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恋愛経験が乏しいと結婚が難しくなるのかという話

テレビやラジオの恋愛相談企画でこんな趣旨の相談を聞いたことがないだろうか?

「僕はなにをやってもうまくいかないダメな人間でしたが、彼女ができたら自分に自信がもてるようになると思うんです。どうすればいいか教えてください」

記憶があまりに曖昧なので想像の産物である可能性は否定できないのだが、私は何度かこんな恋愛相談を聞いた気がする(あるいは本で読んでいたのかもしれない)。
彼女ができたら自信がもてるようになるというのは本当なのだろうか?

また周囲の自称「病んでる」女性がこんな言葉を口にした。

「メンタルが不安定だけどさ、彼氏ができたらたぶんよくなると思う」

willというよりbe going toな響きで、予定された未来を語るように彼女は言った。しかし私は「彼氏ができたら人生上向きみたいに言ってるやつはたまにいるけど、それで付き合ってうまくいってるやつ見たことないぞ」と返してしまった。
その後彼女がどうなったかはここでは触れない。

確かに愛された経験が自信に繋がるという言説はよく聞かれるし、初カレに振られて「マジ、ショックで死にそうやったし〜」とテンション高めに失恋を語っている高校生を電車で見かけたこともある。傷も癒えたのか、破局をネタに話しているさまはある種の自信を感じさせるものがあった。

 だがひとつ言えるのは恋愛は万能のソリューションではないということだ。恋人さえいれば幸せになれるのならば、誰も恋人と別れるという選択肢は選ばない。ただ恋愛経験をすることが個々の自信に繋がるということはあり得るかもしれない。

前置きが長くなったが、今回はこの論文を紹介したい。

小林盾,大﨑裕子(2016)「恋愛経験は結婚の前提条件か」『成蹊人文研究』第24号

こちらもオープンアクセスとなっているので気になる方は読んでみてほしい。

まず前提として、現代は恋愛結婚とお見合い結婚では圧倒的に前者の割合が多くなっている。つまり結婚するカップルのほとんどは恋愛を経て結婚することになるのだが、この恋愛の実態が結婚の前提条件となっているかをこの論文は追求している。

ここでは告白をした人やキスをした人の数を「恋愛人数」と定めている。
ウェブ調査にて2015年3月6-10日に実施されたデータが本論に使用され、母集団は20-69歳の個人モニタ91万967人(調査業・広告代理業をのぞく)。


 サンプリングは、男女、10歳ごと5つの年齢階級、6つの地域(北海道東北、関東、中部、近畿、中四国、九州沖縄)によって60セルに分割し、2010年国勢調査に基づいて人口比例で標本サイズをセルごとに割りあてた。

 計画標本は11万131人で、有効回収数は1万2007人、有効回収率は11.0%だった。セルごとに回収し、割りあてに達したら打ち切りとした。

不足したセルについては追加依頼をした。なお、途中離脱したのは3,913人だった(計画標本の3.6%)。

 最大で63問あり、回答時間の中央値は23.6分である。他にモニタ登録情報として年齢などの属性があり、分析可能な変数は1,706ある。すべての変数について、欠損値はなかった。

 標本は、男性50.0%、平均年齢45.5歳、現在結婚(事実婚・婚約中を含む)62.3% /離別5.5% /死別1.8% /未婚30.4%、世帯収入の中央値400

〜600万円だった。

(本文より)

未婚者はこれまでの恋愛人数を、既婚者は初婚までの恋愛人数をカウント。恋愛経験として交際した恋人の人数、デートをした人数、キスをした人数、性関係をもった人数を用いている(いずれも風俗産業は除く)。

例によって本論文においても詳細やすべての論点を明かさないでおく。せっかくオープンアクセスとなっているので、できるだけ多くの人に原文に当たってもらいたいためだ。

様々に変数を比較し検証した結論部だけ述べると、男女とも恋人がひとりでもいたことがあれば、結婚できる確率が恋人がいたことのない人に対して約3倍。また男女ともキスをした経験があればキス未経験の人に対して結婚できる確率が約2倍となったとのことである。

この手の確率はサンプルによって、あるいは調査手法によって結果が変わってくるものである。そのため前回紹介した交際人数のそれと比較しても数字にはズレが出ている。しかし大まかな傾向は似ていると言えるだろう。やはり恋愛経験が少ないと結婚には不利なようである(特に男性)。

この論文では恋愛人数それぞれの数の効果にも触れている。やはり多ければ多いほど効用があるとは限らないようだ。男性ならキスの効果は12.9人がピーク、女性は恋人の効果のピークが8.2人とのことである。ピーク値高過ぎない? と思わないでもない。私は地方出身だし、どちらかと言えば恋愛を面倒臭いと思ってあまり関わらずにきたところがあるのでそう感じるのだろうか。都会なら、あるいは恋愛に対してアクティブな人なら初婚までにこれだけの恋愛経験を重ねることも多いのだろうか。
 ああでも私もデートの人数なら男性のピーク値越えてるかもしれない(ダメじゃん)。何をしたらデートなのかという定義をまずしないといけない気もするが。

「交際経験がある」というのはやはり自信に繋がるのだろうか。彼女ができない男友達の多くは女性と話す時におどおどしてしまっているし、このことには納得してしまったりする。
しかし「じゃあ早く恋人作らないとまずいじゃん」と焦ったり、「恋人さえ作れば万事うまくいく」と幻想を抱いたまま恋愛に走るとろくでもない結末が待ち受けているのも常であろう。本当に悩ましい話である。

なお本論文の詳細な結果分析については原論文を参照されたし。

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