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UCLA発! 時間をもっと効果的に、もっと大切に、もっと幸せにつかうための究極のメソッド

さまざまな時短術やライフハックを実践してみても、結局はタスクという“ボール”を日々打ち返すことに必死で、「人生に満足する」ことができない私たち。
私たちに与えられた何より貴重なリソースである「時間」を、もっと効果的に、もっと大切に、もっと幸せにつかうには――。
名門UCLAでMBA生に人気の講義を書籍化した『「人生が充実する」時間のつかい方』を訳された翻訳家の松丸さとみさんと、本書の編集担当とのトークをお送りします。

編集担当(以下、「編」):いきなりですが、うちの食洗機が壊れたんですよ……。

松丸さとみ(以下、「松」):えーー!

:もうこれは、直るまで紙皿でしのごうかというくらいダメージを受けてます。

:ご家族がいるとね、そうなりますよね。

:食洗機もないのに仕事なんかできるわけないじゃん!とものすごい過剰反応(笑)。『「人生が充実する」時間のつかい方』の著者は、働きながら子育てすることの難しさを切り口にしているところがあって、私も子育て中なので共感しっぱなしでしたね。
たとえば、著者が4歳の息子のレオ君を保育園へ連れて行く途中、歩道の脇に咲く白バラの茂みに顔を突っ込んでいる息子に向かって、「バラの香りを楽しんでいる余裕なんてないの!」と叫ぶくだり。

:あのシーン大好きなんですよ! レオ君が無邪気に、「ママ、見て見てー!」って。でもママは、早く息子を保育園に送り込んで、早く仕事にとりかかりたい。

:英語には、“Stop and smell the roses(立ち止まってバラの香りをかぐ)”という表現があって、「いったん休憩してリラックスする」という意味なので、著者は自分が口にしたことに気づいてハッとするんですよね。
ちょうどこの場面のあたりを読んでいた頃、保育園からの帰宅途中、同じく4歳の長女に「修行しながら帰ろう」と言われたんです。カマキリみたいに両手で空を切りながら、ひざを胸まで上げながら歩くっていう修行をやれと。
絶対イヤだと思ったんです、なんでそんなことしなきゃいけないのって。徒歩2分で帰れるところが10分かかっちゃうでしょうよ、と。「でもママ、修行だから」と言うんです。

:本当の意味での“修行”ですよね(笑)。

:でもこの本に書かれている通り、保育園の送り迎えの回数があと何回残されているのか、入園したときから数えたらすでに何パーセント消化してしまったのか、というのを計算すると、非常に考えさせられる。

:そしたら、やっぱり“修行”はやらないとな、と(笑)。

:いや、5歩くらいしかやらなかったですけど(笑)。
実は私、時短とかライフハックって大好きなんです。食洗機をつかうのもそう。
ただ、時間を節約して、「生まれた時間を有効につかえているのか」というと、どうなんでしょうという。時間をどうつかうのか、何につかうのかが大切だというのが、本書のミソですね。

タスクが完了しても、ハッピーにはなれない

:最初にこの本をざっと見たときは、ゴリゴリの時間管理の本だと思ったんですよ。
当時、いろんな時間管理の本が出ていたし、これもきっと、合理性を追求して、効率よく時間管理してビジネスに活かしましょうっていう本だと思っていました。
でも実際読んでみると、実はポジティブ心理学の本だなと思って。有名どころのマーティン・セリグマンやミハイ・チクセントミハイといった名前がバンバン出てきますよね。個人的にポジティブ心理学が大好きなので、うれしい!と思って。
ジョン・カバット・ジンやティク・ナット・ハンなど、マインドフルネスや瞑想の世界の有名な人たちも出てきます。

:原書は”Happier Hour”なので、happyという言葉を書名に使っているんですよね。この著者が主に取り組んでいるのは、「どうやったらハッピーになれるのか」ということです。
時間に追われているから、ハッピーになれない。それなら、いろんなタスクが完了!完了!完了!と済んでいけばハッピーになれるのかというと、実はそうではない。それが根底にありますよね。

:私たちの社会って、「できるだけたくさんのことをこなすのが目標」「忙しいことが美しいこと」みたいなところがありますよね。でも、時間があり余れば幸せなのかというと、実はそうでもないというのも、本書から得られた大きな気づきでしたね。

