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猪苗代をゆく ~諸橋近代美術館にて


・はじめに

上の写真、欧州の貴族の別邸のようなたたずまいだが、福島猪苗代にある諸橋近代美術館である(まずは何といってもこのロケーションと外観が素晴らしい!)。緊急事態宣言終了にかこつけ、1泊で福島に出かけた。海外旅行ができる現状でもなし、国内でもなかなか旅行には行きづらい今、今年の旅行はせいぜいこの程度となりそうである。

諸橋近代美術館については、下記参照いただきたい。

福島の企業経営者である諸橋廷蔵氏が長年にわたり集めたダリを中心とした中規模美術館であり、今(投稿時現在)「ステッピング・アウト 日常の足跡」と題してダリの他クルック

の作品を通して「20世紀において日常の転換から生じた精神活動や芸術表現を紹介するとともに、PJ クルックの作品群を通して2020年以前と現在の生活を比較」(公式HPより)する企画が開催されていた。

・コロナ禍はかつての逆行?

クルックは日常的な風景を多く描いた画家。ただ描かれている人々はどこか浮世離れしている。ラグビーに興じる人々も、日本のスポーツ紙を読む人々も生気がなく、とても写実的とは思えない(上記公式サイトに絵が載っているのでぜひご覧いただきたい。)。ダリのような直接的な表現ではないが、クルックもまたシュールレアリスティックである。

この企画展は「コロナ前後の生活を比較」と銘打ってはいるが、かといってコロナ後の作品も展示され、「こう変わりました!」と提示されているわけではない。コロナ前後で我々がどう変わりえたか、の評価はすべて来客各々に委ねられている。

現在、日本ではコロナ第5波がようやく終わり、第6波への対策をしながらも、ほとんど「コロナ前」を取り戻せているように見える。「違い」はせいぜい(私にとっては)厄介なマスクをしないと体裁が悪いこと、それと海外旅行ができないことくらいか。衆院選の喧しさも通例の選挙と何ら変わりはない。まだコロナ禍の評価が定まる段階ではないが、ことに日本においてはコロナ前後で変化したものがそうあるとは思えず。結局リモートワークもオンライン飲み会も(ほぼ)普及しなかった。来月以降もまた何だかんだで自公政権によるそれとない政治が続いていくのだろう。

ただし、世界のニュースを見れば(良くも悪くも)目につくものも少なくない。連日繰り広げられる欧米におけるマスク着用やワクチン接種義務化反対のデモ。むろん「人権侵害や副反応を懸念するため」という方もいらっしゃるが、彼らの言い分はこんなのも多い。

「ネットでワクチンは国家による陰謀だと知った!」
「オレは共和党支持者!民主党の政策であるワクチンなんか打つくらいなら死んだほうがマシ!」
「俺はマスクもワクチンもしない!!なぜならロシア政府がマスクワクチンしろというからだ!」

欧米でどのくらいのコロナ死者がでているのか、ワクチンの効果はいかほどか等すでに客観的な数字が出ているはずだが、にも拘らず未だに「密」な状態で反対デモ(場合によっては暴動も)があちこちで繰り広げられている世界の国々、日本人から見てみればこれこそが「シュールレアリスティック」な気がしないだろうか。客観的な数字、論理をベースに考えることを放棄した人々が世界にこれほどまでに多いとは(もちろん日本にもある程度はいらっしゃるが)、コロナにおける「発見」の一つかもしれない。

かつて14世紀に欧州でペストが大流行した際、人々は神に対して敬虔な気持ちになり、懸命に祈った。しかし一方、死がこれほどはびこるなら、生をより充実させようとも考えるようになった。こうして「デカメロン」等人生の賛美を謳う文学が生まれた。ペストが人間に突き付けた死への恐怖心が、逆に人間愛を積極的にとらえるルネサンスに繋がっていったわけである。文学だけではない。祈ったところでペスト(死)はなくならないことを知った人々は、徐々に「科学>信仰」となってゆく。ルネサンスにおける科学の大きな発展もペストがきっかけの一つとなっている(無論ルネサンスにはほかにも多くの要因があるが)。

翻って21世紀の現在、世界では逆に「科学<信仰(理念、教義)」となってしまっている人が多いのが目につく。ペスト期の逆行?とまで言ってしまっては飛躍しすぎかもしれない。しかし、我々人間はそれほど賢い動物ではない、というのは確かなようだ。

そんなこんなで私なりにコロナ前後に思いをはせつつこの素晴らしき美術館を堪能した。11月上旬でいったん閉館してしまうが、是非訪れることをお勧めしたい。

・猪苗代の風景

さて今回「猪苗代に行った」と言っても時間の都合上猪苗代湖には行けなかった。しかしここは美しい風景の宝庫だった。何枚かご紹介して終わりとしたい。

美術館から見える会津磐梯山。富士山のように均整がとれておらず、粗野さを感じるたたずまいが、またよい。

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次に周囲の名所、五色沼

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猪苗代城。代々猪苗代氏の居城だった。戦国時代、蘆名氏の家臣だった猪苗代盛国が伊達政宗に内応し、摺上原の戦いを招き、伊達の会津支配を招いたことで知られている。

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