「マイナンバーカードの普及を学校に頼る」という安直な考えは教員の業務を圧迫する
マイナンバーカードの普及が急ピッチで進んでいます。
その中で以下のようなニュースが報道されていました。
どうやら政府が都道府県の教育委員会に対し普及促進に協力するよう呼びかけていたという文書を配布していたことが発覚したようです。
マイナンバーカード制度には賛成の立場
私自身の立場としては、マイナンバーカードという制度やそれが大きく普及することは賛成です。
公的手続き、税金、医療などでマイナンバーを広く使うことができれば面倒な手続きが不要になるからです。
個人情報などの心配をしている人もいるようですが、私自身はそれほど不安には感じていません。
そもそも、一個人の情報で金銭的な価値を持つものは少ないですし、それをわざわざ手間とコストをかけて探す人はそう多くはないでしょう。
したがって、今回のニュースにあるように関係機関に連絡をして周知をすること自体に関して本来は反対をするつもりはありません。
学校は政府広報機関ではない
現在の公立学校は教育委員会制度から成り立っています。
教育委員会は政府や地方自治体、首長から独立した存在であり、これによって公的教育機関は政治的圧力を受けにくい形になっています。
これは戦前の教育制度の反省によるもので、党派性や政治的バイアスのかかった教育を可能な限り排除することを目的としています。
今回のマイナンバーに関しては反対する人が一定数存在します。
(理解はしますが、まったく共感はできません。)
こうした意見や評価の分かれる政府の政策の後押しを学校が行うのは、教育の独立性を損なう可能性が高いのではないでしょうか。
教育委員会制度の改正まで考えるべき
こうした政府広報を行わせたいと思うのならば、そもそもの教育委員会制度を改革すべきです。
現行の教育委員会制度も、平成27年度に改正され議会の承認を受けて教育長を首長が直接任免するなど、政治や自治体の意向が表れやすい制度とはなっています。
とはいえ、月に数回の定例会の開催が原則であるなど、その意思決定のスピード感は現代には即さない形になっているのも事実です。
今回のような政府広報の肩代わりまでさせるのならば、そうした教育委員会の在り方や教育の独立性までを議論すべきでしょう。
特に、近年は極東情勢が不安定であり、防衛安全保障に関して教育の在り方を考え直すのであれば、なおさら例外的な扱いではなく原理原則を変えるべきでしょう。
教員の業務負担を増やすだけ
また、あまり知られてはいませんが、こうした細かいチラシの配布や広報は教員の業務負担となっています。
今回のビラ一枚を配るだけならばそれほど負担にはなりませんが、こうしたビラは毎日のように学校に持ち込まれます。
それらを配ることができるか、配らないかを選別し、クラスの人数分に仕分けをし、それらを実際に配り、さらには配ったあとのクレームを受けるところまでが業務となります。
正規の業務だけでも問題になっているのに、政府広報という本来は業務に当たらないことで負担が増えていては救いようがありません。
学校は「何でも屋」ではない
学校は「教育」という美名の下に多くの業務を押し付けられがちです。
また、学校関係者や教員自身がそうしたお節介を率先して行う傾向があります。
しかし、そうやって増大した負担が通常業務を圧迫し、現役教員は心を病み、教壇を去り、学生は教職を避ける自体となっています。
学校に雑務を押し付け、「何でも屋」という便利な道具として使い倒してきたツケを払う時期が来ていて、その負債が現実に表出しているのが教員採用試験の受験者現象と低倍率だと思うのです。