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TSMCの進出は「熊本大学が75年ぶりに学部組織を開設する」ほどのインパクト

九州、特に熊本ではTSMCの進出による未曽有の好景気に沸いています。

TSMCの半導体工場が新設される菊陽町や隣接する合志町では不動産価格や賃料が急激に値上がりしています。

熊本地震による復興事業がひと段落した中で、地域経済を再度ブーストするきっかけになっています。

そんな中で、地元大学にも大きな影響があるようです。

熊本大学が75年ぶりに学部組織を開設することが発表となっています。

熊本大学が新学部を開設するという異例の事態

熊本大学は九州の中でも比較的歴史の古い大学です。

大学のHPなどでも、第五高等学校から続く伝統をアピールしていますし、熊本大学のキャンパスの門は通称赤門と呼ばれる赤煉瓦の門が明治時代から残っています。

それ以外にも、キャンパス内には記念館や、教鞭をとっていた夏目漱石やラフカディオ・ハーンの像が設置されているなど、歴史と伝統を重んじる学風があります。

私が熊本大学に入学した当時も、入学時の学部別の説明会において「旧制五高の伝統を受け継ぐ理学部」という言葉を学部長が使っていました。

また、1949年の新学制以降、新学部を一度も設置しておらず(正確には1979年に法文学部を法学部と文学部に分離)、学部体制を戦後75年にわたって堅持し続けてきました。

これは新設学部を多数設置した長崎大学とは対照的な学風です。

それほどの歴史と伝統を重んじる大学が、半導体関連産業人材の育成という目的で学部組織を設置するということは、TSMCという企業の巨大さやその影響力の強さが表れています。

新学部組織は「情報融合『学環』」

熊本大学は会見で、文理融合型の「情報融合学環」をつくると発表しました。

主な教育内容はDX(デジタルトランスフォーメーション)やデータサイエンスということです。

その上で、情報融合学環のなかに半導体専門のコースを設置して、データを用いた半導体製造過程の最適化や品質管理などに携わる人材の育成を目指すようです。

これだけを見ても、明らかにTSMC進出からの影響での設置と分かります。

ところで気になるのは、『学環』という呼称です。

あまり聞きなれない組織名ですが、これはどういったものなのでしょうか。

『学環』という組織

全国に目を向けると、静岡大学2016年に『学環』という組織名で学部改組を行っています。

東京大学にも『学環』という組織はありますが、教員が所属する、という使い方を行っているようですので、より類似性の高い静岡大学を例として取り上げます。

静岡大学では以下のように説明しています。

静岡大学地域創造学環(以下、学環)とは、静岡大学全体が有する教育研究資源を柔軟にかつ最大限に活用して、従来の学部の枠組みを越えることを可能にした新たな教育プログラムのことです。  
 平成28年4月よりスタートした、このプログラムでは、静岡大学の全ての学部(人文社会科学部、教育学部、情報学部、理学部、工学部、農学部)の授業を履修することができます。幅広い教養と高い専門知識を身につけながら、積極的に地域(フィールド)に飛び出して学んでいくことが学環の大きな特徴です。地域が抱える様々な問題と向き合い、その解決策を地域の人々と考えながら、より魅力的な地域社会の創造に取り組むことができる人材を育成します。

静岡大学 地域創造学環 学環とは

基本的には学部横断型の組織であり、「情報系学部+文理融合」をテーマにした学部と言えそうです。

現時点ではプレス発表の表面上のことしか読み取れませんので、今後の追加情報を待ちたいと思います。

一企業が与えるインパクトと外圧でしか変われない国

今回のTSMCの進出は地域経済や教育に与える大きな黒船になったことは間違いないでしょう。

こうした時代に合わせた素早い変化自体は望ましいものです。

しかし、同時に感じるのは、日本人や日本という国はつくづく内発的な変化を起こすことが苦手な民族であり文化だということです。

明治維新はその比喩通り黒船来航、第2次大戦後はアメリカ文化の押し付けにより社会が大きく変化しました。

今回のTSMCもその例に倣うのならば、今後もっと大きな波が期待できそうです。

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