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笑い飯「月5千円で通える塾」は理想でもなければ美談でもなく、地域の教育水準を低下させる可能性すらある


笑い飯、哲夫が経営する塾

先日、Abemaニュースで笑い飯の哲夫氏が経営する塾が話題になってました。塾などの教育費が高騰する中で、貧しい家庭の子供にも教育機会を与えることを目的として塾を立ち上げたという話のようです。

この塾の特長の一つは、その料金が一般的な塾と比べて非常に安いことだ。料金は月1万5千円~1万6千円ほどに設定されているが、大阪市の塾代助成制度を利用すれば実質5千円~6千円で通うことも可能だ。
(中略)
 芸人を志す前から教育に関心があった笑い飯・哲夫は、経済的な事情で塾に通えない子どもの存在を知り、行動を起こす。彼の理想は「ある程度みんなが“そこそこ賢い層”に育っていくこと」。そのためには格安の塾を提供したいと考えるようになった。そして、2012年、M-1グランプリの優勝賞金を元手に大阪で格安塾の経営を始めた。

この話を読む限りでは彼の志の高さは称賛されるべきものであるし、美談と言って差し支えない内容でしょう。

しかし、果たして本当に美談で済ませてよいのでしょうか。私にはこの記事には決定的な視点が欠如しているように感じます。

決して美談ではない

確かに貧しい子供たちに教育機会を提供すること自体は間違いなく称賛されるべき行動です。

しかし実際にはそう簡単な話ではありません。

補習塾の場合、中学生にもなれば通常は週2~3回の通塾に対して2万円を超える月謝を払うのが相場です。ところがこの笑い飯の塾は中学生のフリーコースの場合、月額で2万円となっています。週何日通っても2万円というのは破格の設定です。

大阪市内、淀川区に所在しながらこの価格は明らかに利益を度外視した金額です。そしてそれを可能にしているのは笑い飯の哲夫氏が本業で生計を立てており、塾事業に関して収益性を無視することができるからです。

こうしたダンピング行為が行われると、周囲の塾は価格競争に巻き込まれることになります。その結果、地域の教育リソースは損なわれるか、場合によっては塾事業を閉業する事業者も出てくるでしょう。

そうなれば結果として地域の教育水準が下がり、当初の目的を損なうことも考えられるのです。

高齢者の経営する定食屋

こうした現象は日本の方々に見られる現象です。よくあるのは高齢者が経営する飲食店です。いわゆる大盛を売りにするような定食屋などがその例になるでしょう。

こうした店舗では高齢者が年金や家賃収入で生計を立てており、店舗経営で生計を立てる必要が無いため、周囲の基準よりもかなり低い価格設定で食事の提供を行っています。

そうすると、店舗で収益を上げる必要のある事業者は価格競争に負けて撤退し、その地域には飲食店がほとんどない状態となります。ところが飲食店での調理業務は負荷の大きい肉体等労働であるため、高齢者が持続的に業務に従事することは難しく、数年で廃業を余儀なくされます。その結果、地域の飲食店が根こそぎいなくなり、町が衰退する要因の一つになっていきます。

健全に利益を得る重要性

今回の笑い飯の塾事業に関して、善意で始めたその志を否定するつもりはさらさらありません。しかし、それは現実を無視した夢物語の世界の話です。

現実の資本主義社会においては健全に利益を得ることが持続性を担保し、品質の維持、そして利用者の利便性に繋がるということを忘れてはいけないでしょう。

例えば、今回のこの事例が塾に行きたくとも通うことができない過疎地の場合であればまた話は別になります。そうしたところには民間の塾は進出してくることがないため、ダンピングとはならないからです。

ところが今回の事例の場合、明らかに利便性の高い都心部でそれを行っているために問題なのです。

学習塾は地域の教育インフラを支える存在でありながら、同時に営利企業でもあります。適切な競争環境を維持することが持続的なサービスの提供に繋がり、それこそが地域住民の利益に繋がるのではないでしょうか。

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