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舞台『染、色』東京千穐楽

正門良規の演技が観たくて行ってまいりました、『染、色』観劇レポートです。一度は中止になった舞台、今年ようやく開幕し、私自身は中止になったことで体感する機会を得られた舞台でした。一年空いたことで、作品自体どう変わっていったのかが気になるところですが、せっかく観ることが出来たので文章で残します。解釈違いご容赦ください。コメント苦情でも受付けます。

キャスト
正門良規:深馬(美大生油絵専攻)
三浦透子:真未(独創的スプレーアートの謎の人物)
松島庄汰:北見(美大生造形専攻)
小日向星一:原田(美大生映像専攻)
黒崎レイナ:杏奈(他大学で深馬の恋人)
岡田義徳:滝川(深馬たちが慕う講師)

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■あらすじ。アトリエにて。

序盤はありふれた学生の風景、何者かになれそうだと根拠のない自信を孕んだ美大生の男が3人。北見は造形、原田は映像、深馬は油絵を描き続ける。深馬は首席入学で回りからも才能が認められるほどの天才だった。しかし、学年が進むにつれ創作意欲も薄れていく。マンネリ化した毎日を送りながらついに4年を迎えた時、とある事件が起こる。

以下、オチを含んだレポート。

■バンクシーでしょうか?

ある日、道端で酒をあおりながら、スプレーで何気なく壁に真っ白な一直線を引っ張って酔い潰れてしまう。それから目覚めると絵は描き足され、ブラキオザウルスような恐竜の骨格が描かれていた🦕

深馬はまんざらでもない顔で絵を眺めて去っていく。

明る日も、同じように今度はスプレーで満月を描いた。すると、そこへ胎児のようにうずくまる女性の絵が描かれる。

深馬はこのグラフィティーアートに惹かれていく。そして、描き手をどうしても見たくなり、深馬はついに絵を描いた本人と遭遇する。

■共作した狂作

今度は羊のような絵を線だけ描いて物陰に隠れていた。一瞬気絶したが、杏奈からの電話で目覚める。その後、絵を描き足した本人である真未に出会う。彼は押し込めていた"描けない葛藤"をぶつけるように、彼女へ矢継ぎ早に質問する。

深馬「どうして僕の絵へ勝手に描き足す?」

真未「いつもそう、あんたは途中で投げ出す?どうして描き上げられない?」「死ぬところを見届けないと。自分の死体は自分で見られないもんね。お前は、絵の完成が見えているのに描こうとしない。」

意訳:私が描き足した絵をさも"俺の思い描いた完成形だ"と言いたげだけれど、貴方はいつも完成する前に飽きて投げ出してる。あるべき着地は見えてるはずなのに。

そんなことを話しながら、羊に蛇が艶かしく絡みつく絵を描き上げた。落胤代わりの6本指(2人の手を重ねた)のサインを添えて。

寺山修司の名言"僕は不完全な死体に生まれ、何十年かなって完全な死体となる"が思い起こされた。

真未の手により、深馬の絵は完全な死を迎えた。

「ちゃんと死ぬこと。」

深馬はそれから取り憑かれたように、この言葉を呟きながら、再び、絵にのめり込む生活へ戻る。

■人はそうそう変わらない

しかし、これまでの作風とも違う絵と深馬の人格に、講師も友達も恋人の杏奈も戸惑いを隠せない。

"もしかしたら浮気したんじゃないか"

「どんなことがあれば人は変われる?」疑い悩んだ杏奈の問いに、呼び出され会話していた北見も「杏奈ちゃん、ズルイよ」とため息をつく。杏奈は北見の思いに気づかず、「私も変わりたい」とせがんだ。就職活動の不調に、気丈に振る舞っていた杏奈の意思も不安定になっていた。

入学当初から仲良くしていた北見も原田も、恋で才能が揺らいだ、杏奈と出会い深馬は変わってしまったと、天才の成長を共に過ごしていた気持ちを邪魔されたかのように残念がっていた。

