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『枕草子』を楽しく読もう|林望『枕草子の楽しみかた』

11月2日発売の『枕草子の楽しみかた』より「『枕草子』を楽しく読もう――新書版の序にかえて」をご紹介します。「源氏物語」の現代語訳『謹訳 源氏物語』の著者で、作家・国文学者の林望さんによる本書は、2024年のNHK大河の舞台となる平安宮廷サロンの様子もよくわかる、「枕草子」を知るための絶好の入門書です。

 日本文学の長い歴史のなかで、特に平安時代は女性の書いた文学の花盛りであった。紫式部の『源氏物語』はいうまでもないことだが、随筆文学の金字塔ともいうべき、清少納言の『枕草子』もまた、まったく違った意味で、すばらしい達成の一つであった。

 ただ、『源氏物語』が当時の宮廷貴族世界を舞台とする「創作」であったのと対照的に、『枕草子』は、どこまでも清少納言の見聞きした貴族社会の実相をありのままに書き残した記録で、その意味で当時の宮廷生活のありようが、いきいきとリアルに伝わってくる。

 ただし、清少納言という人の視線は、徹頭徹尾「女性から見て」のそれであって、そこからまた、当時の男達のありさまなども、まことに呆れるほど現実的に正直に活写されている。それゆえ、これをよく嚙み分けて、じっさいどんな情景だったのだろうか、とあたかもドラマの一場面を想像するようにして読んでいくと、ほんとうに生々しく面白い。

 しかも清少納言は、ユーモアのセンスも豊かな人であったと見えて、ついつい引き込まれて笑ってしまうような場面もあちこちにある。それなのに、よく考えずに表面の語義だけを「わかった」というだけの読み方では、せっかくの面白さが味わえないにちがいない。読むについては、豊かな想像力を働かせて、場面や、その空気をまでも脳裏に再現しながら読んでいくと、興趣まさに尽きぬものがある。そういう「場面の再現」の手助けとして、私はこの本を書いたのである。

 本書は、過ぎし二〇〇九年刊行の『リンボウ先生のうふふ枕草子』という単行本に、このほど手を入れて新書の一冊として再刊行するものである。新書判という手に取りやすい形になったこの機会に、ぜひぜひ、とくに若い人たちに気軽に読んでいただきたいと強く願っている。いや、これほど面白い随筆文学を、読まずにいては人生の損失だ、と私は思っているのである。

 まったく、『枕草子』は面白いなあ!

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