見出し画像

「教員採用早期化」は文科省の「獲らぬ」どころか「見ぬ聞かぬ」狸の皮算用

秋口から話題になっていた教員採用試験の早期化が実現しそうな情勢です。

この件に関しては一度記事を書いています。

さて、あれから教員を目指す人が増えるような勤務環境の改善に関わる改革案の策定は見られたのでしょうか。

部活動の地域移行⇒先延ばし

来年度から中学校の部活動は地域のスポーツクラブや団体にその運営を移行する予定で話が進んでいました。

しかし、案の定ではありますが受け入れ先が見つからない地域が多数発生しました。

その理由は受け入れ先自体が少ない地域があるということもあります。

しかし、それだけでなく、教育委員会や校長が探す手間もコストもかけていないことや、BDKと呼ばれる部活動を自らの業務の全てと勘違いした現場教員の草の根的な反対運動などもあるようです。

そういった情勢の中で、さっそく日和った形の方針が追加で出ています。

来年度はまず「調査」という方針です。さて、何度調査を繰り返していけば実際の改革までたどり着くのでしょうか。

これで当面の部活動地域移行は頓挫し、最悪の場合このまま有耶無耶になってしまうでしょう。

35人学級はいまだ遠く

昨年度、改正義務教育標準法が可決され、小学校における1クラスの生徒数が40年ぶりに変更となり35人学級が法律上に明記されました。

これまでも各自治体ごとでの取り組みがあったようですが、全国すべての小学校において法律上決定したのは朗報でしょう。

とはいえ、これは実際には段階的にしか進まず、令和7年度に小学6年生が35人学級になる、という予定です。(そして、文科省の予定は未定と同値です)

しかし、中学校以上の学級人数はいまだに変わっていない状況で、40人学級が維持されたままです。

そもそも、OECD加盟国諸国と比較しても人学級当たりの人数は日本が突出して多いのがデータ上にも表れています。


学級規模の基準と実際[国際比較] - 文部科学省

20年前のデータであり、統廃合が進む前のものであることを考慮すれば、これよりも増えている可能性は高いでしょう。

そして、実際のところ35人学級ではそれほど教員の負担が減るというものもないのが現実です。

一度に管理できる人数や書類業務を考慮すれば、20人前後まで落とすことが必要になるでしょう。

存在しないはずの「残業」

公立学校の教員には残業という概念は存在しません。

公立教員の残業は、超勤4項目に相当する、校長が認めた特別な業務にあたる場合のみが残業として認められています。

つまり、現状の公立学校の教員がやっているのは無償ボランティア、趣味の居残り、として行政的に取り扱われています。そのため、いくら残って仕事を整理しても残業代は出ないのです。

このことに関して、残業代を支給する方向で話が出ています。

しかし、これに関しても期待はできなさそうです。

実際の業務削減に関しては何の手立ても打っておらず、単純に残業を減らすことなどできません。

にもかかわらず、残業代を支給することになればどこからか予算を引っ張ってくるしかないのです。

給特法によって定められた教職調整手当4%を廃止し、それをそのまま見なし残業手当とし支給するのでは、という予想を私はしています。

こうすればお金は一切かけずに残業手当を払ったという実績だけを上げることが可能だからです。

この予想の当たり外れはともかくとして、給与待遇面においても何ら改善していないのが教育現場です。

何も好転していないのにどうして教員志望者が増えるのか

このように教育現場の労働環境は何ら好転していません。

にもかかわらず、早期採用を行うだけで人材確保ができるというのはどう考えても無理筋でしょう。

そもそも教員採用試験は労働市場が売り手市場の場合、常に倍率低下していました。

しかし、その中でも維持をできていたのは、民間の不採用者や第2、第3志望者のすべり止めとして機能してきたからです。

これを民間と同じ時期に採用試験をすることになれば、もはや太刀打ちできないのは自明なのです。

現在、私の勤務校の卒業生に話を聞くと、教育学部以外の進学者の教員免許取得率はかなり低下しているようです。

実際、教育実習に来る卒業生も減少しています。

また、国立大学教育学部の小学校教員課程の入試難度は軒並み低下し、さらに小学校教員養成課程を設置した私立大学は増加しています。
(しかも、どこも英語+現代文の試験、かつ偏差値40以下で入れるところがほとんどです)

教員志望者が減少(免許取得者も減少)し、潜在的な免許所持者を駆逐し(免許更新制)、新規取得者の学力が低下している状況において、採用試験だけをどう変えても状況好転に寄与するとは思えません。

「やり甲斐」という言葉で誤魔化してきたこれまでの不法行為をきちんと反省し、労働法規の適正な適用など社会の当たり前を教育現場にも導入し、ほかの職業と同じ基準で比較をできるようになることが、人材確保に必要な第一歩なのではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?