中学生が起立性調節障害(OD)の原因を作りやすい夏休みに気をつけること
中学生の10%が起立性調節障害(OD)といわれ、朝起きられない、午前中に頭痛や腹痛や吐き気などの強い症状に悩まされています。
怠けているだけだと誤解されがちなODは、夏休みや冬休みのような長いお休みの期間に症状を悪化させたり、ODの原因となる生活習慣を作ってしまったりすることがあります。
特にゲームやインターネットなどで夜遅くまで遊ぶことが増えると、自律神経の日内リズムの乱れにつながり、そこからODの症状悪化を招きます。そして、休みが明けたときには朝起きられなくなってしまうのです。
これから夏休みに入る、すでに夏休みに入っているお子さんがいる家庭では、起床時間や睡眠時間、ゲームを遊ぶ時間に特に気をつけていただきたいところ。
今回は翔泳社の『起立性調節障害お悩み解消BOOK 「朝起きられない」子に親ができること!』から、これら3つのポイントをより詳しく解説します。
起きる時間はバラバラでも大丈夫?
時差ぼけの状態になりかねません。
「△時に起きたい」と意識するとその時間に起きやすくなります。
2時間以上のズレは避けましょう
寝る時間と起きる時間はできるだけ一定にしておいたほうが、日中楽に過ごすことができます。休日になると起きる時間が遅くなる子も多いと思います。平日より起床時間が2時間以上遅くなると、休み明けの月曜日に起きる時間を早めることが難しくなります。
こういった状態を「社会的時差ぼけ」といいます。体内リズムにズレが生じている状態、いわゆる海外旅行で生じる時差ぼけと同じことが体内で起こってしまいます。海外旅行の時差ぼけで考えてみると、2時間のズレだとタイ旅行、3.5時間のズレだとインド旅行から帰ってきたときと同じ状態になってしまうのです。からだへの負担を、イメージしやすくなったのではないでしょうか?
起きる時間を意識してみよう
もう1つ大切なことは、寝る前に「明日△時に起きよう」と起きる時間を意識しておくことです。すると、その時間に起きやすくなります。
不思議に思えますが「△時に起きたい」と前日に決めておくと、決めたその時間の前から、からだのなかでACTHというホルモンの値が増え始めます。ACTHの働きによって、からだを目覚めさせるコルチゾールというホルモンの値が上昇し、その結果起きる予定の時間には体温と血圧が上がり、目が覚めやすくなります(Born J, et al.1999)。
これは、起きる時間を決めておかなければ、からだはなかなか目覚めてくれないともいえます。
寝るときは何に気をつけたらいい?
就寝・起床時間は一定にしましょう。
できれば、スマートフォンやタブレットは布団に持ち込まないようにしたいです。
睡眠時間のポイント
日中に交感神経(覚醒モード)をしっかり働かせるためには、からだを動かすことが大切です。また、夜に副交感神経(リラックスモード)を働かせるためにはしっかりと眠ることが大切です。
中学生の適切な睡眠時間は8時間以上とされています。また、睡眠はおよそ90分で1セットですが、そのなかで最も深い睡眠となるのは「眠りについてからの最初の90分」といわれています。この時間の睡眠をしっかりとることで、交感神経から副交感神経へスムーズに切り替わり、自律神経が整うと考えられます。最初の90分の睡眠が浅くならないように、最適な睡眠環境をつくりましょう。
最適な睡眠環境をつくろう
① 就寝・起床のリズムは一定に
就寝・起床時間をできるだけ一定にし、体内リズムを整えやすくしましょう。お休みの日は、起きる時間が平日よりも2時間以上遅くならないように注意します。
② 寝る前に明るい画面をみるのは避けよう
眠気を誘うメラトニンというホルモンは、自分の周りの環境が暗くなることで分泌され、明るくなると分泌が止まります。そのため、寝る直前までスマートフォンやタブレットなどを見て過ごさないためにも、布団のなかにはスマートフォンなどを持ち込まないようにしましょう。
また、夜にゲームをすることもあると思います。寝る直前までゲームをすると目から入る光だけでなく、ゲーム自体の刺激で脳が覚醒してしまい、眠りにくくなってしまいます。そのため、寝る30分前までにはゲームをやめるようにしたいですね。
「夜遅くまでゲーム」注意したほうがいい?
親子で話し合いルールを決めましょう。
ペアレンタルコントロール機能などの設定も有効です。
ゲームのしすぎが睡眠障害に
ODの症状によって日常生活に支障がでている場合、外出や友だちと遊ぶことができなくなり、ゲームが唯一の気晴らしになってしまうことがあります。そのような場合、ゲームをする時間帯などに注意をしなければ睡眠障害にもなってしまいます。
ODの睡眠障害は、
自律神経のバランスの乱れ
日中の活動量の低下
太陽の光にあたる時間の少なさ
が主な原因です。
眠れないからといって夜中にゲームをすると、ゲームの楽しさから脳は覚醒状態になります。また、明るい光が目に入ることで眠気を誘うメラトニンの分泌も止まり、さらに眠れなくなってしまいます。これはゲームだけではなく、スマートフォンにもいえます。
子どもと一緒にルールを決めよう
まずは、睡眠のリズムを整える必要があります。親子で話し合ったうえで、ゲームやスマートフォンをやめる時間を決めましょう。就寝時間の30分前にはやめることができたらよいと思います。ペアレンタルコントロール機能を設定するなどもおすすめです。
ゲームにはメリットもある!
ゲームには「楽しんで取り組める」「人とつながることができる」というメリットがあります。ODになってから周りの人との関わりが減ってしまっている場合には、ゲームを通して友だちとオンラインでつながれることは、子どもにとってメリットになります。
ゲームの刺激性には注意しよう
ここで注意しなければいけないことは、ゲームによる「脳の報酬系への刺激」です。報酬系というのは「達成したい目標に向かって頑張ることでドーパミンというホルモンが分泌されて、交感神経が活性化する」という脳の機能のことです。
興味があるものに対してワクワクするときや、頑張ったら褒めてもらえる・ご褒美がもらえるといったようなときに、いつも以上に頑張れるのは、この報酬系のおかげです。ただし、寝る前にゲームをしてしまうと報酬系の活性化により眠れなくなってしまうのです。
ゲーム依存症についても知っておこう
報酬系と依存症には関連があります。ゲームやインターネットで手軽に報酬系への刺激による快感が得られるようになると、そのうち、快感を得る手段としてゲームやインターネットに依存するようになっていってしまいます。
依存症の専門家である松本俊彦先生は「依存症は人に依存できない病」と話しています(松本,2021)。ODの子が孤立してしまい人に依存できなくなると、ゲームやインターネットに依存するようになってしまう可能性があります。そうならないように、周りの人が子どものことをしっかりと理解しサポートすることが大切です。
よろしければスキやシェア、フォローをお願いします。これからもぜひ「翔泳社の福祉の本」をチェックしてください!