残念がりながらも、原田も北見も杏奈が居ることは当たり前で、深馬には無くてはならない大切な存在だと感じている様子だ。

いったい何が不満だったのか。けして口数は多くない深馬だが、彼に何が起こったのか。

杏奈は深馬に何度も問いかける。

「大丈夫?大丈夫?なんだよ、ね?」

深馬を気遣いながら、自分自身にも言い聞かせるように。

本当に出会いで人は変わることが出来るのか、スランプ状態の深馬の前に現れたのが真未だった。

絵をきっかけに、深馬は真未にのめり込んだ。

両親を幼い頃に亡くし、施設育ちで、絵は独学。思ったことは口にできる強い真未は自由に見えて、深馬は惹かれた。

■止めどきの編集点のつくりかた

ある日、事件が起きる。有名キュレーター(コンサートでいうところのイベンター)から企画展への参加オファー。卒業前最後のチャンスだったはずが頓挫することに。納期1週間前に何者かによりキャンバスごと壊されてしまったためだ。

以前、学内の展示に使用した絵の出展も検討されたが、深馬は強く拒否をした。

真未からはお互い尊重し合っていた友人の才能を馬鹿にされながらも、冷静に否定をしていた深馬だったが、この事件の疑いの目は友人へ向かい、殴り合いの喧嘩の末ついに彼らへ暴言を吐いてしまった。

真未へも不義理な行いをする。ほんの戯れあいのつもりで、深馬は彼女が大切にしていたスプレーを隠したのだ。

すると、真未は子供のように泣き叫び、弁明するも、2度と深馬の目の前に現れることはなくなった。

企画展への出展作品を壊したのは真未だった。

そうこうしている間に街には2人のグラフィティーアートの偽作者が現れる。

犯人は講師滝川だった。

大人しい原田を利用して、偽の映像をSNSで配信し拡散させた。

深馬の才能が欲して、誰かに認められたくて"なりすまし"をしていたという。

「なぜ選ばれるのは俺じゃなかったんだ?!」

滝川は深馬に問いかける。

争いの末、深馬は倒れ、入院。

1週間の眠りから覚め、目の前には杏奈。

「熱中症だって」

電波、杏奈ちゃん。優しい気遣い。

もとい、キ✖️✖️イ。

病室には友達の原田も北見もいる。

眠りのうち、企画展の納期は過ぎていた。

■まさかの夢堕ち

目は覚めたけれど、誰とも話の辻褄が合わない。

卒業式の日、友達同士3人で飲みながら話す。

記憶を辿るように話すと、滝川は"なりすまし"をしておらず、グラフィティーアートは有名キュレーターと行っている大学のプログラムだった。また、朧げな存在の真未だが、存在しなかったのかもしれない。原田も北見も会話をするうち「まだ治ってなかったんだな」と深馬を哀れんだ。思えば真未は女性に見えず、恋愛対象というより同じ情熱を持ちながら"陽"として分岐した深馬自身とも捉えられる。真未と過ごした一夜も深馬だけの妄想が創り出したものだった。深馬を伝う手は、己を慰めて泣きじゃくりながら、ただ滑稽に体を這っていただけ。舞台上の涙と汗が生々しく映った。

"自分だけが突出したい"

"選ばれたい"

"なぜ俺じゃ無く、お前なんだ"