:本の中で、グラフがありましたよね。もちろん、可処分時間が少ないと幸福度が低いけれど、ありすぎても幸福度は低くなるという。定年退職した人とか見ているとわかりますよね。ある程度忙しくしていないと逆につらいんだなと。

:だから退職した人は、おそばを打ち始めたりするんでしょうね。

:自分でハムを燻製したりとか。

:私は、「モザイク」を作っていくという考え方がすごくおもしろいなと思いました。時間を考えるときって、リニアにとらえがちだと思うんです。でもそうではなくて、一歩下がってみて、1週間のスケジュールのどこに何をどう置けばいいのかと考えよう、と。

:タイルを配置してモザイクを作り上げるように、1週間のスケジュールにタスクや予定を配置していこう、という本書が提唱するエクササイズで、具体的なやり方をステップバイステップで解説していますね。


:とても印象的だったのが、たとえば自分が母親で、働くことに罪悪感を抱いたりする人もいるかもしれないけれど、できあがったモザイクを見ると、ちゃんと自分は母親業をやっている時間もあるんだということがわかる。だから、そんなに罪悪感を持たなくてもいいんだ、という話。
そうやって全体として見て、何かしら自分が罪悪感を持ちがちなところに対し、「そんな風に考えなくていいんだよ」と言ってくれるところがこの本の特徴だと思いました。

:一方で著者が手厳しいのが、スマホのいじりすぎについてですよね(笑)。著者の授業を受けた学生たちが、自分たちの時間のつかい方を洗い出してみると、「スマホにこれだけの時間をつかっていたのか」とものすごい罪悪感を覚える。
そのあたりは、著者はかなり手厳しいですよね。というのも、スマホというかSNSに時間をつかうことが、幸せにつながっていないと研究が示しているから。

:「デジタル・デトックス・エクササイズ」と言って、学生たちに、6時間スマホ断ちをさせるところがあるじゃないですか。これをやると、学生たちから必ず抵抗に遭うと(笑)。

:MBA生にそれを強要するのは結構大胆だなと私は思いました(笑)。自分の仕事を続けつつMBAを取得しようとしている人もいるわけだし。

:確かに。あと、自分が何に時間をつかっているかを2週間記録するという「時間記録エクササイズ」がありますが、自分が学業につかっている時間よりも、ゲームをしている時間のほうが長いことに気づいた学生がいましたよね。それに気づいたときは相当ショックだっただろうな、でもこのエクササイズをやらないと気づかなかっただろうな、と。
マインドフルに時間を使わないと、時間って本当にとけていきますよね。この時間記録エクササイズは、自分は恐ろしくてできない(笑)。

:どんな事実が浮かび上がるのかと(笑)。でも松丸さんって、1日の仕事の分量を決めているなど、しっかり時間管理しているイメージですよね。

:実は猫を飼い始めたのが、時間管理に役立っているんです。昔は、起きたいときに起きて、ずーっと仕事して眠くなったら寝る、たまに気分転換に走りに行くみたいな感じだったんです。でも、猫を飼い出してからは、必ず7時に起きて仕事を始めるようになりました。
それで夕方暗くなってくると、寝ていた猫が目を覚まし、遊んでくれって言い出すんです。18時、19時を過ぎるとかなり騒ぎ出すので、それまでに仕事を終えなければいけない状態になって、オンとオフがはっきりするようになりました。とはいえ、パソコンを落としても、猫をだましだましiPadで仕事していたりするんですけど、前ほどパソコンにずっとかじりつくってことはなくなりましたね。

:いいことだらけじゃないですか!

:そうでもないんですけど。家をボロボロにされたりとか(笑)。
この本では、人が幸せになる要素として、「人との関わり」とか「畏敬の念を抱く」とか、いろいろ挙げられています。人とのやりとりが大事、家族との時間が大事、とか。
でも私はいま家族と一緒に暮らしていないので、訳していてちょっと寂しくなったりしたんですけど、「愛する人(ペットを含む)」とカッコ書きで書いてあるので、「あ、ペットでもいいんだ!」って。
ペットがOKなマンションに引っ越したのを機に飼いたいと思っていたんですけど、この本が最後のひと押しとなり、訳し終えた頃にペットを探し始めたんですよ。本書に背中を押してもらった感じです。

:自分の訳書にめちゃくちゃ影響を受けていますね(笑)!

