聴者がマイノリティとなります。聴覚に障がいのあるパートナーは他の店舗にもいらっしゃいますが、手話を共通言語とするサイニングストアは国内初で、世界ではマレーシア、アメリカ、中国などにも店舗があるそうです。

お店の作りは他のスタバとほとんど変わらないので、入店時に一見して特別なお店だとはわかりませんでした。ただ席に座って店内をよく見ると、あいさつの手話が学べるボードが置いてあったり、注文番号が映し出される電光掲示板が設置されていたりなど、この店舗ならではの工夫がたくさんありました。

レジの様子を眺めていると、手話で注文する人、スマホの画面を見せる人、筆談用のボードでやりとりする人など、人によって注文方法はさまざま。聴者のパートナーが対応する場合は口頭で注文できるので、バリエーション豊富なお店だなぁと驚きました。

また先ほど注文で使った指さしのメニュー表は、聴覚に障がいがあるお客さんだけでなく、日本語を話せない方、人と話すのが苦手な方、吃音や対人恐怖症により注文しづらいと感じる方にとっても、使いやすいしくみだと思います。感染症対策としての飛沫防止にもなりますし、色々な人に親切なお店だと感じました。

そしてこのお店にはどことなく心地いい静けさがあります。手話で会話されているお客さんがいますし、大きい声で話す人も少ない気がします。利用者全員で、お店の雰囲気を守っているのかな、なんて勝手に想像しました。

カウンターを眺めると、店員さん同士が手話で会話をしている様子が伺えます。内容はわかりませんが、お話が盛り上がっているようです。表現が適切かわかりませんが「私もやってみたい......」と思いはじめました。

そこで後日改めて来店し、聴者の店員さんに声をかけ、「手話で注文をしたいので教えてくれませんか」とお願いしてみました(今思えば唐突すぎて怪しかったかも)。

私でも伝わる......? 実際に手話で注文してみた


店員さんから教わったのは「スターバックスラテ」「トールサイズ」「ホット」「店内で」の手話。お客さんに手話を聞かれるのはよくあることらしく、不審者にならなかったことに安心しました。

一つの言葉に対して手話が一つとは限らないそうで、例えば「スターバックス」だけでも3種類の手話があるのだと教えてくれました。「ラテ」は親指と人差し指で英語の「L」を示すだけ。「ホット」は両手をおなかのあたりでパタパタさせる。面白い......!

教えてもらった手話を忘れないうちに注文をしようとレジへ。「こんにちは」から始めて「スターバックスラテのトールサイズをホットで、店内でお願いします」と注文しました。店員さんは手話で復唱してくれます。

無事にドリンクを受け取った私は、自分の拙い手話でも伝わるんだ......と驚きつつ、知らない世界に入った気がしてしばらくどきどきしていました。

手話を使ってみて思い出した会話のきほん


1回目の注文では緊張していて気が付きませんでしたが、2回目の注文では店員さんがマスク越しでも分かるくらいの笑顔で、頷きながら対応してくださっているのがよくわかりました。手話を使う方はアイコンタクトや口の動きなども参考にしてコミュニケーションをとるので、表情が豊かな人が多いそうです。

私がなぜ店員さんの表情に気づいたかというと、相手の顔をしっかり見ながら注文をしたからだと思います。覚えたての手話で自信がないので、店員さんの反応を見て「伝わってくれ......!」と思いながら注文します。店員さんは私の手話を見て、笑顔で返してくれる。その手話をまたこちらがじっと見る。理解しましたという意味を込めて頷いてみる。それらは手話でコミュニケーションをとるために必要なことでしたが、これって普段の会話でも大切なことだと思いました。

  • 目を見て会話する

  • 表情でも伝える

  • 相手の話(手話)をよく聞く(見る)

  • 頷く(=相槌)

  • 伝えようとする意思

書き出してみると、いや、当たり前じゃん!! となりましたが、普段の自分を振り返ると意外とできていないかもしれないと反省しました。

入社して1年経ちましたが、いまだに社内の人と話すときは緊張します。普段の業務ではチャットとメールが中心であるからか、いざ直接話すとなると「きちんと伝わったかな」「焦って変な話し方になりそう」「いまの失礼だったかも」などなど、脳内一人反省会を日々繰り広げております。

2年目になり、社外の人と打合せをする機会が増えたためますます緊張していますが、そういう場面でこそ、会話のきほんに立ち返るのがよいかもしれないと気がつきました。

目線を合わせて話す。相手が話しているときは最後まできちんと聞く。共感した時に相槌を打ってみる。それだけでも会話がスムーズになりますし、相手にマイナスな印象を抱かせてしまうことも少なくなります。

少しもたついたとしても、伝えようとする姿勢を見せれば相手もこちらに耳を傾けてくれるはず。きほんを押さえておけば、人と話すときの緊張感が多少は緩和されるのではないでしょうか。

言語を習得すると、話せる人が増える


当たり前のことですが、言語を習得すると、その言語の話者と話せるようになるのでコミュニケーションをとれる人数が増えますよね。英語や中国語を習得するとそれぞれ十数億人、話せる人が増えることになります。今回注文をしてみて、手話もそれに当てはまるなと実感しました。

国連では手話は言語として定められていますが、手話は世界共通ではありません。英語圏には英語圏の手話があり、日本の手話も独自のものです。それでも日本手話の使用人口は約8万人と推定されているので、手話が出来るようになれば8万人の人とコミュニケーションがとれるようになります。話せる人が増えるというのは素敵なことだと思いますし、それだけで言語習得のモチベーションに繋がると感じました。

このスタバに足を運んだ際には、店員さんが忙しくないタイミングを見計らって手話を教わっています。ドリップコーヒーと抹茶フラペチーノはなんとか注文できるようになりました。

いつか思いのままにカスタムして、コミュニケーションもとれるようになれたらなと思っています。

(編集部 松本)

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