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全国学力調査に「義務教育の体をなしていない可能性」切り捨てる丸山知事の見識の浅さ


丸山知事の発言

島根県の丸山知事が全国学力調査の算数の結果に関して「日本の義務教育の見直しが必要」という見解を発したニュースを見かけました。

元記事によると「椅子4脚の重さが合計7キロあった場合のこの椅子48脚分の重さ」を問う問題を例に挙げて

「日本の45パーセントの小学生が解けてない。これに危機感は覚えませんか。我が国の義務教育は、もうあの義務教育の体をなしてない可能性があるってことをこの数字は示している」

との発言をしたようです。

このことに関して考察をしてみたいと思います。

問題の内容に関して

この問題は「令和5年度調査 全国学力・学習状況調査」の小学校算数の問題の大問1の(3)の問題です。

いす4きゃくの重さをはかると、7kgでした。このいす48きゃくの重さは、何kgですか。

という問題であり、通常は比例式などを利用すると考えられます。

仮にそうした知識の無い児童であっても、数えていけば計算することも可能でしょう。

しかし、この問題には実は答えだけを聞く問題ではないのです。

求め方を式や言葉を使って書きましょう。また、答えも書きましょう。

ちなみに採点基準は説明と解答、セットで正答となります。

(正答の条件)
次のA又はBのいずれかで、それぞれA①、A②の全て又はB①、B②の全てを書き、答えを84と書いている。
A 48脚が4脚の12倍であることなどを求め、椅子の数が12倍になると重さも12倍になることなどを用いて、48脚のときの重さを求めている。
A① 48脚が4脚の12倍であることなどを求める式や言葉
A② 椅子の数が12倍になると重さも12倍になることなどを用いて、48脚のときの重さを求める式や言葉
B 1脚当たりの重さを求め、1脚当たりの重さを用いて、48脚のときの重さを求めている。
B① 1脚当たりの重さを求める式や言葉
B② 1脚当たりの重さを用いて、48脚のときの重さを求める式や言葉

令和5年度全国学力・学習状況調査 解説資料

この条件で正答までたどり着いたのが55%というのはそこまで悲観するようなものではないように思います。

実際、令和3年度の調査で「500mを歩くのに7分間かかることを基に、1000mを歩くのにかかる時間を書く。」という問題が出題されていますが、これは解答のみを求める問題で86.8%の正答率を示しています。

導出過程を書けなかった率が正解を求められた児童のうちの1/3であるという状況は十分に想定の範囲内です。

したがってこの結果だけを見て「義務教育の体をなしてない可能性」とまでは言えないように思います。

首長は教育の門外漢

自治体の長である首長は教育を管轄する権限を持っています。

しかし、教育の専門家でないのも事実です。

話題になっている島根県の丸山知事は元総務官僚ということで教育畑ではないようです。

彼の判断は自身の受けた教育経験に基づく部分も多いように見えます。福岡県出身、久留米附設高校(九州トップの進学校)から東京大学法学部と誰しもがうらやむようなエリート街道を歩んでいます。

彼の常識観で言えば、このレベルの比例計算の問題は自明なのかもしれませんが、決して極端に悪い結果ではないように感じます。

教育に関しては誰もが物言える空気感

教育に関して個人として一家言持つことは決して悪いことではありません。

教育現場や実態、教育技術や発達段階などの知識なしに教育を語る人は数えきれないほど多く、その人たちは各々が自分こそが正解を知っているような言いぐさで語る傾向が強いようです。

毎日教育を受けたからといって、教育の専門家になったわけではありません。しかし、教育はそうした勘違いを起こしやすい分野のようです。

毎日米を食べても米農家に説教をしたり、毎日パンを食べてもパン職人にしたり顔で語る人は(ほとんど)いませんが、教育はどうやら異なるようです。

首長や政治家はその影響力を自覚すべき

そしてそれは首長や政治家にも同じ傾向が見えます。

別に彼らがそうしたことを口にすることを否定はしませんが、影響力のある自治体の長などはその影響力を磁化する必要はあるように感じます。

特に、実効性のある権力と結びついている以上、芸能界のご意見番が教育を語るのとは全く異なる事情であることを理解しておく必要はあるでしょう。

もちろん教育界や学校現場には問題が山積みしていますし、学力低下は憂慮される深刻な問題の一つです。

しかし、だからこそエビデンスベースで議論を行うべきなのではないでしょうか。

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