:そういうタイプなんです(笑)。それ以外で本書に影響を受けたのは、意識して人とコミュニケーションするように心がける、というところでしょうか。たとえばカフェに行って人と話してみましょう、というくだりがあります。アメリカでも見知らぬ人に話しかけるのは簡単ではないと思うんですけど、日本って余計に難しいと思うんです。カフェで並んでいるときに、「今日いい天気ですね」とか言い出したらヤバい奴だと思われる可能性があるじゃないですか。
でも、たとえば買い物のときに、金銭のやりとりだけじゃなくて一言交わしてみるとか。公園へお散歩に行ったとき、お掃除をしているおじさんにちょっとあいさつしてみるとか。そういうことならできるかなと思って、ちょっと実践しています。

誰でも自分の生活にとり入れられるメソッド

:本書は、ウォールストリート・ジャーナルでベストセラー入りしていて、米Amazonで「2022年ベストブック」リストにも選出されています。松丸さんは訳者として、なぜこの本がアメリカで読まれたんだと思いますか?

:1つには、難しい内容がひとつもない、というのがあると思うんです。「これどういう意味なんだろう」「消化しないと先に読み進められない」っていうのがない。論文調ではなくて、語りかけるような文体で書かれているんです。もともと講義だというのが反映されているのかもしれません。なので、誰でも「私はこうだな」などと自分の生活に照らし合わせられるし、とり入れることができる。

:アメリカの心理学や行動経済学の本って、実験の説明が長かったりしますよね。被験者はこういう人たちで何人いて、実験はこういう環境で行われて、という説明がしっかりしている。
でもこの本の場合は、「あくまで本文は読みやすく」と意識して書かれているように思います。読んでいくと、「これはこういう研究や実験で証明されています」などと、必ず学術的根拠が出てくるんですが、詳しいことは注釈のほうで語っていますよね。

:だから、注釈がものすごいボリュームですよね! そのあたりが、さすが学者が書いているというか、単なる感想で書いているわけじゃないっていうのがわかりますね。
原書には、”empirically”という言葉が繰り返し出てくるんです。この著者の口癖なのかなと思うくらい。辞書を引くと、「実験的に」とか「経験的に」と出てくる。でも日本語にすると、「実験」と「経験」ってぜんぜん違いますよね。だから文脈によってどっちを言っているのか判断しなければいけなかったですね。
ただ、机上の空論ではなく、実験や人の経験に裏づけられているデータなんですよということを言いたくて”empirically”という言葉をつかっているんだというのは伝わってきました。

:本書が提唱する「ハッピーな時間のつかい方」は、ただの著者の個人的な見解ではなく、学術的に根拠があるということですね。

:もう1つ、この本がアメリカで読まれた理由として考えられるのは、やっぱりコロナ禍を経て、生き方を見直したり、「幸せってなんだろう」「生きるってなんだろう」と見つめ直した人が少なからずいたからではないかなと。命の有限性に気づいたときに、「時間管理するよりも、幸せな時間を1秒でも長くしましょう」というのがウケたというのもあると思うんですよね。

:本書には、「時間をつくるには、時間をつかおう」というキャッチコピーをつけました。無駄な時間を削り、生産性を高め、少しでも時間を捻出しようとするより、自分がもっと豊かでハッピーになれるような時間のつかい方を考える、というのが今求められているのかもしれません。

松丸さとみさん、ありがとうございました!

〈目次〉
第1章 私たちはみな時間貧乏―最適な可処分時間を考える
第2章 時間をつかうことで、増やす―時間的余裕を感じる方法
第3章 幸せな時間、幸せでない時間―最も賢明な時間のつかい方
第4章 やりたくないことを楽しくやる―やる気を高める方法
第5章 幸せな時間をもっと幸せにする―喜びを常に更新する方法
第6章 先のことより「今」に集中する―幸福度を上げ、成果を出す
第7章 時間を費やすべき大切なことは何か?―取捨選択する方法
第8章 カンバスに、1週間を描いてみる―スケジュールの最適化
第9章 人生全体を俯瞰してみる―長い目で見ることの効用
〈エクササイズ一覧〉
体を動かすエクササイズ/無作為に親切にするエクササイズ/時間記録エクササイズ パート(1) (2) (3)/睡眠エクササイズ/五つの「なぜ」エクササイズ/残り時間算出エクササイズ/五感をつかった瞑想法/デジタル・デトックス・エクササイズ/喜びに満ちた活動エクササイズ/追悼文エクササイズ/憧れの年長者から学ぶエクササイズ/感謝の手紙エクササイズ


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