真実と幻想の狭間で、杏奈以外の登場人物すべての言葉は深馬自身の心の叫びだったのかもしれない。

深馬は結局、何者にもなれなかった。けれど、杏奈の深馬に対する尊敬や愛は普遍的で、彼女との時間は彼が作品を創り出すことを止めても変わらない。

杏奈「私ね、面接で尊敬する人を深馬くんにしたんだ。真面目で才能があるのに謙虚で、回りの友達からも信頼されてる。」

冒頭の面接シーンで"こんな就活女子居たな。控室で暗記して、グループ面接で主導権握る人。やだな。"と、個人的には苦手意識しかなかった杏奈ちゃん。

幻想場面では、どんなところから就活してるかの問いに「複数企業受けてるよ〜」が、現実世界だと「大手(企業)かな」に変わってた杏奈ちゃん。

深馬と周囲とで記憶がほぼ揺らがない数少ない存在の彼女は、現実の象徴だったのかもしれない。

行き詰まりが就活と作品創作とで異なれど、見事内定を勝ち取った杏奈と、一方で大好きだった"創ること"から距離を置いた深馬。

泣きながら深馬が杏奈へ電話をする。

これまで電話もメールも受け取る側で、自ら発信することは無かった。

深馬が「大丈夫?辛くない?杏奈、今から会えないかな?」の中盤の杏奈のようなセリフを言ったところで『染、色』の幕は下りる。

■個人的かつ個人的あとがき①

〜色の話〜

プロジェクションマッピングを使い、スプレーで描く描写をしていた。ほとばしる赤やピンクやグリーンは、情熱だったり誘惑や、様々な感情の表現だったのかもしれない。現実シーンに戻ると、真っ白の単色だったり、カラフルな絵は映らなくなる。グラフィティーアートの壁面はときに、スクリーン代わりになり、深馬の幻想が映し出されたり、真未の部屋の役割も果たしていた。

色を効果的に使用しているのも印象的だった。

白→ベージュ→黒→ベージュと深馬の服の色の変化は、明滅する壁の光と共に場面転換とも捉えられた。

私は黒い服を着た深馬くんが好きだった。作品作りに没頭し、"洗っているんだ、汚れでは無い"と腕をスプレー塗れにしながら、他の事などお構いなしに命を溶かすように創作活動に励む表情がキラキラしていたから。このルートで生きたとしら、一緒に居る人は幸せを掴むのに苦労しそうだけれど。

1番長く登場するベージュのシャツの深馬は好きになれなかった。「杏奈と過ごす時間が楽だ」とニコニコしながら鍋を作る姿は別人に見えたから。カワウソみたいな笑顔には癒されるけど、なんだか才能が死んで人格が変わったようだった。人間性としては創作していた時に比べると格段良かったけれど、麻酔銃を打たれた動物を見ている気分だった。

あまり登場しなかった白は、演じている正門良規自身にも見えた。彼自身も、まだ何者にも染まれる可能性を秘めていながら、その真っ白さに葛藤しているのかもしれない。

■個人的かつ個人的あとがき②

脚本の加藤シゲアキくんは、恐らく普段観る舞台のなかで1番若い脚本家だけれど、小説家とはいえ、よくこれだけ入り組んだ話を書くことができると驚かされました。個人的に「めちゃイケ」で育った世代ってこういう構成好きだろうなと勝手に思っています。本人も話の意図は後で思い出せない(パンフレットより)そうですが、また何年何十年かしたらもっと凄い作品を出すのではないのでしょうか。小説原作のドラマや映画は観たことがある程度の知識しかありませんが、独特な言い回しは印象的です。

アイドルは何をしても嫌厭されがちで、ジャニーズの舞台はチケットが手に入らないので、先入観も払拭されにくいと思います。

それでも、配信やレポートなどで少しでも、こんな凄い役者が居ますよなどが伝わりましたらば幸いです。

■個人的かつ個人的あとがき③

〜深馬(正門良規)という人に思うこと〜

学生時代の自分自身の葛藤や人間関係、生活の変化を思い出した。入学当初、何でもできそうな根拠のない自信は、学生の殻に守られた青年には足かせなのかもしれない。何者かになれる幻想を抱ける一方で、恐らく、大半の人には創作し続けられない行き止まりが入学から見えかけてしまうから。"好き"を生涯追求できる人は一握り。

杏奈ちゃんは他人からの絵の評価より、絵に夢中な深馬を尊敬していたのかもしれない。だけどそれは2人のきっかけでしかなくて、就活の面接でも、尊敬する深馬の弱点を「たまに何を考えてるのかわからなくなる。それで周囲を困らせる。」と答えていたけれど、絵を描かなくなり一年留年した深馬と、就職後は同棲をした。

それが情だとか、惰性だとしても、深馬くんがフラれないことを祈らずには居られない。

卒業後、深馬は絵の講師になると言っていたけれど、何千人と居る同じルートを辿ったただの1人なのだろう。

もしくは数年後、深馬くんは自殺するんじゃないか。それくらい、危うさと脆さを帯びている人に思えた。実直すぎる彼は"表現すること"の脅迫観念に飲まれないといいが。

東京最終日を無事に終えられてなによりです。

引き続き、大阪大千穐楽を迎えられますように。

-ー長々と失礼しました。

読んでいただきありがとうございました。

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